
書籍名
岩波講座 世界歴史 第4巻 南アジアと東南アジア ~15世紀
判型など
310ページ、A5判、上製
言語
日本語
発行年月日
2022年5月27日
ISBN コード
9784000114141
出版社
岩波書店
出版社URL
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『岩波講座 世界歴史』第3シリーズの第4巻となる本書は、最初期から15世紀までの南アジア・東南アジアの歴史を対象としています。第1部の「展望」では、南アジア世界・東南アジア世界のそれぞれが形成され、発展する歴史的過程について通史的に叙述するとともに、近年の学説・研究成果の紹介に努めています。続く第2部の「問題群」では、早熟の帝国であるマウリヤ朝からサンスクリット王権であるグプタ朝を経て、地域国家の形成に至る前近代南アジアにおける国家形成の進展、インド洋・南シナ海の交易ネットワークの展開に伴う東南アジア海域世界の発展、南アジア・東南アジアをまたいで拡大した、サンスクリットを政治的発話の言語として共有する文化圏であるサンスクリット・コスモポリスと、それに対抗して発達・展開したパーリ・コスモポリス、海陸双方におけるムスリムの活動とそれによるイスラームの拡大という、長期的な歴史変化と関わる問題を取り上げ、論じています。それに対して、第3部の「焦点」では、南アジアと東南アジアそれぞれの初期文化、東南アジアの古代国家、南アジアの女神信仰とジェンダー、アンコール朝の王権と外交、インド洋海域史と南インドなど、時代とテーマについてより限定された問題を扱っています。いずれについても、現在の日本の南アジア・東南アジア史研究における最高水準の執筆者による、最新の研究成果に基づく論考になったものと認識しています。
私が執筆を担当した展望「南アジア世界の形成と発展」では、現生人類到来の最初期から15世紀に至る南アジアの歴史を、多様な地形とモンスーン周期との連関によりもたらされた多様な生態環境において、様々な生業を営む人間集団どうしの相互作用により展開する歴史として、特に定住農耕社会の非定住社会への拡大によって生じる両社会の境域である「内なるフロンティア」と、海陸における隣接地域との境域である「外なるフロンティア」に焦点を当てて記述することを試みています。この背景には、植民地期から現在に至る南アジア史研究の変遷があります。南アジアの歴史変化を外部からの刺激のみに帰する植民地主義歴史叙述に対抗して、民族主義歴史叙述およびマルクシスト歴史叙述は内在的要因による歴史変化の説明を試みました。私自身も後者に近い立場から中世初期ベンガルの歴史を研究してきましたが、近年、外的要因を考慮する必要も強く感じていました。南アジア社会の主体性を否定する植民地主義に回帰することなく、外部からの要因も十分に組み入れて歴史変化を叙述する上で必要だったのが、内外のフロンティアという場を想定し、そこで交錯する人々の行為主体性と相互作用を重視する視点でした。この試みがどこまで成功しているかは、読者の皆さんにご判断いただきたいと思います。
(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 古井 龍介 / 2024)
本の目次
展望|Perspective
南アジア世界の形成と発展……古井龍介
はじめに
一、原史から歴史へ
二、ガンジス流域の国家形成からマウリヤ帝国へ
三、相次ぐ外来勢力の到来とインド洋交易
四、グプタ朝による北インドの統一と地域勢力の成長
五、中世初期地域王権の成立と地域社会の形成
六、イスラームの展開と在地文化との交流
おわりに
東南アジア世界の形成と展開……青山 亨
はじめに
一、初期国家形成とインド化
二、七世紀以降の初期国家の形成
三、九世紀― 一○世紀の転換期以降の国家群
四、一五世紀以降の東南アジア
おわりに
問題群|Inquiry
南アジアにおける国家形成の諸段階……三田昌彦
はじめに
一、マウリヤ帝国??早熟な巨大帝国とその構造
二、グプタ帝国――サンスクリット王権の形成
三、中世初期の地域国家統合プロセス
四、国家形成から見た一○ ― 一三世紀の歴史的特質
インド洋・南シナ海ネットワークと海域東南アジア……鈴木恒之
はじめに
一、海のシルクロード
二、シュリーヴィジャヤ王国
三、シャイレーンドラ朝
四、三仏斉・ムスリム商人
五、チョーラ朝の海峡域進出と中国商人の活動
六、マジャパヒト王国
七、イスラーム化の始動
おわりに
サンスクリット語とパーリ語のコスモポリス……馬場紀寿
はじめに
一、サンスクリット・コスモポリスの成立
二、サンスクリット仏教
三、サンスクリット語を越える仏教
四、スリランカの大寺派と大乗
五、パーリ・コスモポリス
南アジアにおけるムスリムの活動とイスラームの展開……二宮文子
はじめに
一、ムスリムの南アジア進出とムスリム王朝の展開
二、デリー・サルタナト時代のムスリム社会とイスラーム
三、デリー・サルタナト支配と非ムスリム
四、南アジアにおける宗派認識とムスリム
五、デリー・サルタナト時代の文化
焦点|Focus
南アジアの古代文明……小磯 学
一、インダス文明とは
二、古環境
三、編年的枠組みと遺跡分布
四、都市――外見的特徴
五、インダス式印章と信仰、文字
六、交易活動と交易品
七、葬制
八、文明社会の実態
ドンソン文化とサーフィン文化――東南アジアの鉄器時代文化……山形眞理子
はじめに
一、ドンソン文化とサーフィン文化を取り巻く歴史的環境
二、金属器文化の土着の発展
三、ドンソン文化とサーフィン文化の在地社会
四、鉄器時代の広域ネットワーク
五、鉄器時代の多様な甕棺葬
おわりに
東南アジアの古代国家……田畑幸嗣
はじめに
一、長い助走期間
二、扶南をどう捉えるか
三、扶南と真臘
おわりに
女神信仰とジェンダー……横地優子
はじめに
一、女神たちの三階層化
二、〈戦闘女神〉の成立とその最高神化
三、母神群、七母神、ヨーギニーたちと〈死の女神〉
四、南アジアの女神信仰とジェンダー
アンコール朝の揺れ動く王権と対外関係……松浦史明
はじめに
一、アンコール朝の創始と王権の確立
二、挑戦を受ける王権、変容する国のかたち
三、広がる版図、開かれる王朝
四、アンコール朝の崩壊とその後
おわりに
インド洋海域史から見た南インド……和田郁子
はじめに
一、モンスーン航海の発展と南インド
二、海が育んだ沿岸部社会の多様性
三、インド洋交易の展開と南インドの諸王朝
おわりに
コラム|Column
ガンダーラ美術と大乗仏教……宮治 昭
中世日本の世界観と天竺……応地利明
バガン王国と仏塔……伊東利勝
カンボジア人保存官を育てて三五年――アンコール・ワットの修復現場から……石澤良昭
世界を駆け巡るインドの綿織物……鎌田由美子
関連情報
インタビュー 28 古井 龍介 (東洋文化研究所ホームページ)
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/interview/28.html
書評:
丸井雅子 評 (『東南アジア―歴史と文化―』第52号, pp. 84-88 2023年7月5日)
https://www.jsseas.org/%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E8%AA%8C%E3%80%8E%E6%9D%B1%E5%8D%97%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E2%80%95%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E6%96%87%E5%8C%96%E2%80%95%E3%80%8F%E6%A1%88%E5%86%85/%E7%B7%8F%E7%9B%AE%E6%AC%A1/
講座・講演会:
綜合仏教研究所特別講座 (全7回)『史料から見る南アジア古代・中世初期史』 (大正大学 2024年5月8日~11月6日)
https://www.tais.ac.jp/library_labo/sobutsu/blog/20240417/86813/
合評会『岩波講座世界歴史第4巻_南アジアと東南アジア~十五世紀』 (上智大学アジア文化研究所 2023年7月9日)
https://dept.sophia.ac.jp/is/iac/news/docs/news20230602_555111634.html