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水色と白の表紙

書籍名

平凡社新書 923 信長家臣明智光秀

著者名

金子 拓

判型など

234ページ、新書

言語

日本語

発行年月日

2019年10月

ISBN コード

9784582859232

出版社

平凡社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

信長家臣明智光秀

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2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」は、明智光秀が主人公でした。どの大河ドラマ作品もそうですが、主人公をめぐる関連書籍がいつもおびただしく出版されます。本書もそのうちの一冊ではありますが、かなうならば大量の関連書籍に埋もれないようにしたいと思って執筆をしていました。
 
わたしは史料編纂所において、『大日本史料』という編年史料集の編纂を職務としています。なかでも担当する時代は、大雑把に言えば、織田信長が政治の実権を握っていた時期にあたります (第十編という編目です)。現在は天正三年 (1575) の史料集編纂を進めており、ちょうど5月21日に起きた長篠の戦いに関わる史料集刊行を間近にしています。明智光秀は長篠の戦いに参陣しなかったものの、この直後信長家臣としての彼の主要な任務となった丹波攻めを命ぜられるような時期にあたります。
 
新書ではありますが、本書では、できるだけこうしたわたし自身の仕事を進めるなかで身につけた手法、つまり良質な史料を正確に読み解いて、そこからわかることを積み上げてゆくというやり方に忠実に、明智光秀の生涯を追いかけようとしました。
 
もっとも、よく知られているように、光秀が信長に仕える以前の前半生は史料が少なく、謎に包まれています。そこを明らかにすることもひとつの重要な目的になりますが、本書ではあえて前半生には触れず、史料が多くなる、信長に仕えるようになってからの光秀の活動を詳細にみてゆくことにしました。書名に「信長家臣」とあるのはそういう意味です。
 
各章の構成はだいたい時間を追って述べています。ただしあいだに二章分、時間経過とは切り離して、光秀の人間性がわかるような切り口で史料を読んだ章を挟みました。第三章では、光秀と仲のよかった公家吉田兼見の日記を軸に、兼見との交友から見える光秀の姿を、第四章では、光秀が出した書状のうちいくつかを読んで、そこからうかがうことのできる光秀の人物像を描き出そうとしました。光秀の書状からは、相手の病気やいくさでの怪我を気づかうものが特徴的で、そこからは、光秀が死・負傷・病気などに人一倍敏感であったのではないかと推測しました。
 
この折り返し点の二章を挟んだ後半の第五章・第六章では、光秀の丹波攻めと、いわゆる「本能寺の変」を取りあげています。光秀の丹波攻めについても、関係する史料を読みこんで、なぜ光秀が丹波攻めを任されたのか、その理由を手始めに、丹波攻略の段階を丁寧に跡づけました。本能寺の変についての結論はここでは書きませんが、これまで俗説とされていた記録についても、もう一度真面目に向き合い直しました。
 
史料編纂所にて史料研究に携わっている者が光秀について書くとこういう本になる、という内容になったのではないかと思っております。

 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 金子 拓 / 2021)

本の目次

はじめに
第一章 織田信長と足利義昭のはざまで
第二章 「天下」を維持する
第三章 明智光秀と吉田兼見
第四章 明智光秀の書状を読む
第五章 明智光秀と丹波
第六章 織田信長殺害事件
おわりに

関連情報

書籍紹介:
明智光秀の実像を描く 金子拓『信長家臣明智光秀』 (じんぶん堂 / 好書好日 2020年1月10日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/13017552
 
書評:
明智光秀と織田信長に見る、ワンマン上司が越えてはいけない一線 ~『信長家臣明智光秀(金子 拓 著)』を読む (DIAMOND Online 2020年1月18日)
https://diamond.jp/articles/-/226167
 
本郷和人 評「謎めいた人物の生涯に高度な実証史学で肉薄」 (ALL REVIEWS 2020年1月5日)
https://allreviews.jp/review/4015

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