
書籍名
〈68年5月〉と私たち 「現代思想と政治」の系譜学
判型など
324ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2019年4月
ISBN コード
978-4-924671-37-9
出版社
読書人
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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〈68年〉は分岐を生み出す。学生反乱に労働運動が合流し、降って湧いたように数週間ゼネストが続いたフランスの〈68年5月〉も、「帝大解体」や「産学協同反対」を呼号した東大全共闘はじめ日本の全共闘運動も、この〈68年〉の出来事だった。それは日本では、連合赤軍事件に象徴される「過激派」の「内ゲバ」と結びつけられて忌避されてきた。他方、今日〈68年〉を再評価する者たちは、そこにフェミニズムやエコロジーといった「新しい社会運動」の先駆けや、様々な文化的アヴァンギャルドの最後の輝きを認める。
本書の特色は、〈68年〉に当時の「西側」資本主義・自由民主主義体制が遭遇した「革命的情勢」を認め、その「革命」的性格を1960年代以来のフランスの「現代思想」、つまり構造主義・ポスト構造主義の思想潮流と突き合わせて理解する点にある。しかし、では〈68年〉の何が「革命的」だったのかが問題になるやいなや、本書の内部でも分岐が生じる。「革命的」だったのは、ヴェトナム反戦を背景に、新旧左翼諸党派が競合しながら国家権力奪取をうかがったことなのか。それとも、人々が労働者や市民としての規定から逃れ出し、青天の霹靂のように資本主義と国家の秩序が崩落寸前に至ったことなのか。むしろ一致が見られるのは、1970年代以降の改良主義的な福祉国家体制の再編にせよ、その後の新自由主義的な市場化の深化拡大にせよ、私たちが〈68年〉に対する「反革命」の時代を生きており、この「反革命」こそ〈68年〉が招いた結果だったという認識の方だろう。そこからは翻って、無残な失敗に終わったかつてのドン・キホーテ的な革命運動と、現在勝ち誇る資本主義と国家の運動が、たえず前方への逃走を繰り返して自己自身を維持するほかない、同じひとつの政治過程の分岐として捉えられる。
だから、本書では〈68年〉の「現代思想」にも鋭く分岐する問いが向けられる。フーコーが語った「人間の終わり」は現在、資本主義の最後の制約としての人間の生命や身体さえ、技術的に操作可能な一対象と化す事態に行き着いたのではないか。ドゥルーズ=ガタリが、国家権力奪取を目指す古典的革命とは異なる新たな革命を目指したのだとして、「マイナーになること」を求めるその革命は、果たして彼らが退けた「党」なしに考えられるのか。しかし、ラカンが精神分析運動の常なる革新を目指して構想した分析家集団の組織論そのものが、主人としてのラカンを温存してしまったのだとしたらどうか。また、アルチュセールやその継承者たちが企てた「学知」の批判は、いったい理論と実践に境界画定を施し、認識や信条のなかに立て籠もる以外の出口をもちえないのか。
〈68年〉は本書で、こうしたすべての分岐する政治的・思想的な問いの起点として位置づけられる。だが、そこで分岐する「私たち」を一つにつなぎ留めているのもまた、「私たち」にとっていまだ意味を確定させることのない〈68年〉という出来事なのだ。だとすれば、〈68年〉の命運は、「私たち」が〈ポスト68年〉の現在の地平からどのような新たな分岐を生み出しうるかにかかっている。本書がそのためのささやかな手がかりとなることを願っている。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 王寺 賢太 / 2021)
本の目次
II. まえがき
1 〈68年〉から人間の終わりを考える(佐藤淳二)
2 〈68年〉以後の共産党—革命と改良の間で(小泉義之)
3 ドゥルーズ=ガタリと〈68年5月〉(1) —『アンチ・オイディプス』、『千のプラトー』をめぐって(佐藤嘉幸)
4 ドゥルーズ=ガタリと〈68年5月〉(2) —「〈68年5月〉は起こらなかった」読解(廣瀬 純)
5 〈68年5月〉と精神医療改革のうねり(上尾真道)
6 〈68年5月〉にラカンはなにを見たか(立木康介)
7 学知ってなんだ—エピステモロジーと〈68年〉(田中祐理子)
8 京大人文研のアルチュセール—〈68年〉前後(王寺賢太)
9 偶像の曙光—イギリス「新左翼」についての小論(布施 哲)
10 〈68年〉のドン・キホーテ(市田良彦)
あとがき
関連情報
https://www.heibonsha.co.jp/book/b213904.html
市田良彦・王寺賢太編『〈ポスト68年〉と私たち—「現代思想と政治」の現在』平凡社、2017年
https://www.heibonsha.co.jp/book/b313223.html
小泉義之・立木康介編『フーコー研究』岩波書店、2021年
https://www.iwanami.co.jp/book/b559587.html
佐藤嘉幸・立木康介編『ミシェル・フーコー『コレージュ・ド・フランス講義』を読む』水星社、2021年
http://www.suiseisha.net/blog/?p=14090
Gavin Walker (ed.), The Red Years — Theory, Politics, and Aesthetics in the Japanese ’68, London, Verso, 2020.
https://www.versobooks.com/books/2855-the-red-years
Archives.Mai68
https://www.archives-mai68.com
セミナー:
人文研アカデミー | 連続セミナー: <68年5月> と私たち (京都大学人文科学研究所+「フーコー研究─人文科学の再批判と新展開」共同研究班 2018年5月10日~6月9日)
https://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/hub/zinbun/%E4%BA%BA%E6%96%87%E7%A0%94%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%BC2018%E3%80%80%E9%80%A3%E7%B6%9A%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%80%80%E3%80%8C%E3%80%8868%E5%B9%B45%E6%9C%88%E3%80%89.htm