イェール大学所蔵 日本関連資料 研究と目録

イェール大学は、在外の資料として抜群の規模と多様な内容をもつ日本関連資料を所蔵している。資料群の形成に関わった多くの人々のうち、朝河貫一 (1873～1948) の果たした役割はとりわけ大きい。朝河は1895年に渡米し、イェール大学で歴史学教授および東アジアコレクション部長を務め、The Documents of Irikiを著して欧米における日本中世史研究の基礎を築いたが、1906～07年と1917～19年の二度にわたって日本に帰国した際、購入や謄写等によって収集し、あるいは朝河の提案に応えて後日寄贈されることになった資料が、日本関連資料の相当の部分を占めているからである。東京大学史料編纂所は朝河の調査や資料収集に協力し、朝河が米国で生涯を閉じた後も、その著書の復刊時に入来院家文書の釈文の改訂作業に協力するなど、朝河の研究事業との関わりを継続してきた。2010～15年度には、大学共同利用機関法人人間文化研究機構から「日本関連在外資料調査研究」事業への参加を委託され、史料編纂所は「イェール大学をはじめとする米国大学所蔵日本関連資料の再活用による日本研究の推進」を課題としてイェール大学の所蔵する資料を調査した。本書はその成果をまとめた報告書であり、研究編と目録編から構成されている。
 
研究編では、朝河以前にイェール大学で最初に設立された大規模な日本書籍コレクションおよび朝河が収集したものを中心に、日本関連資料の構成や収集の経緯が明らかにされるとともに、いくつかの個別の史料について、原本の観察や修理を通じて、あるいは日本所在の関連史料との組合せや比較により、新たな知見が示されている。目録編には、調査参加者の調書をもとにしたイェール大学バイネキ稀覯本・手稿図書館所蔵日本文書コレクション目録と「京都古文書」の解題・目録を収めている。
 
今回のプロジェクトでは、資料調査を行う度に、米国等の日本史・日本文学研究者と共同でワークショップやシンポジウムを行って資料の内容について検討し、その価値について認識を深めたことが特筆される。また、1934年に日本イェール協会からイェール大学に寄贈された「古文書張交屏風」の貼付文書の修理を史料編纂所で行う過程で、この屏風が寄贈直前に史料編纂所で製作されたものであることが判明し、古文書の内容が再認識され、修理と研究が一体のものとして進められた。本書の学術的意義は、こうした史料編纂所ならではの活動により、長年月の間に忘れられていた日本関連資料の内容や価値を見出した直接的な成果が結実している点にある。
 
一方、イェール大学では日本関連資料を用いた授業が行われ、展示も開催されるなど、日本研究の再活性化の動きがみられる。日本関連資料を再活用するきっかけとなり、日本研究の推進に寄与する可能性がある点で、本書は教育的、社会的意義をあわせもつといえよう。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 杉森 玲子 / 2016)