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浮世絵の女性と書物の写真

書籍名

書物・印刷・本屋 日中韓をめぐる本の文化史

著者名

藤本 幸夫 (編)

判型など

896ページ、B5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年6月

ISBN コード

978-4-585-300021

出版社

勉誠出版

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書物・印刷・本屋

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『書物・印刷・本屋 日中韓をめぐる本の文化史』は、日本・中国・韓国の書物文化、とくに民間における出版にかかわる諸事象を主な研究対象とする論文集である。
 
執筆者は35名で、専門分野は語学・文学・書誌学・歴史学・美術史学・伝統医学など多岐にわたっている。書物や出版というテーマに対する、学際的・国際的な研究の有効性が実感される。
 
本書は、第一部「書物のかたち・書物のジャンル」、第二部「印刷・活字・技術」、第三部「本屋・商業出版・蔵書」の三部構成である。大まかに言えば、第一部では書物の外形と中身とに焦点をあて、第二部では印刷という営為を中心に据え、第三部では書物にかかわる人びとが考察対象となっている。
 
各部の内容をもう少し具体的に紹介しよう。
 
第一部で取り上げられているのは、日本の書物の装訂、近世初期の出版、近世の娯楽小説の諸ジャンル、錦絵、仏教書、医学書などである。娯楽小説や錦絵を出版の観点から分析すると、どのようなことがわかるのか、ぜひ個々の論文を読んでいただければと思う。この紹介文の執筆者である佐藤至子の論文では、合巻(19世紀の江戸で流行した絵入り小説)の『三国太郎再来伝』とその改題本『現世扶桑太郎』を分析し、天保の改革下での出版統制に対して作り手がどのような自主規制をおこなったかを論じている。
 
第二部では、日本にも舶来し収蔵された宋版・元版、中世の寺院版である五山版、漢籍を日本で出版した和刻本、イエズス会が日本で出版したキリシタン版、近世初期の嵯峨本など、日本の中世・近世の書物文化史の重要事項が詳述されている。書物を介した日本と海外との交流の歴史もおのずと見えてこよう。活字や版木など、印刷の技術に関わる論文も貴重である。
 
第三部では、書物の出版と販売に携わる本屋、本屋と読者をつなぐ貸本屋、個人の蔵書家など、書物と人との関係が論じられている。東洋文化研究所の大木康教授の論文「中国書肆史考―近世を中心に」や、同研究所の上原究一准教授の論文「明末清初の坊刻における江西の位置付けについて」をはじめとする、中国の書肆や蔵書家、朝鮮の出版事情に関する論文も充実している。
 
多数の図版や表が活用されているのも、本書の特色である。対象のどこに着目し、何を読み取り、どのように結論を導き出すのか。図版やデータを見ながら各論文を精読すれば、研究者の頭の働かせ方、個々の研究のプロセスについても学ぶことができるだろう。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 佐藤 至子 / 2022)

本の目次

序文  藤本幸夫
 
●第一部  書物のかたち・書物のジャンル
 
佐々木孝浩 〈古写本〉 日本の写本―装訂を中心として
柏崎順子  〈江戸版〉 初期出版界の様相
木村八重子 〈草双紙〉 「草双紙」の史的展望
棚橋正博  〈黄表紙〉 黄表紙
佐藤至子  〈合巻〉 合巻における自主規制―『三国太郎再来伝』から『現世扶桑太郎』へ
鈴木圭一  〈中本(人情本)〉 中本一編三冊意識
石上阿希  〈春画・艶本〉 「書籍目録」にみる枕絵と好色本
大久保純一 〈錦絵〉 錦絵とは
湯浅淑子  〈おもちゃ絵〉 江戸のおもちゃ絵
鈴木俊幸  〈草紙類〉 上方の草紙類をめぐって
万波寿子  〈仏書〉 日本の仏書
鈴木達彦  〈医書〉 日本漢方の特質と日本医書
 
●第二部  印刷・活字・技術
 
住吉朋彦  〈宋版・元版〉 宋元版研究の道程
堀川貴司  〈五山版〉 五山版をどう考えるか
長澤孝三  〈和刻本〉 「和刻本」について
豊島正之  〈キリシタン版〉 キリシタン文献
林 進    〈古活字版〉 角倉素庵はなぜ出版事業を興したのか―近世初頭、草創期の古活字版
高木浩明  〈古活字版〉 古活字版から整版へ、整版から古活字版へ
森上 修   〈古活字版〉 古活字版印刷と木活字駒の彫出技法
小秋元段  〈出版史料としての反古〉 東北大学附属図書館漱石文庫所蔵古活字版『太平記鈔・音義』表紙の復原的考察
渡辺守邦  〈出版史料としての反古〉 表紙裏反古・再考
橋口侯之介 〈彫りと摺り〉 彫師・摺師から見た日本の出版形態
永井一彰  〈版木〉 板木の節
 
●第三部  本屋・商業出版・蔵書
 
鈴木俊幸  〈日本近世の本屋〉 本屋と出版―江戸時代における書籍文化の特質
塩村 耕   〈日本近世前期の商業出版〉 近世前期の出版界と西鶴
長友千代治 〈貸本屋〉 貸本屋の横顔
岡村敬二  〈蔵書・蒐書(日本)〉 蔵書家の索引、蔵版、蔵書の行方
大沼晴暉  〈蔵書・蒐書(日本)〉 田中さんのおもちゃ箱―小平市立図書館蔵本
大沼晴暉  〈日中韓の商業出版〉 日中韓坊刻本の比較研究或いは此等三か国書物の比較研究のために
大木 康   〈中国の商業出版〉 中国書肆史考―近世を中心に
大塚秀高  〈中国の商業出版〉 坊刻本と物語―口頭の物語の出版について
金 文京   〈中国の商業出版〉 明代建陽の商業出版と通俗小説
上原究一  〈中国の商業出版〉 明末清初の坊刻における江西の位置付けについて
髙橋 智   〈蔵書・蒐書(中国)〉 中国の蔵書家について
藤本幸夫  〈朝鮮の商業出版〉 朝鮮坊刻本攷
李 胤錫   〈朝鮮の商業出版〉 朝鮮朝出版における坊刻本の性格と位置
全 相昱   〈朝鮮の商業出版〉 坊刻本「春香伝」の発生とその変貌について
 
あとがき 藤本幸夫
執筆者一覧
 

関連情報

自著解説:
メールマガジン記事:自著を語る - 藤本幸夫 (日本の古本屋メールマガジン 2021年8月20日)
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7217
 
書籍紹介:
読みもの情報 (株式会社Conservation for Identityホームページ 2021年5月24日)
https://www.cfid.co.jp/2021/05/24/benseibook/

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