東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ラテン系の人物のイラスト、白地に黄色の太い縦線の背景

書籍名

映画に学ぶスペイン語 38 películas para aprender español

著者名

柳原 孝敦

判型など

160ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2021年10月29日

ISBN コード

978-4-86624-047-3

出版社

教育評論社

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映画に学ぶスペイン語

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スペイン語圏の映画でDVDソフトなどで鑑賞可能なものの中から38作品を選び、それらについて4部構成で紹介したもの。4部とは1) 映画の情報 (スタッフ、キャストなど) とストーリー紹介、2) 映画内の印象的な台詞の原文と日本語訳、3) 台詞の背景と文法の説明、4) 映画についての論評、である。1) と4) が各1ページずつ、2) と3) は合わせて2ページで、各作品4ページからなる。
 
タイトルに明らかなように、スペイン語学習者のための中・上級の読本といった狙いがある。しかし、「台詞の背景」とは映画内の場面の説明である場合も多い。したがって4ページのうち大部分が映画の解説の役割を果たしている。結果的に本書は日本の家庭で鑑賞可能なスペイン語圏の映画の紹介として読むことができる。スペイン語圏の映画の内容を網羅的に紹介した本は皆無であり、本書はその点でも価値があると言っていい。スペイン語圏の映画作品は重要な作品がもれなく日本に紹介されているわけではないので、学問的な見地から公正な映画史の記述とは言い難いが、少なくとも現実的なガイドブックと位置づけることは可能だろう。
 
また、スペイン語の教本という見地から言えば、アルゼンチンやウルグアイの映画も扱っている本書では、その地方独特の二人称単数の代名詞vosおよびそれに対応する動詞の活用形も説明しており、その点において独自である。スペイン語圏は広大でスペイン語の変種は多いのだが、日本のスペイン語の教科書はほとんどがスペインの語法を標準として紹介するものである。スペイン以外の地域の圧倒的多数の話者にとって二人称複数の代名詞vosotrosとそれに対応する動詞の活用形は存在しないこと、アルゼンチンをはじめ多くの地域では二人称単数の代名詞がtúではなくvosであること、そして地域によってはそのvosに対応する独特の動詞の活用形があることなどは等閑に付されがちである。そうした現状を考えると、本書はスペイン語の多様性を説明した数少ないものと言えるだろう。
 
本書は2010年に東洋書店から出版した同名の書 (ただし、副題は東洋書店版では「台詞のある風景」だった) の増補復刊である。東洋書店版で原稿を提出しながらも掲載されなかった4本の映画作品についての記事が今回、加わった。ただし、初版出版後の映画は扱っていないので、結果的に2009年日本公開の作品までに限られている。ただし、ルイス・ブニュエル Luis Buñuel に始まり、カルロス・サウラ Carlos Saura、ビクトル・エリセ Víctor Erice、ペドロ・アルモドバル Pedro Almodóvar といった日本でも人気の監督から、20世紀半ば以降のラテンアメリカ各地で起きた「新しい映画」の動向を代表するものまで、重要な作家・作品は取り上げられている。
 
東洋書店の初版発行後、多くの同業者から続編は出ないのか、との期待の言葉をかけられた。2010年以後に公開された作品を扱った続編が期待されるところではある。が、それ以前に、東洋書店版は入手困難になっていただけに、今回の増補復刊は意義あるものと言えるだろう。続編は本書の評判次第ということになりそうだ。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 柳原 孝敦 / 2022)

本の目次

1  『皆殺しの天使』 El ángel exterminador
2  『低開発の記憶——メモリアス』  Memorias del subdesarrollo
3  『哀しみのトリスターナ』 Tristana
4  『ミツバチのささやき』 El espíritu de la colmena
5  『カラスの飼育』 Cría cuervos
6  『エル・スール』 El sur
7  『マタドール』 Matador
8  『神経衰弱ぎりぎりの女たち』 Mujeres al borde de un ataque de nervios
9  『スール その先は……愛』 Sur
10 『ベルエポック』 Belle Époque
11 『ラテンアメリカ 光と影の詩』 El viaje
12 『苺とチョコレート』 Fresa y chocolate
13 『テシス 次に私が殺される』 Tesis
14 『情熱の処女 スペインの宝石』 La Celestina
15 『オープン・ユア・アイズ』 Abre los ojos
16 『蝶の舌』 La lengua de las mariposas
17 『オール・アバウト・マイ・マザー』 Todo sobre mi madre
18 『ゴヤ』 Goya en Burdeos
19 『アモーレス・ペロス』 Amores perros
20 『夜になるまえに』 Before Night Falls
21 『ブニュエル ソロモン王の秘宝』 Buñuel y la mesa del rey Salomón
22 『ルシアとSEX』 Lucía y el sexo
23 『ブエノスアイレスの夜』 Vidas privadas
24 『天国の口、終わりの楽園。』 Y tu mamá también
25 『トーク・トゥ・ハー』 Hable con ella
26 『アマロ神父の罪』 El crimen del padre Amaro
27 『キャロルの初恋』 El viaje de Carol
28 『モーターサイクル・ダイアリーズ』 Diarios de motocicleta
29 『carmen. カルメン』 Carmen
30 『海を飛ぶ夢』 Mar adentro
31 『そして、ひと粒のひかり』 María Full of Grace
32 『今夜、列車は走る』 Próxima salida
33 『タブロイド』 Crónicas
34 『ウィスキー』 Whisky
35 『パンズ・ラビリンス』 El laberinto del fauno
36 『サルバドールの朝』 Salvador
37 『チェ 28歳の革命』 Che Part 1
38 『チェ 39歳別れの手紙』 Che Part 2

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