東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

植物のイラストと医学書

書籍名

医学・科学・博物 東アジア古典籍の世界

著者名

陳 捷 (編)

判型など

456ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年2月

ISBN コード

978-4-585-20072-7

出版社

勉誠出版

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学内図書館貸出状況(OPAC)

医学・科学・博物

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日本の古典籍は中国や朝鮮半島の文化を受け入れつつ誕生し、その後も中国・韓国などとの文化的接触によって様々に変化・発展を重ねてきた。そのため、日本の古典籍の特質を把握する際には、東アジアの書物文化に対する理解が大変重要であり、それを十分に理解しなければ、東アジアの書物文化の関係性の中において、認識すべき重要な事実が見逃されてしまう恐れが多分にある。また、日本の古典籍は中国・韓国の書物文化と多くの共通点を有すると同時に、日本の社会・文化環境のなかで独自に発展してきた歴史を持っており、多くの独特な特徴をも有しているため、東アジアの古典籍の世界を考える際には、日本の古典籍の特質も十分に考慮しなければならない。しかしながら、現在の学術体系においては、研究範囲が国や地域ごとに区分されることが多いため、東アジアの古典籍の研究も、それぞれの国や地域を研究対象とする、異なる専門分野において行われており、その境界を越えるのはなかなかに難しいことではないかと思われる。特に、近代以降においては、人文社会系の学問と自然科学系の学問とが大きく分離してしまったことに伴い、学問の全体像を把握することが困難となってしまっているのである。
 
このような考えのもと、多分野の学者たちと「アジアの中の日本古典籍―医学・理学・農学書を中心として―」をテーマとする共同研究を実施し、中国・韓国・琉球・ベトナムなどの書物文化と比較しつつ、その成立・流通・享受などの過程における諸問題を考察し、内容と形態の両面から日本の古典籍の特徴について再検討した成果の一つが本書なのである。
 
本書第一部「医学」では、日・中・韓とベトナムの医書と医学書籍の交流をめぐっての論文7篇を収録し、第二部「科学」においては、天文・暦算学・地理学などの、西洋の科学知識の受容および地図・名所絵の作製に関する4篇の論文が収録されている。第三部「博物」においては、日本・中国の博物学・本草学の知識に関する4篇の論文を収録し、第四部においては「人と書物」として、作者および書写・出版・収蔵・享受といった、書籍の生産と流通に関する4篇の論文を収録した。
 
論文集を企画する際には、東アジアの古典籍と日本の書物文化との関係を強く意識し、人文科学および医学・科学・博物学などの多分野に跨る古典籍の研究を目指したため、執筆者各自の専門分野を超えて、日本の古典籍の特徴および東アジアの古典籍の全体像を考慮しつつ論文を執筆して頂くこととなった。各自の論文は専門分野における新たな知見を提示すると同時に、書物の成立、抄写と出版、収集と享受など、東アジアの古典籍に関する共通する問題へのアプローチや、人と書物の移動と交流とに伴う知識と情報の伝達など、国・地域・専門分野を超えた、新たな視点からの考察を提示したことも、本書の特徴の一つと思われる。以上のような観点のもと、これまで総合的に論じられることのなかった、東アジアにおける情報伝達と文化交流の世界を、地域・文理の枠を越えて考究することを試みたが、本書を契機として、より多くの方々とともに本研究を更に進展させることを祈念している。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 陳 捷 / 2023)

本の目次

第一部 医学
日中韓越の医書流通と医学体系の形成 真柳 誠
『福田方』『悲田方』の構成と復元の可能性 浦山きか
日本における中国舌診書『敖氏傷寒金鏡録』の受容 梁 嵘(黄 昱 訳)
東アジア伝統医学の真髄―朝鮮許浚の『東医宝鑑』 朴 現圭(黄 昱 訳)
国立公文書館所蔵の朝鮮通信使の医学筆談 梁 永宣・李 敏(小野泰教 訳)
崔漢綺が読んだ西洋医学書―Hobson(合信)の医書と崔漢綺の『身機践験』 金 哲央
清末の漢文西洋薬学書におけるアヘンの記述について 小野泰教

第二部 科学
『新製霊台儀象志』の受容 吉田 忠
テキストの鏡影―抜粋本と清初の暦算学 祝平一(高津 孝 訳)
18世紀朝鮮の実学者洪大容の『劉鮑問答』―西洋科学知識受容の一断面 任 正爀
葛飾北斎『唐土名所之絵』と中国地図の受容 大澤顯浩

第三部 博物
経学註釈と博物学の間―江戸時代の『詩経』名物学について 陳 捷
近世中国知識人の博物学の再構築―方以智『通雅』と『物理小識』を中心に 廖 肇亨(千賀由佳 訳)
交錯する視線―南西諸島の博物学 高津 孝
青蒿と黄花蒿の名物学的研究―ラテン名比定の問題を中心に 久保輝幸

第四部 人と書物
平賀源内伝の再検討―『平賀実記』を中心に 福田安典
洋学者・柴田収蔵と江戸の本屋 平野 恵
近世後期における地方知識層の書物交流―伊藤忠岱の書写活動を中心として 清水信子
医籍専売書肆英蘭堂島村利助について 鈴木俊幸

あとがき

執筆者一覧
 

関連情報

著者インタビュー:
旅する書物を追って中国から日本にやって来た研究者。| UTOKYO VOICES 082 (東京大学 2020年4月23日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/voices082.html

関連情報:
国文研主導共同研究: アジアの中の日本古典籍-医学・理学・農学書を中心として- / Japanese Pre-modern Texts within a Broader Asian Context: A Closer Look at Medical, Scientific, and Agricultural Manuals  (研究期間: 平成26(2014)年4月~平成29(2017)年3月)
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/research_007.html

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