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黄色の表紙

書籍名

現代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ 3 ドイツ市民社会の史的展開

判型など

368ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月

ISBN コード

978-4-585-22514-0

出版社

勉誠出版

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市民社会の史的展開

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現代ドイツ社会を特徴づけるもののひとつに、多様な形態の「市民参加」がある。それは、非営利目的の登録協会 (日本でいうNPO) のメンバーとしての活動から、各種ボランタリー活動、自治体審議会等への参画、名誉職としての活動、さらには社会問題の解決や制度の変革を訴える社会運動にまで及ぶ。今日のドイツでは、これら市民の自由な意思による公的活動を促進する政策が取られるが、そこには市民の参加を通じて民主主義を鍛え、社会的統合を推進すると同時に、行政だけでは解決できない今日の困難な問題に効果的に取り組もうとする狙いがある。
 
ドイツの歴史上、現代に繋がる「市民」が登場するのは18世紀後半から19世紀初頭にかけての啓蒙の時代である。かれらは、自由で、互いに平等な権利をもち、自立した市民として自己を組織しながら新しい活動を始めた。フリーメーソンや読書サークル、政治クラブなどがその典型例であり、そこでは、小規模ながら自由な討議に重きをおく「批判的な公共圏」が形成された。現代ドイツの市民活動のひとつのタイプである登録協会の歴史を遡ると、かつての市民層が作ったこれらの自己組織にたどり着く。
 
ドイツに市民層が出現してから二百年以上の歳月が経過した。いま再び注目を集める新しい市民社会とはどのようなものだろうか。代表的な論者の一人、J・ハーバーマスの議論からも分かるように、かつてもっぱら対峙・対立するものとして論じられてきた国家と市民社会の関係は、今日、対峙すると同時に協働すべきものとして論じられるようになった。市民社会の基軸となる規範についても変化が見られる。自由、平等、友愛、自立という啓蒙期以来の古典的な価値に加えて、ナチズムと共産主義という二つの独裁を経験した後には、人間の尊厳、基本的人権の尊重、他者への寛容、公開性、非暴力といった価値が新たに共有されるにいたった。
 
現代ドイツを歴史的展望のなかで捉えるシリーズ『現代ドイツへの視座―歴史学的アプローチ』(全三巻)の第三巻である本書は、歴史に根差しつつも新たな形をみせる今日のドイツの市民社会について、18世紀末から21世紀の現在にいたるまでの市民社会の歴史的展開全体を視野に収めつつ考察する。
 
本書は四部構成である。
 
第1部「市民社会とは何か」には、日本とドイツの市民社会研究、市民層研究の第一人者らによる本書の基調となる論考が収められている。第2部「市民社会の形態変容―通史的アプローチ」は、ドイツにおける市民社会の展開を時系列にそって跡付けた諸論考からなる。続く第3部「社会主義体制下の市民社会」には、20世紀後半の市民社会の展開のなかでも、冷戦期の東ドイツと東側諸国、およびその後に焦点をあわせた諸論考が集められている。第4部「市民社会の日独比較」は、日独の市民社会の比較を行うことで、日本からドイツを見る意味はどこにあるのかという問いに答えようとする。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石田 勇治、准教授 川喜田 敦子 / 2021)

本の目次

序文 石田勇治・川喜田敦子
 
第1部 市民社会とは何か
第一章 変容する市民と市民性 ユルゲン・コッカ(辻 英史 訳)
第二章 文化システムとしての市民性 マンフレート・ヘットリング(辻 英史 訳)
第三章 シヴィルソサエティ・市民性・シヴィリティ―二十世紀ドイツ史の解釈概念をめぐる考察 ディーター・ゴーゼヴィンケル(石田勇治・川喜田敦子 訳)
 
第2部 市民社会の形態変容―通史的アプローチ
第四章 ドイツにおける市民社会と国民国家―十八世紀末から十九世紀前半 松本 彰
特論―1 市民社会と芸術 松本 彰
第五章 長い十九世紀におけるドイツ市民社会の歴史的展開―市民層・協会・地方自治 平松英人
特論―2 一九一三年ドイツにおける国籍法改正議論―「血統に基づく共同体」? 伊東直美
第六章 二つの市民社会から民族共同体へ―二十世紀前半における市民層、市民社会 白川耕一
第七章 第二次世界大戦後のドイツ 川喜田敦子・石田勇治
 
第3部 社会主義体制下の市民社会
第八章 東ヨーロッパの一九六八年―市民社会、メディア、文化移転 ユルゲン・ダニエル(川喜田敦子 訳)
第九章 シヴィルソサエティの出立―一九八九年の平和革命を位置づけるために コンラート・ヤラウシュ(石田勇治 訳)
第十章 東ドイツの一九八九年を再考する 井関正久
 
第4部 市民社会の日独比較
第十一章 市民社会の日独比較―市民社会のあるべき場所 村上俊介
第十二章 市民自治モデルの日独比較―協調的民主主義は国家の失敗を救えるか? ゲジーネ・フォリヤンティ=ヨースト(川喜田敦子 訳)
 

関連情報

現代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ 全三巻シリーズ:
「想起の文化とグローバル市民社会」(第一巻)
編: 石田勇治、 福永美和子
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00111.html
 
「ナチズム・ホロコーストと戦後ドイツ」(第二巻)
編: 石田 勇治、川喜田 敦子
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/G_00124.html
 

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