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真っ白の表紙

書籍名

Traité du Corail (A Treatise on Coral)

著者名

François Bizet

判型など

273ページ

言語

フランス語

発行年月日

2021年

ISBN コード

978-2-490300-11-2

出版社

Fidel Anthelme X

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Traité du Corail

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『Traité du Corail (訳:サンゴについての概論)』は、科学者ジャン=アンドレ・ペイソネル (Jean-André Peyssonnel) の1744年の発見「『石のような植物』と呼ばれていたサンゴが実は動物である」を起点としている。しかしながら本書は、科学史から忘れ去られたペイソネルの博物学者としての業績を回復させようとするものではない。彼の人生におけるいくつかの主要な出来事に基づいて、人間とその研究対象との魅惑的な関係を、サンゴの3側面 (ミネラル、植物、動物) の神秘を通して探索する口実である。この科学的精神と古代生物との遭遇は、演劇、詩、科学的論文、哲学的対話が混合したテクストと、大部分を占めるサンゴ自身による語りによって編成されている。
 
岩礁 (サンゴ) は複合生物であり、多頭ヒドラでもあり、一種の超個体でもある。よって、ペイソネルの地球での運命と科学的冒険が、支配的でも超越的でもないこの新種の語り手によって語られることには意味がある。このスーパーナレーターは複数の声を持ち、ポリフォニーで多弁で尽きることはないのだ。したがって『Traité du Corail』は、その研究対象物であるサンゴの様な生命体のごとく増殖するテクストとして構想されている。人間という主体は全く個人的なスケールを超えて、数えきれないほどの要素、種、物質、エネルギー、物理法則に圧倒され、語りはいわゆるヒト中心的でなくなる。人類は何よりも優れた存在ではもうなくて、数ある現象のうちのひとつに過ぎない。もはやヒトが世界を征服しながら横断するのではなく、出来事、生き物、環境がヒトを横切っていくのだ。
 
最終的にヒトは、始まりと終わりの絶え間ない流れと、地質学的宇宙的時代の大きな変動のもとで元の場所に戻される。この意味で『Traité du Corail』が皮肉にも帰する先は「ホモ・サピエンスの出現と拡大、そして消滅」だろう。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 フランソワ・ビゼ / 2021)

関連情報

書評:
Traité du corail de François Bizet par François Huglo  (sitaudis.fr  August, 2021)
https://www.sitaudis.fr/Parutions/traite-du-corail-de-francois-bizet-1628578072.php
 
Florence Trocmé  (Anthologie permanente  July, 2021)
https://poezibao.typepad.com/poezibao/2021/07/anthologie-permanente-fran%C3%A7ois-bizet-trait%C3%A9-du-corail.html

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