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船のイラストの表紙

書籍名

古文書の科学 料紙を複眼的に分析する

著者名

渋谷 綾子、 天野 真志 (編)

判型など

240ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2023年3月

ISBN コード

978-4-86766-004-1

出版社

文学通信

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

古文書の科学

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日本列島には多様な古文書や古記録類が豊富に残されています。歴史研究は古文書や古記録類に記された文字情報を読み解くことを基本とします。さらに、古文書学は様式や筆跡といった古文書を構成するさまざまな要素に注目して研究します。この古文書学は、文字情報に留まらず、古文書が内包する多様な歴史情報を見出すことで進展してきました。そのなかでも、用いられた紙「料紙」に注目した研究では、古代・中世期の文書を中心に、紙の材料や紙を漉く過程で生じた痕跡などから料紙の種類を特定・分類し、料紙の利用形態などを歴史的に検討します。料紙を対象とする研究は、歴史学、自然科学や製紙科学、文化財修復などの分野で行われ、現在ではさまざまな顕微鏡を用いて料紙の構造を観察し分析する調査が実施されています。さらに、文字の読み解きといった歴史学的な観点にとどまらず、さまざまな目的から情報を抽出する可能性も指摘されており、そのための調査・分析手法の検討が行われています。
 
モノとして古文書を観察することは、料紙を構成するさまざまな素材を特定することにつながります。これらの情報は、料紙の種類を判定し、その作り方や使われ方を解明する重要な根拠となり、装丁技術の復元にも活用されています。古文書から多様な情報を抽出するためには、自然科学的な手法をふまえた総合的な調査・分析手法を検討する必要があります。『古文書の科学――料紙を複眼的に分析する』は、こうした古文書研究の新たな可能性を提起し、日本だけでなく東アジア全体における歴史資料の科学研究への貢献を目指すガイドブックとして出版しました。
 
『古文書の科学』は「料紙研究の新常識の提唱」を目的として、大学や自治体、博物館、文書館、図書館など歴史資料の研究や保存・継承に従事する方がた、また料紙分析に関心のある方がたの参考になるような、いわば「古文書の科学」の案内書を目指したものです。本書に先駆けて、史料調査ハンドブック『古文書を科学する――料紙分析はじめの一歩』(https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/assets/pdf/seika2021-9.pdf) を「分析の専門家でない一般の歴史研究者が観察や撮影を行うためのガイド」として公開しました。本書はこのハンドブックの内容をふまえ、関連する共同研究プロジェクトで進めてきた研究データの共有化・連結化・国際化についても展望を示しています。本書をきっかけとして、読者の皆様が人文科学と自然科学を融合した研究への理解を深めていただければ幸いです。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 特任助教 渋谷 綾子 / 2024)

本の目次

ごあいさつ|本郷恵子
はじめに|渋谷綾子
 
第1部 古文書料紙への視点
 1 古文書研究からの視点|高島晶彦
 2 近世の古文書と料紙研究の可能性|天野真志
 3 異分野連携からの視点|渋谷綾子
COLUMN 料紙研究を語る
 渋谷綾子・貫井裕恵・天野真志・高島晶彦・山家浩樹、協力:大川昭典・富田正弘・湯山賢一
 
第2部 料紙の構造をさぐる
 第2部を読む前に|渋谷綾子・天野真志
 1 繊維をさぐる|高島晶彦
 2 添加物をさぐる|渋谷綾子
 3 DNAをさぐる|石川隆二
 
第3部 料紙から古文書を読む
 1 松尾大社所蔵史料を読む|野村朋弘
 2 陽明文庫所蔵史料による料紙研究の可能性|尾上陽介
 3 マイクロスコープで「読む」|渋谷綾子
COLUMN 典籍近世写本の調査から|小倉慈司
 
第4部 料紙研究を広げる
 1 データを記録・保存する|中村 覚
 2 史料の形態データと内容データを関連付ける――複合的史料研究推進に向けた史料情報統合|山田太造
 3 世界へひらき、つなぐ|渋谷綾子
COLUMN 紙資料の「データ解析」が持つ 変革とコラボレーションの可能性|後藤 真
 
おわりに|渋谷綾子・天野真志
用語集
執筆者・協力者一覧

関連情報

『古文書の科学――料紙を複眼的に分析する』全文公開サイト
https://bungaku-report.com/komonjo.html
 
史料調査ハンドブック『古文書を科学する――料紙分析はじめの一歩』
https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/assets/pdf/seika2021-9.pdf
 
編者エッセイ:
渋谷綾子・天野真志 著 (ALL REVIEWS 2023年4月21日)
https://allreviews.jp/review/6078
 
書評:
佐々木創 評 (『史学雑誌』133編4号 pp.84-85 2024年)
http://www.shigakukai.or.jp/journal/index/vol133-2024/#back_04
 
書籍紹介:
読書情報 (『読売新聞』 2023年4月30日)

国際シンポジウム:
「料紙研究×自然科学:古文書研究の新展開」 (主催: 科学研究費補助金基盤研究 (A)「『国際古文書料紙学』の確立」 2019年11月23日)
https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/news/2019/event_20191123.html

関連イベント:
地域の歴史・文化再発見講座「古文書で物理学をやってみた」 (歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業 2024年8月8日)
https://pres-network.jp/news/post-22/

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