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書籍名

真木悠介の誕生 人間解放の比較=歴史社会学

著者名

佐藤 健二

判型など

344ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年11月

ISBN コード

978-4-335-55202-1

出版社

弘文堂

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真木悠介の誕生

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「見田宗介=真木悠介」の社会学を時系列で論じた作品である。真木悠介こと見田宗介は、私自身が「社会学」を専攻するきっかけとなった「師」にあたる。評伝と受けとめる読者もあろうが、卓越した事績の批評ではない。あえていえば、迷いつつ悩みつつ進路を見いだしていった個人のフィールドワークである。学史研究でもない。作品=テクストに現れた方法と理論的実践とに焦点をあわせた分析であり、社会学の可能性への招待である。
 
真木悠介は、見田宗介のいわば「双生児」であり、マルクスの重厚さとカスタネダの軽やかさを使いこなし、鶴見俊輔や柳田國男や永山則夫や宮沢賢治らと深く交流する魂をもつ。その名のもとで『人間解放の理論のために』『現代社会の存立構造』『気流の鳴る音』など、壮大で独創的で明晰な作品が書かれた。副題に掲げた「人間解放の比較=歴史社会学」は、その師がこころざし夢みた学問を指し示すと同時に、私がそこで学び、自分なりに受け継いで発展させた方法の名称である。「なぜ見田宗介は真木悠介を必要としたのか」の問いは、この本の探究をじっくりと貫く。私自身の最初の著書の副題「方法としての柳田國男」にならっていえば、「方法としての真木悠介」というタイトルの選択もまた可能だったかもしれない。
 
学部卒業時のデビュー作「純粋戦后派の意識構造」をはじめ、章のすべてが著者の論文名なのは、対象がテクストおよびテクスト空間であることの確認である。10篇のそれぞれの論考がいかなる問題意識のもとで、どのように書かれたのかにこと寄せて、見田の戦争体験、戦後意識、方法論の模索、ユートピア、コミューン、人間解放等々の試みが、複雑にからみあい、呼応するものとして解説される。
 
全共闘運動の問題提起に対して応答し対話する人格として、真木悠介が現れたことは、ひとつの発見であった。都市社会学の試論だと位置づけられることも多い「まなざしの地獄」は、大きな転換点を構成している。転換は大学闘争の情況と向かいあうなかで生みだされ、社会心理学者から社会学者への転回や、物象化論としての存立構造論や、比較社会学的な「交響するコミューン」の解放論を現出させていく。そうした人間解放の理論と、社会構想のための比較社会学に向かう運動の触媒となったのが、『明治大正史世相篇』の独特な歴史認識の見田による読解であり、方法論を選び編みだす「メタ方法論」とも呼ぶべき柳田國男の実践の解読であった。見田が若き日に熱中した「社会心理史」だけでなく、1980年代に脚光を浴びるとともに、ひどい誤解にさらされた「比較社会学」もまた、ほんとうはもうひとつの歴史社会学だったのだと、私は論じている。
 
見田宗介が向かいあった問題は、じつは私たちの問題でもある。質対量の冷戦体制の克服、フィールドとしての個人の可能性、調査研究のテクノロジーの再検討など、現代社会学の方法論的な課題を意識しつつ書いた。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 佐藤 健二 / 2022)

本の目次

序の章 主題としてのテクスト空間
1章 「純粋戦后派の意識構造」
2章 「死者との対話」
3章 「現代における不幸の諸類型」
4章 「質的データ分析の方法論的諸問題」
5章 「近代日本社会心理史の構想」
6章 「解放の主体的根拠について」
7章 「未来構想の理論」
8章 「まなざしの地獄」
9章 「「共同体」のかなたへ」
10章 「柳田国男『明治大正史世相篇』解説」
結の章 未来構想の夢よりも深く
書誌篇 地図としての著作論文目録

関連情報

書評:
浅野智彦 (東京学芸大学教育学部) 評 (「社会学評論」第72巻第1号p.60-61 2021年)
https://doi.org/10.4057/jsr.72.60
 
片上平二郎 評 (「週刊読書人」p.4 2021年2月5日号)
https://jinnet.dokushojin.com/products/2021%E5%B9%B42%E6%9C%885%E6%97%A5%E5%8F%B7-3376%E5%8F%B7
 
Booksコーナー: 苅部直 評 (「東京人」p.136 2021年2月号)
https://www.toshishuppan.co.jp/tokyojin/detail/25
 
野村一夫 評「真木悠介について」 (野村一夫 - Medium 2021年1月31日)
https://link.medium.com/mxA9wnuMIsb
 
今週の本棚: 橋爪大三郎 評 (毎日新聞 2021年1月16日)
https://mainichi.jp/articles/20210116/ddm/015/070/016000c
 
鈴木洋仁 (社会学者・東洋大研究助手) 評「なぜ別名を使ったのか」 (読売新聞 読書欄 (12面) 2020年12月20日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20201219-OYT8T50157/

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