東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

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書籍名

玉川百科こども博物誌 ことばと心

著者名

小原 芳明 (監)、 岡ノ谷 一夫 (編)、 のだ よしこ (絵)

判型など

160ページ、A4判

言語

日本語

発行年月日

2019年11月20日

ISBN コード

9784472059827

出版社

玉川大学出版部

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ことばと心

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題目からもわかるように、本書の想定読者は「こども」なのです。小学4年生から6年生くらいを想定していますが、親に読んでもらうならば小学2年生程度から理解可能でしょうし、熟読するのなら中学3年生程度まで楽しめるでしょう。しかしあえて東京大学の学生諸君に本書を推薦するのは、文理融合研究の成果の一つとしてこれを読んでもらいたいからです。
 
本書は、言葉と心の起源と進化について、私と20年以上共に考えてきた仲間とが集まって作ったものです。小学生ふたりが自由研究として「動物にことばがわかるのか」を調べることにして、5人の研究者たちを訪ね歩く想定になっています。人類学者、動物学者、心理学者、言語学者、コンピュータ学者で、私自身は動物学者カナリア先生として登場します。人間の言葉と動物のコミュニケーションの違いは何か、言葉は思考のためにあるのか、コミュニケーションのためにあるのか、私たちは生まれつき言葉を身に着ける仕組みをもっているのか。言葉と心の関係は何か。こういった問題は、いわゆる「文系」の問題として捉えられてきました。しかし現代では、これらの問題に思弁だけではなく科学により向き合うことができるのです。
 
例えば、動物のコミュニケーションを調べて、ヒトの言葉との類似性と差異を研究し、言葉の起源を考えることができます。化石から脳の形態を計算し、同時代の埋蔵物の形態も測定することで、当時の人類がどのような認知機能を持っていたのかを調べることができます。人間が言葉を使って考えているとき、言葉を使わずに考えているときの、脳の血流量を比較して、言葉を使うことに対応する脳部位を推測することもできます。研究からわかった仮説に基づいてロボットを作り、ロボット同士をコミュニケートさせることで、どのような信号が進化するのかを観察することもできます。私たちはこういった方法を取り入れながら研究を進めています。
 
言葉と心の進化の研究は、21世紀の科学の中心的な主題になりつつあります。このような研究は、例えば、人工知能の研究に足らないところを補うために、必要とされるのです。もちろん、人間を知るための基礎科学の研究として、言葉と心の進化の研究は重要ですが、工学的な応用も可能になりつつあります。このような研究は、いろいろな分野の成果を取り入れて進めてゆく学際的研究ですので、わかりにくいところもあるかも知れません。ご指摘いただけるとたいへん助かります。本書を読みながら、人間の来し方と行く末を考えていただけると幸いです。私たちの研究は、文部科学省が運営する新学術領域研究「共創言語進化」 (2017-2022) により支援を受けています。成果や、研究発表のお知らせは、Evolinguistics.netをご覧ください。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 岡ノ谷 一夫 / 2021)

本の目次

監修にあたって(小原芳明)
はじめに(岡ノ谷一夫)
おとなのみなさんへ(岡ノ谷一夫)
ことばと心の世界へようこそ!
 
第1章 人類学者の研究室(井原泰雄)
進化してきたって、どういうこと?/森の生活、サバンナの生活/サバンナでの挑戦/サバンナへの適応/人類は石器をつくった/人類は大きな脳をもった/道具と心のはたらき/社会と心のはたらき/ネアンデルタール人/芸術はいつからあるのか/ことばを使っていたのかどうか/人類の文化/ことばの力、文化の力
 
第2章 動物学者の研究室(岡ノ谷一夫)
ことばを使わない動物たちにも、心はあるのかな/動物は鳴き声がことばのかわりなの?/音まね・声まねをする動物/どんな動物の鳴き声にも共通するもの/身ぶりでつたわる気もち/動物の一種としての人間の身ぶり/コミュニケーションとことばのちがい/動物はウソがつけない/動物は考えるか/動物は考えることを考えるか/動物には過去と未来の感覚があるのか/いろいろな心のありかた
 
第3章 心理学者の研究室(小林春美)
心理学って、どんなもの?/ことばを話すまえの赤ちゃんの声/赤ちゃんが母音や子音を発音できるようになっていくのは/動物の名まえの区別ができるまえ/ことばの音って、どうやってかぞえるの?/自分とほかの人とでは、わかっている事実がちがう/ほかの人が思っていることを、うまくわかってあげられる?/お父さんの声が高い!/いまはどれの名まえの話をしているのかな?/そのいいかたは、ちょっとちがうの/おもての意味だけじゃないこともあるんだよ/だれがだれに、わたしたのか/きかれたことに、ちょうどよくこたえる

第4章 言語学者の研究室(藤田耕司)
こんどは言語学のお話をきいてみよう/言語がなくても平気な話/言語をもつことは幸せか/人間言語のしくみ/あいまいなことば/あいまいなままじゃ、つたわらない/あいまいさのおかげでひろがるイメージもある/言語って、世界にいろいろあるよね/人間言語のいろんな部品/進化につながる部品の使いかた/人間と共通する能力を身につけた時期もいろいろ/チンパンジー以外の動物にもある潜在能力/動物が理解している階層構造
 
第5章 コンピュータ学者の研究室(橋本敬)
ロボットは、ことばの指示どおりに動けるの?/指示されたことに関係があるのかないのかの区別/考えるって、どういうことだろう/たくさんの個別の知識や事実をもとに考える場合/ある事実について、納得できる理由を考える場合/ことばとその意味を結びつけておぼえる/ロボットに教えるためのことば/スマホやスマートスピーカーは返事をしてくれる/コンピュータも言語を学習する/学習したコンピュータは、ほんとにわかってるのかな/みんながネットで話してつながる社会/ロボットといっしょにくらす/つくって動かして、考える
 
いってみよう
国立民族学博物館/日本モンキーセンター/古代オリエント博物館/漢字ミュージアム(漢検 漢字博物館・図書館)/嵯峨嵐山文華館/高松塚古墳・高松塚壁画館/国立国会図書館国際子ども図書館/公益財団法人東京子ども図書館
 
読んでみよう
ほんのれきし5000年/ラスコーの洞窟/ギルガメシュ王ものがたり/ことばをおぼえたチンパンジー/ゴリラが胸をたたくわけ/あかちゃんてね/ことばのゆらい図鑑3/人の体にゆらいする言葉/みんなでつくる1本の辞書/ことばのこばこ/お江戸はやくちことば/ルドルフとイッパイアッテナ/合言葉はフリンドル!/ドリトル先生航海記/きつねものがたり/モルモット・オルガの物語
 

関連情報

玉川学園創立90周年記念出版 玉川百科こども博物誌【全12巻】
https://www.tamagawa.jp/introduction/90th_aniv/kodomohakubutsushi.html
 
書籍紹介:
休校延長の今こそ読みたい本: 立命館アジア太平洋大学学長・出口治明さん ウイルスは生物界の「大先輩」 パンデミックは必ず終わる (朝日新聞EduA 2020年4月20日)
https://www.asahi.com/edua/article/13299382
 
[玉川大学]日本初の子供向け事典を刊行した玉川大学出版部が5月20日、『玉川百科 こども博物誌』第1巻を刊行 -- 小学校 低学年に向けて「学ぶきっかけ」「考えるきっかけ」を与える (大学タイムス 2016年5月20日)
http://times.sanpou-s.net/detail/pid-5338/

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