東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白とピンクの表紙

書籍名

岩波科学ライブラリー ことばと算数 その間違いにはワケがある

著者名

広瀬 友紀

判型など

132ページ、B6判、並製

言語

日本語

発行年月日

2022年7月14日

ISBN コード

9784000297127

出版社

岩波書店

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

ことばと算数

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本書は、大学生・大学院生の皆さんが、家庭教師として、塾講師として教えておられるお子さんの算数と国語の成績向上に直ちに役立ててもらいたい...という目的で書いたわけではありません。自分自身の息子による小1から約6年間の百花繚乱解答や、またその他に巷で話題になっているエピソードや題材をとおして、数と言葉の意外な共通点、あるいは似ているようで異なる点について考えてみたい、という思いを持っていました。算数が苦手だった自分だからこそ、算数が (さらに) 苦手な息子の力をあえて借りてこそ、さらに心理言語学者としての関心を生かしてこそ、できる仕事があるのではないかと考えたところ以下のような内容で1冊の本になりました。
 
1章「カッコつけるのやめたら」...数と言葉の階層構造とその共通点について
2章「どっちから見る?」...算数の珍解答から、記号と実体、ダイクシスなどの言語表現と数のつながりについて
3章「正三角形は二等辺三角形に入るんですか問題」...語用論・推論そして言語習得におけるバイアスについて
4章「1+1っていってみて!」...数式と、自然言語の語順について
5章「かける数とかけられる数は同じだった?」...かけ算の順序問題という熱い議論の中で目立たないままでいる、日本語の曖昧性にこそ由来する問題について
6章「マイナスを引くと……とってもマイナス?」...言語の再帰性について
7章「ジブンデ。ミツケル。」...子どもの計算ミスと言語習得の共通点について
 
数と言葉の関係のあり方は、どのような時には子どもにとって理解のヒントになったり、逆に混乱につながったりするのか、についても想像をめぐらせる機会を提供できればと思います。「算数に大切なのは国語力・読解力を磨くこと」とはよく言われますが、そのために役立ちそうな気づきにつながりそうなこと、あるいは逆に「読解力で片付ければいいってもんじゃない場合」についてもよく知るためにも、言語学の知見をとおして算数をみる、という試みがあっても面白いだろうと。
 
お子さんの正解を増やすお役にはたてないかもしれませんが、むしろあらゆる「採点したら不正解」パターンの背景には、数や言葉を理解する心の働きを映す豊かな世界が広がっている (こともあるのかもしれない)、と考えていただくきっかけになれば幸いです。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 広瀬 友紀 / 2024)

本の目次

1章 カッコつけるのやめたら
カッコつけてくれ/迷子になったサッカー選手?/迷子はどっちか、私たちはどうやって決めているのか/数式と言語の似ているところ/数式と言語の階層構造は頭のなかで共通している?/かけ算より引き算を先にやる人たち?/計算順序は絶対か/分配法則と、嵐・結婚/言葉と算数の微妙な関係

2章 どっちから見る?
そのくまどのくま?/記号としてのくま、実体としてのくま/正しい答えで悪いか/はくちょうは、とんで行くのか来るのか/「正しい答え」のダイクシス/で、くまはどのくま?

3章  正三角形は二等辺三角形に
入るんですか問題正三角形は二等辺三角形にあらず/聞いたこともないのに共有しているルール/someと言ったらallではない/推論する子供たち/正三角形も二等辺三角形だってどうして最初から教えないの?/ニャンコだったらワンワンじゃないの

4章 11 って言ってみて!
声に出して読む数式──かけるぞ! 4と2/カッコつけなくていいんだよ/日本語で読める数式/2つの目的語に交換法則は成り立つか/カッコ不要の代償/始まりがわからないのか終わりがわからないのか/分数の読み方

5章 かける数とかけられる数は同じだった?
算数でもなく、日本語理解力でもなく、日本語自体の問題/かけ算の順序問題はおいといて/かける数であり、かけられる数でもある……そんなのアリ?/片方を尋ねる疑問文を作ってみるとあら大変/かけるシロップ、かけられるシロップ/略しても、好きな人/回避する工夫?/むしろ言葉に鋭い子ほどドツボにはまる?

6章  マイナスを引くと……とってもマイナス?
マイナスの数を引いたら足し算になるっておかしいじゃん!/二重否定──肯定を強調? 否定を強調?/マイナスのマイナスはもっとマイナス、が自然だった?/再帰性──反対の反対なのだ/人間の証明としての再帰性と、その獲得

7章 ジブンデ。ミツケル。
その間違いに理由はあるのか/少ない例からいかに学ぶか/過剰に一般化──ネコも車もワンワンみたいな/過剰に特殊化──ワンワンは隣のポチ限定/そして旅はつづく

 あとがき
 子供の算数間違いについてもっと知りたい方へ
 参考文献

関連情報

著者インタビュー:
東京大学教授・広瀬友紀先生に訊く「子どもの国語の間違いから学べること」。そうなった理由を探ってみたら、発見が!  (HugKum 2022年12月13日)
https://hugkum.sho.jp/435661

自著を語る (『週刊教育資料』No.1677 2022年10月24日)
http://www.kyoiku-shiryo.co.jp/archives/2648

「死む」「戦わさせて」…なぜそうなる? 子供の“言い間違い”、言語学から見た面白さ (現代ビジネス 2022年9月17日)
https://gendai.media/articles/-/99642
 
「ぎゅうにゅうぱく」「死む?」 息子の珍解答から迫る言語学の謎 (朝日新聞デジタル 2022年8月5日)
https://www.asahi.com/articles/ASQ846SQ9Q82ULEI005.html

書評:
日本教育新聞 2023年2月6日
https://www.kyoiku-press.com/post-254244/
 
関連記事:
算数でのまちがいから脳や心を知る (朝日学生新聞社 2022年11月11日)
https://www.asahi.com/asagakuplus/article/asasho/14748553
 
子どもは正しく間違える?――算数のつまずきからわかる子どもの理屈の認知科学 (後編) ABLE ONLINE #05リポート (学びの場.com 2021年10月18日)
https://www.manabinoba.com/event_reports/020267.html
 
関連イベント:
広瀬友紀×小野健太郎「先生、正三角形は二等辺三角形に入るんですか?――子どもと算数の世界を探る。」『ことばと算数』(岩波書店)『オーセンティックな算数の学び』(東洋館出版社) W刊行記念 (本屋B&B 2022年11月27日)
https://bookandbeer.com/event/bb221127a_kodomotosansu/

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