東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

メキシコのカフェの写真

書籍名

テクストとしての都市 メキシコDF

著者名

柳原 孝敦

判型など

272ページ、四六判変形、並製

言語

日本語

発行年月日

2019年11月11日

ISBN コード

978-4-904575-78-9

出版社

東京外国語大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

メキシコDF

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東京外国語大学出版会の企画するシリーズ「テクストとしての都市」の第一回配本作品。
 
「テクストとしての都市」シリーズのコンセプトは、まず、名前から明らかなように、都市をテクストとしてみなし、叙述することである。テクストとは言葉で紡がれた織物、すなわち文章だが、この場合は書物や映像、心象風景などが交錯する場という程度の意味。そして第二に、そのような都市の叙述を通じてそこにまつわる集合的記憶を浮き彫りにすること。集合的記憶の概念は近年、記憶論・記憶研究mnemologyという潮流を産みだしたが、その立場からの都市論であること。
 
以上のコンセプトを基に、対象となる都市の8から10箇所の街区を取り上げ、それらの街区について、観光案内的な紹介に終わるのでなく、土地の歴史、そこを舞台にした文学作品や映画作品、そこを訪れた人びとの思い出などを盛りこみ、重層的に紹介することを形式上の約束事とした。また、写真も掲載すること。
 
こうしたコンセプトと約束事を踏襲し、私は本書でメキシコ市 (2016年までの正式名称はメキシコ連邦区 México, D.F.) の8つ街区と市全体 (もしくはそれが位置する場所)、市内の書店や図書館について書いた。
 
本書のとりわけ弁別的な特徴としては、著者自身の記憶も集合的記憶の一部を形成するとの立場から、自身の思い出を起点にしていることだろう。プロローグのコンデサでは、2009年にその街区内のとある書店を訪れた際に店員と交わした会話から、はじめてこの地を訪れた1991年の街の記憶との差異を浮き彫りにしつつ「テクストとしての都市」の性質を提示する。また、この会話に触発される形で、エピローグの書店と図書館巡りへと話が繋がる。第1章のアナワクというのはメキシコ市周辺の盆地部の古名だが、プロローグに書いた書店訪問の前日、著者がメキシコ市に飛行機で到着した際の振る舞いから語り起こし、この都市が古来、旅人たちを魅了した美しい都市であったことへと思いを馳せる。第5章のメルセーやテピートといった貧しい地区にある市場を語る際には、著者がそこに行くきっかけとなった個人的な体験を語り、2009年の様変わりした市場の様子にも触れる。つまり本書は2009年のメキシコ市訪問の記録を外枠とする物語の形式になっている。
 
ソ連の政治家レフ・トロツキーとメキシコの画家フリーダ・カーロの恋愛などのよく知られた単一のエピソードを連ねるだけでなく、本来無関係な独立した複数の文学作品の登場人物をある地点で交錯させるなどして、作品の読みに新たな光を当てている。カルロス・フエンテスのある人物の歩いた通りをまったく逆方向にあるいたのがロベルト・ボラーニョの小説の人物である、などといった指摘は、それぞれの作品の解釈を刷新するものであるに違いない。そしてまたそのすぐ近くで大江健三郎の小説の主人公が苦悩していた姿をも紹介し、その街区をめぐる記憶の集合体の幅を広げている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 柳原 孝敦 / 2021)

本の目次

プロローグ コンデサ —— 美しい時代
第1章 アナワク —— 空気の最も澄んだ土地
第2章 ソカロ —— 地下から溢れ出る詩情
第3章 トラテロルコ三文化広場 —— 血塗られた広場
第4章 テペヤクのグアダルーペ聖母聖堂 —— 傾くキリスト教文明
第5章 メルセーからテピートにかけて —— 愛すべき隣近所(ベシンダー)
第6章 コヨアカン —— 嘆き声が聞こえてくる街
第7章 サン・アンヘル —— 幻のトラムに乗り換えて
第8章 セントロ —— 冥府の詩が聞こえる
エピローグ 書店と図書館 —— テクストの都市を旅する

関連情報

ポッドキャスト:
EmbamexJP – MEXJAPON エピソード79- メキシコシティと文学者 /ゲスト:柳原孝敦 (在日メキシコ大使館ポッドキャスト:MEXJAPON/メクスハポン By Embamex Japón 2021年12月28日)
https://anchor.fm/embamex-japn/episodes/EmbamexJP--MEXJAPON-79--e1c4blf
 
EmbamexJP – MEXJAPON エピソード81- 文学に表れるメキシコシティ /ゲスト:柳原孝敦 (在日メキシコ大使館ポッドキャスト:MEXJAPON/メクスハポン By Embamex Japón 2022年1月11日)
https://anchor.fm/embamex-japn/episodes/EmbamexJP--MEXJAPON-81--e1ckg4p
 
書評:
福嶋伸洋 評「合わせ鏡としての書物と都市」 (『れにくさ=Реникса:現代文芸論研究室論集』p.198-200 2021年)
https://ci.nii.ac.jp/naid/40022560927/
 
久野量一 評: (『日本ラテンアメリカ学会会報』No.131 2020年3月31日)
http://www.ajel-jalas.jp/kaihou/kaihou_pdf/131masked.pdf
 
旦敬介 評「歴史と幻影に出会う町、魅力的なキャラクターに満ちた町、メキシコDF――その過小評価への鬱憤を一気に晴らしてくれる」 (『図書新聞』3439号 2020年3月14日号)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3439
 
伊高浩昭 評 (『週刊読書人』 2020年1月24日号)
https://dokushojin.stores.jp/items/5ec4f6a0cee9ea4cf399ebac
 
桜井敏浩 評 (『ラテンアメリカ時報』No.1429 2019年/2020年冬号)
https://latin-america.jp/archives/41931
http://www.ajel-jalas.jp/news/2020/news20200128-1.html
 
書籍紹介:
待田晋哉記者 [読書欄「著者来店」のコーナー(10面) (『讀賣新聞』 2020年1月12日)
 
イベント:
第51回現代のラテンアメリカ「佐藤究×柳原孝敦 公開対談:『テスカトリポカ』の世界観とラテンアメリカ」 (立教大学 2021年12月4日)
https://www.rikkyo.ac.jp/events/2021/12/mknpps000001s3rb.html
 
メキシコから読むスペイン語文学の愉しみ (NPO法人イスパニカ文化経済交流協会 [イスパJP]) 2019年11月14日)
https://hispajp2019.peatix.com/

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