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ジャック=ルイ・ダヴィッドの作品「ザー テニス 裁判所 誓い」の絵

書籍名

Cultural Histories Series (Volume 1-6) A Cultural History of Democracy in the Age of Enlightenment Volume 4: A Cultural History of Democracy

著者名

Eugenio F. Biagini (総監修)、Michael Mosher and Anna Plassart (編)

判型など

279ページ

言語

英語

発行年月日

2021年5月6日

ISBN コード

9781350042933

出版社

Bloomsbury Academic

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

A Cultural History of Democracy in the Age of Enlightenment

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『デモクラシーの文化史 A Cultural History of Democracy』は古代から21世紀までを網羅する全6巻からなる大著である。卓越した歴史家E. F. Biaginiを総監修者とし、66名の執筆者がデモクラシーを、その社会・文化的側面に焦点を合わせつつ、歴史的に解明するという課題に取り組んだ。本書は、デモクラシーを広く捉え、人民の参加と自由を極大化するよう、社会の政治システムを組織しようという指向とみなしている。具体的に述べるなら、本書はデモクラシーを支える複数の鍵概念―主権、自由、共通善、経済的・社会的民主主義、宗教、政治的責務、ジェンダー、エスニシティ、危機と抵抗、国際関係、市民権の変容など―を抽出し、各巻がこれらのテーマを共有するという手法をとる。
 
今回紹介するのは、その第4巻『啓蒙の時代のデモクラシーの文化史』(A Cultural History of Democracy in the Age of Enlightenment) である。私はその第2章「自由と法の支配」(Liberty and the Rule of Law) を執筆した。啓蒙の時代とは、おおむね1650-1800を指す。イングランド内戦、名誉革命、アメリカ革命、フランス革命など、デモクラシーの政治史において重要な位置を占める時期である。この時期に開花したいわゆる「啓蒙思想」が次の諸世紀をかけて樹立された近代の自由民主主義体制にいくつかの本質的なアイデアを提供したことはよく知られている。しかしながら、第4巻が扱う大半の時期において、すべての成人市民が完全な参政権を享受すべきであるという意味での民主政は男性市民に限ってもまだ成立しておらず、専制政治を厳しく批判した者の中にも、狭義のデモクラシーに懐疑的な見解を示す者は少なくなかった。啓蒙の時代の思想家や政治家や革命家が夢見た政治体制は多種多様であり、それらを現代の民主主義の成立過程の一齣にすぎないとみなすような単線的歴史観はいただけない。第4巻の編者であるM.モシャー (M. Mosher) とA.プラサート (A. Plassart) および執筆者は、デモクラシーについての多層的な論議をていねいに追跡することで、デモクラシーとは何かについて大胆な見直しを行った。
 
私が担当した第2章は、自由という重要概念をめぐる論争に光を当てた。好きなことを行うのが自由なのか、あるいは法が許すことを行うことが自由なのか? 利害や意見の対立や抗争は、自由な国家にとって必要なのか、あるいは害悪なのか? 平等は自由の味方なのか敵なのか? こうした理論家たちの熱い論争と並行して、自由という概念は、人々の想像力を刺激し、さまざまな文学的表現や視覚的表現を生み出した。モンテスキューは、その私的な覚書において、自由な体制を、魚が自分が実際にはそこに捕らえられているにも関わらず自分は自由であると考えるほど大きな網になぞらえた。これは、彼が古代の中国哲学から着想を得た詩的な一節である。また、この時期には、本の口絵や政治パンフレットにおいて、しばしば自由の女神像が描かれた。通常、女神とともに、自由の支配を象徴する笏、奴隷からの解放を象徴するフリギア帽、我が道を行く者を象徴する猫の三点が描かれたが、フランス革命の勃発とともにきまぐれな猫が省かれることが多くなる。革命の自由観をよく示すものである。
 
現在のデモクラシーを人類が到達した最良の政治制度であるとみなし、それに満足してしまえば、われわれにさらなる進歩はない。デモクラシーの未来を考えるためには、その複雑で豊かな歴史を学ぶことに大きな意義があるのではないか。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 川出 良枝 / 2021)

本の目次

TABLE OF CONTENTS (Volume 4)
 
Introduction (序論)
Michael Mosher and Anna Plassart
 
1 Sovereignty (主権)
Daniel Lee
 
2 Liberty and the Rule of Law (自由と法の支配)
Yoshie Kawade
 
3 The Common Good (共通善)
Rebecca Kingston
 
4 Economic and Social Democracy (経済的・社会的デモクラシー)
Alexander Schmidt
 
5 Religion and the Principles of Political Obligation (宗教と政治的責務の原理)
Niall O'Flaherty
 
6 Citizenship and Gender (市民権とジェンダー)
Dorinda Outram
 
7 Ethnicity, Race, and Nationalism (エスニシティ・人種・ナショナリズム)
Inder S. Marwah
 
8 Democratic Crises, Revolutions, and Civil Resistance (民主政の危機・革命・市民の抵抗)
Michael Mosher
 
9 International Relations (国際関係)
James Stafford
 
10 Beyond the Polis (ポリス (都市国家) を超える)
Joanna Innes
 
NOTES (註)
 
REFERENCES (参考文献)
 
NOTES ON CONTRIBUTORS (執筆者一覧)
 
INDEX (索引)
 

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