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書籍名

日本音声学会機関誌『音声研究』第21巻第1号 Excavating Phonetic/Phonological Fossils in Language (音声/音韻から言語の化石を発掘する) Current Trends in Evolutionary Linguistics (進化言語学の最新の知見)

判型など

26cm

言語

英語

発行年月日

2017年4月

ISSN コード

1342-8675

出版社

日本音声学会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

日本音声学会機関誌『音声研究』第21巻第1号

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われわれ人類は、直近の祖先である霊長類からさらにヒト科の類人猿を経て、今あるように進化してきたと言われる。ホモサピエンスの出現である。こうした種の分岐を可能にした固有の形質には、完全な二足歩行や巧みな道具使用 (特に火) などがよく挙げられるが、もう1つの大きな形質が、およそ20万年前に発生したと言われる言語使用である。
 
人間を人間たらしめている決定的な特徴が言語だとするなら、「言語の起源と進化」の問題を解明することは、人間科学の最重要課題の1つといえる。それを達成するには、もともと言語研究の中心である人文学や社会学の知見だけでなく、自然科学の知見も欠かせない。なぜなら、言語が人間固有の特徴だとしても、進化というものが連続的である限り、他種生物の持つ何らかのコミュニケーション能力の中に、人間言語の認知的・神経的・行動的基盤があるはずだからである。つまり、「言語の起源と進化」の問題を解明するには、人文・社会・自然を含む科学領域の総合知を結集してかからねばならない。学際領域の最たるものである。
 
しかし、この問題は科学の最重要課題であるとともに、最難問でもある。そもそも言語という抽象物には化石 (直接証拠) が存在し得ないので、言語起源に関する実証が難しい。実際のところ、19世紀末ごろのフランスやイギリスの言語学会では、この種の研究は絵空事として採択されない旨のお達しが出ていたくらいである。100年後の90年代になってからは「進化言語学」という研究分野が確立され、Evolangなど「言語の起源と進化」の問題に特化した正規の学会がイギリスで発足したものの、さらなる難題が浮き彫りになった。まず、人間言語の固有性ゆえ、他種から進化したという連続性の説明が難しく、種間比較ができないこと。また、依って立つ統一的な方法論 (言語理論) が確立されていないこと。それをいうなら、そもそも「言語」の定義が分野間でまちまちで、統一的定義が確立されていないこと。それゆえに、学際領域として欠かせない異分野間提携が非常に難しいということ。まさに、ないない尽くしの状況である。
 
ただ、他種との分岐を特徴づける人間言語の基本的性質が、その階層性 (音単位の単なる反復だけでなく結合を繰り返して多層的構造を作る性質) や概念性 (外界の事象を指すだけでなく抽象的概念そのものが意味となる性質) にあるとすれば,そして20万年前からその基本的性質を変えていないとするなら、言語そのものが「生きた化石」であるといえる。他種生物の言語もその基本的な姿を変えていないとすれば、それもまた「生きた化石」であろう。つまり、言語の化石はこの現代に存在していたのであり、第一の関門は突破できることになる。ここに、実証科学としての現代の「進化言語学」が成立する。
 
本書はそうした難題を乗り越えて、統一的な「言語」の定義や方法論 (言語理論) を提案しつつ、種間比較の指針を与え、言語学・発達心理学・神経科学・動物行動学・社会生物学・霊長類学などの異分野間提携を果たしたものである。文部科学省科学研究費補助金による新学術領域研究「共創的コミュニケーションのための言語進化学」のプロジェクトの一環であり、今後益々のこの分野の「進化」と「共創」が期待されるところである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 田中 伸一 / 2017)

本の目次

序論: 進化言語学においてなぜ今が音声学 / 音韻論のやり時なのか (田中伸一)
 
第1部: 動物の音声コミュニケーションの観点から

 ヒト言語に見られる音韻論的固有性の霊長類起源はどのように探求されるべきだろうか? (香田啓貴)

 動物の発声からヒト発話に至る長い道 (岡ノ谷一夫)

 セキセイインコが音声コミュニケーションについて教えてくれること (関 義正)

 ヒト乳児の前言語発声と発達過程を進化的視点から考える (高橋美樹)
 
第2部: 人間の音韻知識・音声実行の観点から

 育児語の音韻特性はどこから来たのか: 子供の発話から学んだ? それとも言語知識の一部?(馬塚れい子・林安紀子・近藤公久)
 
 音韻表示におけるエレメントへの併合の適用 (那須川訓也)

 言語知識の由来: 強勢類型への進化的アプローチ (Bridget D. Samuels, Pedro T. Martins, Cedric Boeckx)

 分節内表示変異と言語進化 (Geoffrey Schwartz)

 進化言語学においてあるべき音韻論の輪郭と役割: なぜ、どのように現存言語から言語起源に迫ることができるのか (田中伸一)
 

関連情報

J-STAGE: 特集「音声/音韻から言語の化石を発掘する: 進化言語学の最新の知見」
序論: 進化言語学においてなぜ今が音声学/音韻論のやり時なのか
田中 伸一
21 巻 (2017) 1 号 p.12-15
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/onseikenkyu/21/1/_contents/-char/ja/
 
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究
共創的コミュニケーションのための言語進化学
http://evolinguistics.net
 

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