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放射線状の黒い表紙

書籍名

現代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ 1 想起の文化とグローバル市民社会

著者名

石田 勇治、 福永 美和子 (編)

判型など

400ページ、A5版、上製

言語

日本語

発行年月日

2016年8月

ISBN コード

978-4-585-22512-6

出版社

勉誠出版

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想起の文化とグローバル市民社会

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本書は、現代ドイツを歴史的展望のなかで捉えるシリーズ『現代ドイツへの視座―歴史学的アプローチ』(全三巻) の第一巻として、現代ドイツの政治文化の核心をなす「想起の文化」の諸相と、旧交戦国・ナチ被害者との和解にむけたドイツ政府と市民の様々な取り組みを検討する。
 
周知のとおり、統一後のドイツではホロコーストなどナチ体制下の国家的大規模犯罪に関する記念碑・記念施設の整備が進んだ。なかでもベルリンには犠牲となったユダヤ人、シンティ・ロマ (ジプシー)、同性愛者などを追悼する国立のモニュメントが相次いで建立され、ナチ時代の過去を反省する都市景観が誕生した。
 
「想起の文化」とは何であろうか?
 
一言でいえば、忘却に抗して過去の出来事を想起し、そこから現在の拠り所、未来への指針を示そうとする社会の精神的営為の総体である。これはとくに目新しいことではなく、近代的国民国家のような共同体にとって英雄的な行為、あるいは苦難の記憶は繰り返し想起されてきた。だが、自らにとって明らかに不都合な過去、加害者としての重い過去を、犠牲者の追悼とともに想起し、犠牲者の記憶を自らの「公的記憶」の一部に引き継ごうとする規範は、ホロコースト後の現代ドイツで初めて形成されたといえるだろう。
 
本書は三部構成である。
 
第一部「想起の文化」では、自国の「負の過去」を想起し、次世代にその記憶を伝承することの意義と難しさを考える。主な対象はナチズムとホロコーストの記憶だが、統一後のドイツで急浮上した共産主義独裁 (旧東ドイツ) の記憶、ドイツ帝国時代の植民地支配の記憶も取り上げる。さらにオーストリア、フランスといった近隣諸国の「想起の文化」のありようも検討する。
 
第二部「和解と平和を求めて」では、ナチ体制下のドイツが戦争と暴力支配によって多大な損害を与えた旧交戦国との間で、またユダヤ人・イスラエルとの間で積み重ねられてきた和解に向けた政府と市民の取り組みを検討する。それらの国でナチ支配がいかに解釈され、それがもたらした被害と加害、罪と責任、抵抗と協力がどのように描かれてきたか、またユダヤ人をはじめとするナチ犠牲者が各国の「想起の文化」でいかに扱われてきたかを考察する。
 
第三部「グローバル市民社会に向けて」では、未曽有の侵略戦争の惨禍を体験し、相互に深い不信と対立感情が残る戦後のヨーロッパで、ドイツの「想起の文化」が和解にいかに貢献したかを考える。そして「想起の文化」の発展に市民と市民社会が果たした役割を具体的な事例に即して検討する。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石田 勇治 / 2018)

本の目次

『現代ドイツへの視座―歴史学的アプローチ』の刊行にあたって  石田勇治
序文    石田勇治・福永美和子
 
第1部  想起の文化
第一章  想起なき記念?―ナチズム犠牲者のためのドイツの記念の地をめぐって  トーマス・ルッツ (福永美和子 訳)
第二章 公的資源としての歴史―想起・世代・集合的アイデンティティ  ウルリケ・ユーライト (石田勇治 訳)
第三章  東ドイツの想起政策と統一後の変容―ブーヘンヴァルト強制収容所をめぐって  福永美和子
第四章  統一ドイツにおける東ドイツ独裁の過去の検証  福永美和子
第五章  オーストリア国民の記憶文化―反ファシズムから戦争の犠牲者へ  水野博子
第六章  占領期フランス表象の現在―協力・抵抗・沈黙から「適応」・人道に対する罪へ  剣持久木
第七章  植民地支配の記憶―想起と抑圧そして忘却  磯部裕幸
 
第2部  和解と平和を求めて
第八章  ポーランドとの和解に向けて―「追放」の長い影  川喜田敦子
第九章  旧交戦国との歴史対話と越境する歴史認識  川喜田敦子
第十章  相違と錯綜―独仏関係はヨーロッパ建設の原動力か? ライナー・フーデマン (西山暁義 訳)
第十一章  ドレスデン空襲の公的記憶の変遷と広がり―コヴェントリーとの関係を中心に  柳原伸洋
第十二章  「つぐない」のレアールポリティーク―ドイツの補償とイスラエル  武井彩佳
 
第3部  グローバル市民社会に向けて
第十三章  「償いの印」―特殊な方法での補償に向けたプロテスタントの市民運動  クリスティアン・シュタッファ (福永美和子 訳)
第十四章  「窓拭き」と「聴く耳」―「行動・償いの印・平和奉仕」とインフォーマルな和解  小田博志
第十五章  平和運動―東西対立を越えて  竹本真希子
第十六章  第二次世界大戦後のドイツ司法と国際刑事司法―懐疑的姿勢から積極的な推進へ  福永美和子
第十七章  ヨーロッパと世界における資源としてのドイツ語―ドイツ語普及政策の歴史から  川村陶子
第十八章  ヨーロッパ市民社会はあるか ハルトムート・ケルブレ (川喜田敦子 訳)
 

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