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パステルブルーの表紙

書籍名

書物と製本術 ルリユール / 綴じの文化史

著者名

野村 悠里

判型など

240ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年2月24日

ISBN コード

978-4-622-08565-2

出版社

みすず書房

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書物と製本術

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UTokyo BiblioPlazaをご覧になっている皆さんは、さまざまな本が並ぶ書棚を前に、知的な冒険心や探求心に満ち溢れていることでしょう。ホームページに並ぶブック・カバーには、本のタイトルが印刷され、色とりどりのイラストや写真が付けられています。今でこそブック・デザインは、本の内容に合わせて、装幀家が創意工夫を行う芸術表現の場となりました。しかし、書物の歴史を振り返ってみますと、本のデザインは必ずしも本の内容と一致するものではありませんでした。表紙の紋様や本の綴じ方に至るまで、時代や地域特有の様式があったのです。
 
本書は、金箔押しの技術が高度に発達したフランスの装幀の歴史を取り上げています。二十世紀前半に至るまで、パリの書店では仮綴本が販売され、読者は好みに応じて製本工房に注文し、革装本に仕立て直すことが行われておりました。製本職人はモロッコ革や仔牛革などで表紙を包み、箔押し職人は模様やタイトルを金箔で装飾します。本書は、フランスの伝統工芸製本として知られるルリユールを、そのルーツとなったアンシャン・レジーム期の王権の出版統制に遡って分析しています。現在では数は少なくなってしまいましたが、十八世紀の辞典によれば、二百人に近くの製本職人が暮らしていたと記されています。十七世紀後半以降、ルイ十四世の王令によって、出版業者は製本職人・箔押し職人組合と書籍商・印刷業者組合の二つに分かたれ、製本工房はパリ大学の周辺に開業することが規定されました。
 
十七、十八世紀のルリユールは、王侯貴族による庇護や王室製本師の活躍を背景に、ポワンティエやダンテル紋様の装幀様式が作られ、金箔押しが最も豪華で洗練された時期とされてきました。本書の特徴は、表紙のデザインばかりではなく、外観ではわかりにくい製本工程や箔押し道具の用途の分析を通じて、製本術の変容を分析していることです。とりわけ、王権の統制下でどのように工程が規制されていたのかを考察し、三つの製本構造を取り上げています。「真」の綴じであるヴレ・ネール、「偽」の綴じとされたフォー・ネール、その中間形態であるギリシア風のア・ラ・グレックです。合法と非合法の狭間でどのように職人たちが工夫をし、本を綴じていたのかがわかると、書棚に並んだ背表紙のデザインを見ることも楽しくなってくることでしょう。
 
さて、本書の装幀はというと、カバーは青本、赤い表紙はアマンという職人の残したダンテル紋様を採用しています。アマンは、十九世紀を代表する製本家マリユス=ミシェルに先駆けて、本の内容に合わせたデザインを作り始めたことで知られています。金箔押しは、彼が十八世紀の詩集のために装幀したダンテル紋様を、現代の箔押し技術で再現したものです。実際に本の扉を開いて、書物が辿ってきた長い歴史に思いを馳せていただけたら幸いです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 助教 野村 悠里 / 2017)

本の目次

はじめに
 
第一章 十七、十八世紀におけるルリユール -- 読者と製本 / 絵画に描かれたルリユール / 模様紙の流行 / 製本と仮綴本 / 羊皮紙装の衰退 / なめしと革製本
 
第二章 書籍商・印刷業者・製本職人組合 -- パリ大学と王権による検閲 / 組合の成立 / 箔押し親方の兼業 / 1649年の組合規定
 
第三章 製本職人・箔押し職人組合 -- 製本工房と開業の通り / 組合監督と取締り / 綴じをめぐる紛争 / 組合内部の序列化
 
第四章 製本工房における技術の継承 -- 製本工房のエチケット / パドゥルー家の製本業 / ソルボンヌの工房 / 相続人による製本工房の継承 / ドゥローム家の製本業
 
第五章 製本術の記録化 -- 『百科全書』の工程と銅版画 / 王立科学アカデミーによる編纂 / 製本術の分析 / ルモニエ家の製本業 / ゴフクールによる製本手引書
 
第六章 折丁とかがり -- 折丁を叩く作業 / 折丁の目引き / かがり台 / かがりの工程
 
第七章 本の立体化 -- カルトンの接続 / 背の裏打ち / 小口断裁 / 本を縛る作業
 
第八章 綴じの機能と装飾 -- 小口金箔 / マーブル染め / 天地の花布 / 青本に描かれた「花布編み店」
 
第九章 金箔押しによる装飾 -- 活字フェール / 表紙のデザイン / ポワンティエ装幀とフェール / ポワンティエ装幀の展開
 
第十章 箔押しデザインの発展 -- 大型本とフェール / ダンテル装幀の展開 / 金版によるダンテル装幀 / 伝統的な製本術の変質
 
おわりに
あとがき

参考文献
 

関連情報

受賞:
第39回日本出版学会賞 (2017年度) 奨励賞
http://www.shuppan.jp/jyusho/997-392017.html

第8回日仏図書館情報学会賞 (2017) 奨励賞
http://www.sfjbd.sakura.ne.jp/03_main/gakkaisho.htm
 

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