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背景にホローコーストの空撮写真

書籍名

現代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ 2 ナチズム・ホロコーストと戦後ドイツ

判型など

384ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年9月

ISBN コード

978-4-585-22513-3

出版社

勉誠出版

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ナチズム・ホロコーストと戦後ドイツ

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ドイツで「現代史」という分野が誕生したのは、第二次世界大戦後、連合軍による占領統治が終わり、西ドイツが発足して間もない1950年代初頭のことである。当時は、ドイツ国民の多くがヒトラーに血道をあげた挙句、戦争の惨禍とともに終わったナチ時代の記憶がまた色濃く残っていた。かつてのドイツ帝国はなぜ、こんなにも悲惨な結末を迎えなければならなかったのか。戦後ドイツの現代史研究はこの問いから始まった。
 
現代ドイツを歴史的に理解する際、そこには避けて通れない要素が少なくとも三つある。ひとつは、ナチズム・ホロコースト・戦争の経験であり、いまひとつは分断国家としての歴史と旧東ドイツ独裁の経験である。そして三つ目が、全体主義に抗して発展してきたとされる、西欧的な自由と多元的民主主義の経験である。これには、今日のEUに繋がる地域統合の動きや、旧東ドイツで独裁支配に抵抗し、遂に1989年11月の「平和革命」に道を拓いた人々の体験も含まれる。
 
現在のドイツ現代史研究は、これら三つの要素のいずれかと関わりをもちながら進められている。そのなかで、ナチズム・ホロコースト・戦争という一つ目の要素は、たしかにかつてほど大きな位置を占めているわけではない。しかし、それでもこのテーマに今なお広く世間の注目が集まるのは、この分野の歴史研究が長足の発展を遂げた結果、これまでの議論の枠を超える新たな論点が提起されるようになったからである。
 
現代ドイツを歴史的展望のなかで捉えるシリーズ『現代ドイツへの視座―歴史学的アプローチ』(全三巻) の第二巻である本書は、そのようなナチズム研究の最前線の成果に触れながら、あわせて戦後ドイツ史に「ナチズム後史」という観点から接近する。
 
本書は三部構成である。
 
第一部「両義的近代へのアプローチ」では、ナチズムと「近代」の関係を問う。ホロコーストを啓蒙期以降のヨーロッパ近代のひとつの帰着点と捉える社会学者S・バウマン、ナチズムを「近代の病理」と見る歴史家D・ポイカートらの研究は、近年のナチズム研究の目覚ましい進展を促し、ホロコースト研究にパラダイムシフトをもたらした。ここでは、これらの問題提起に触発されて生まれた研究成果を紹介する。
 
第二部「第二次世界大戦とナチズム・ホロコースト」では、ドイツ勢力下のヨーロッパ各地で繰り広げられた暴力の実態を検証する。ナチズムが侵略戦争と結びついたとき、それはどのように機能し、いかなる変化を遂げたのかが、ドイツ、ポーランド、スイスの各国の経験を参照して問われることになる。
 
第三部「ナチズム後のドイツ」では、1945年以降のドイツ史は、戦争の後であると同時に、ナチ独裁・ナチ不法の後でもあったという点に着目し、戦後のドイツがナチ時代に起因する様々な歴史的負荷といかに向き合ってきたかを、加害者訴追、被害者救済、記憶の継承などの諸側面に注目しながら検討する。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石田 勇治、准教授 川喜田 敦子 / 2021)

本の目次

序文 石田勇治・川喜田敦子
 
第1部 両義的近代へのアプローチ
第一章 教育刑と犯罪生物学―ヴァイマルからナチズムへ 佐藤公紀
第二章 ナチ強制収容所とドイツ社会 増田好純
第三章 戦間期ドイツにおける民間防空共同体―実践のフォルクスゲマインシャフト 柳原伸洋
 
第2部 第二次世界大戦とナチズム・ホロコースト
第四章 ある種の幻肢痛―戦間期のレーベンスラウム構想 ウルリケ・ユーライト(石田勇治・川喜田敦子 訳)
第五章 入植と大量虐殺による「ドイツ民族」の創造―「東部総合計画」と学術的民族研究 パトリック・ヴァーグナー (川喜田敦子・石田勇治 訳)
第六章 ポーランドとホロコースト―イェドヴァブネからの問いかけ 解良澄雄
第七章 スイスのホロコースト関与とその後―難民政策を中心に 穐山洋子
 
第3部 ナチズム後のドイツ
第八章 戦後ドイツ司法によるナチ犯罪追及―占領期から今日までの展開とその所産 福永美和子
第九章 フリッツ・バウアー―ナチの過去に挑んだ検事長の狙い 池辺範子
第十章 西ドイツの戦争賠償と「ナチ不法に対する補償」―ドイツ在外財産に着目して 川喜田敦子
第十一章 ナチズムの長い影―一九四五年以降のドイツにおける過去をめぐる政策と記憶の文化 ラインハルト・リュールップ(西山暁義 訳)
第十二章 ナチ強制収容所体験と生存者たちのその後 猪狩弘美
第十三章 過去との断絶と連続―一九四五年以降のドイツと日本における過去との取り組み マンフレート・ヘットリング/ティノ・シェルツ(川喜田敦子 訳)
第十四章 連邦大統領の演説と想起の文化 石田勇治
 

関連情報

現代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ 全三巻シリーズ:
「想起の文化とグローバル市民社会」(第一巻)
編: 石田勇治、 福永美和子
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00111.html
 
「市民社会の史的展開」(第三巻)
編: 石田勇治、川喜田敦子、平松英人、辻 英史
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/G_00125.html

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