東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と黄緑の配色に言葉を話す子供たちのイラスト

書籍名

岩波科学ライブラリー ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密

著者名

広瀬 友紀

判型など

128ページ、B6判、並製

言語

日本語

発行年月日

2017年3月17日

ISBN コード

978-4-00-029659-5

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

ちいさい言語学者の冒険

英語版ページ指定

英語ページを見る

中学校の国語の時間に、動詞の活用表を暗記させられましたよね。「自分日本語話せるのにこんな表覚える必要ないだろ!」と腹立たしく思いませんでしたか? しかもそれなのにテストで間違ったりしたら、この理不尽な気持ち、何にぶつけてよいのやら! 覚えてないのに使えている、使えるのに答えられないってどういうこと? このもやもやを共有していただけるなら、ぜひこの本を読んでみてください。
 
私たちは小さい頃にいつのまにか、母語をいとも自然に身につけ、大人になった今は立派に使いこなしています。ですが、自分がいったいどのようにことばを習得してきたのか、今になって振り返っても、その過程を思い出すことは残念ながらほとんどできません。
 
ネイティブスピーカーだから、日本語だとそう言うのはあたりまえだから、かえってわかっていないことは実はたくさんあります。山ほどある中のほんの一例ですが、「おんな」と「こころ」という語をくっつけたら「おんなごころ」というふうに「こころ」にテンテンがつくのに、「おんなことば」だと「こ」にテンテンはつかない。言われなくても実際には言い間違えないけど、どういう理屈でそう決まっているのか考えたことがなかった、というのが普通だと思います。だけど私たちみんな、無意識にわかっているらしい (だから言い間違えることはない)。だけど…だけど…何をわかっているからなのかがわからない!
 
私たち大人が自力で思い出せない、「ことばを身につけた過程」、直接のぞいてみられない「頭の中のことばの知識のすがた」を、子どもたちの助けを借りて探ってみましょう。子どもたちはそうした知識をまさに試行錯誤しながら積み上げている最中です。大人の言うことをまる覚えにするのでなく、ことばの秩序を私たちが思うよりずっと論理的なやり方で見いだし、試し、整理していく――子どもたちが「ちいさい言語学者」と呼ばれるゆえんです。
 
この本は、そんなちいさい言語学者たちの冒険にお供して実況する、というイメージで書きました。言語学の知識を体系的に身につけて欲しいという教科書的な発想で書いたものではありませんが、結果的に「音」「語の形」「文法」「語の意味」「裏の意味」「言語への意識」など、言語学が対象とする「ことばの側面」の中の意外に広い範囲をカバーすることができました。ことばってなんと奥が深い知識体であることか、そしてそれを遠い昔に自力で身につけた、かつての自分の頭の中ではどんなに面白いことが起きていたことか。子どもたちに案内してもらい、もういちどあなた自身がいつか歩んだあの道を旅してみませんか。そしてもしもいつか、もっともっと遠くまで、あるいは裏道の隅々までその旅を極めたくなったら、ぜひ一緒に言語学をやりましょう!
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 広瀬 友紀 / 2017)

本の目次

まえがき

第1章 字を知らないからわかること
「は」にテンテンつけたら何ていう? / テンテンの正体 / 「は」と「ば」の関係は普通じゃない / 子どもはテンテンの正体を知っている / 「は」行は昔「ぱ」行だった / 字をマスターする前だから気づく / 子どもと外国人に教わる日本語の秘密 / 数があわない / 納得できない「ぢ」と「じ」

第2章 「みんな」は何文字?
日本語のリズム / 日本語の数え方は少数派 / 子どもなりの区切り方 / じつはかなり難しい「っ」 / 「かににさされてちががでた」 / 必殺!「とうも殺し」

第3章 「これ食べたら死む?」――子どもは一般化の名人
「死む」「死まない」「死めば」――死の活用形! / 規則を過剰にあてはめてしまう / 「死にさせるの」 / おおざっぱすぎる規則でも、まずはどんどん使ってみる / 「これでマンガが読められる」 / 日本の子どもだけが規則好きなのではない / 手持ちの規則でなんとか表現してしまおう / 普通に大人をお手本にすればいいのに?

第4章 ジブンデ! ミツケル!
教えようとしても覚えません / 教えてないことは覚えるのになあ! / ジブンデ! ミツケル! / 「か」と「と」の使い方は難しい / 結局、何が手がかりになっているのか

第5章 ことばの意味をつきとめる
はずかしいはなし / 「ワンワン」とは? / 「おでん」とは? / 「坊主」とは? / どうやって意味の範囲を最初に決めるのか / どうやって意味を修正するか / モノの名前でなく動詞の場合は? / そもそも、どこからどこまでが単語? / ことばの旅はおわっていない

第6章 子どもには通用しないのだ
ぶぶ漬け伝説 / 子どもに通じるか / ことばにしていないことがどうして伝わるのか / 500円持っているときに「ボク100円持っているよ」は正しいか / 子どもも大人のような解釈ができるか / 相手の心をよむチカラ / 周りの状況をよむチカラ

第7章 ことばについて考える力
ことばを客観的に見る / 音で遊ぶ――しりとり / 意味で遊ぶ――「踏んでないよ」 / 構文で遊ぶ――「タヌキが猟師を鉄砲で」 / 解釈で遊ぶ――「大坂城を建てたのは誰?」 / 音で遊ぶ(その2)――「がっきゅう○んこ」 / ことばの旅路をあたたかく見守ろう

あとがき
もっと知りたい人へのおすすめ書籍 / 参考文献・引用文献
 

関連情報

Yuki Hirose homepage
『ちいさい言語学者の冒険』増刷にあたっての改訂箇所リスト&小ネタサイト
https://sites.google.com/view/yukihirose/ちいさい言語学者の冒険
 
Twitter ハッシュタグ #ちいさい言語学者の冒険
 
書評そのほかメディア
Hanako ママ 2017年9月号~
日刊ゲンダイ 2017年9月23日
WIN KIDS 2017年8月号
VERY 2017年9月号
英語教育 2017年8月号
読売新聞 (朝刊) 2017年7月9日
母の友 2017年8月号
週刊新潮 2017年6月22日号
日経サイエンス 2017年6月号
朝日新聞 (朝刊) 2017年4月30日
サンデー毎日 2017年4月30日号
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています