東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に深緑のタイトル背景

書籍名

日本史の森をゆく 史料が語るとっておきの42話

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2014年12月20日

ISBN コード

978-4-12-102299-8

出版社

中央公論新社

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東京大学史料編纂所という研究所をご存知だろうか。本郷キャンパスの赤門を入り、すぐ左に見える建物が史料編纂所である。この史料編纂所に所属する教員42名によって執筆されたのが『日本史の森をゆく』である。
 
史料編纂所の最大のミッションは、古代から明治維新までの日本史史料を収集し、それを調査し、成果として史料集を編纂することである。現在史料編纂所では、教員がいくつものチームを組んで、『大日本史料』『大日本古文書』など、目的を異にした数種類の史料集を編纂・刊行している。
 
その一方で、各教員はそれぞれの研究テーマをもって論文を発表している。全国の大学・研究機関には多くの日本史研究者が所属して研究を進めているが、史料編纂所の教員の場合、史料集を刊行するという研究所としてのミッションと、ひとりの研究者としてのテーマが結びついている点に特徴がある。本書は、42人の著者がそれぞれの関心によって題材を決めて執筆したもので、統一したテーマが設定されているわけではないが、史料集の編纂と個人研究の一体性という、史料編纂所における歴史研究の特徴が表われた一冊となっている。
 
たとえば、冒頭の章では、史料集編纂のために必要な精緻な調査を行いつつ、大量の史料と格闘している編纂所教員たちの日頃の苦労の一端が記されている。ばらばらになってしまった史料の原状復元、残された一片の書状の背後に隠され人間関係の推定、言葉の書かれた当時における意味の確定など、歴史研究の基礎固めにかける執念と自信が示されている。
 
第二の章には古代から明治に至る日本と海外の交渉をテーマとした論考が集められている。史料編纂所には戦前以来、海外に所在する史料調査を積極的に行ってきた伝統があり、対外関係史は史料編纂所の研究を特色づける分野である。ポルトガル人やオランダ人の書いた手紙や、禅僧たちが作った難解な漢詩文を読み解くことによって明らかになる過去の日本人たちの行動や思考、また遙かサンクトペテルブルクの博物館で見つかったキリシタン大名旧蔵の大砲など、現在も続く海外史料調査の最新の成果が次々と繰り出される。
 
第三から第五の章では、それぞれ公家、武家、民衆に関する話が取り上げられるが、教科書に登場するような有名な事件や人物はあまり登場しない。むしろ無名な人々をとりまいていた平凡な日常が紹介される。とはいえ、当時の人々にとっての「日常」である。公家の娘との縁談を探す戦国時代の地方武士、仕官先を求める江戸初期の牢人、主人の放蕩に苦しむ家族や奉公人など、日常の中にこそ、それぞれの時代の特性が表れていることがよくわかる。未婚のまま皇后になった女性、農業知識の習得に励んでいた中世の禅僧など、最新の研究成果も盛り込まれている。史料集の編纂過程でたまたま出会った人々の人生に驚き、その生きた軌跡を解き明かしたいという、執筆者たちの思いが伝わってくる。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 教授 榎原 雅治 / 2016)

本の目次

I 文書を読む、ということ
II 海を越えて
III 雲の上にも諸事ありき
IV 武芸ばかりが道にはあらず
V 村の声、町の声を聞く

関連情報

書評:
- アエラ 2016年6月20日号
- 週刊朝日 2015年3月6日号 / 青木るえか
- 朝日新聞 (朝刊) 2015年2月8日
- 週刊東洋経済 2015年1月24日号
- 読売新聞 (朝刊) 2015年1月11日