東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

魚の大群が描かれた表紙、緑と青

書籍名

Fisheries Science Series Eel Science

著者名

Katsumi Tsukamoto、 Mari Kuroki、 Soichi Watanabe (編)

判型など

318ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2023年12月14日

ISBN コード

978-981-99-5691-3

出版社

Springer Nature

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学内図書館貸出状況(OPAC)

Eel Science

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ウナギは常に興味深い研究対象として科学者を魅了してきた。近代科学の発展の基礎を築いた古代ギリシャの哲学者で博物学者のアリストテレスでさえ、ウナギがどのように繁殖するのか不思議に思っていた。ウナギの深淵なる謎を理解しようとした彼の探究心は、創造的研究や執筆活動にインスピレーションを与えていた。
 
この20年間でウナギの科学は大きく進展した。とくに、東京大学の研究チームが中心となり、2009年に西部北太平洋の西マリアナ海嶺付近で直径約1.6ミリメートルの天然のニホンウナギ卵を採集したことは、海洋科学史上でも画期的な出来事であった。この成果は、長年にわたりウナギの研究を牽引してきた東京大学の塚本勝巳名誉教授と数多くの研究者の弛まぬ情熱が結実したものといえる。他にも、フィリピン・ルソン島における約70年ぶりのウナギ属の新種発見、分子系統解析に基づくウナギ属魚類の系統進化、インド-太平洋の熱帯域におけるウナギの生態、最新のバイオロギング技術を用いた産卵親魚の回遊などの研究の進展が挙げられる。応用科学の分野では、2002年に日本でニホンウナギの人工孵化仔魚をシラスウナギ稚魚まで飼育することに成功し、2010年にはその次世代が誕生した。現在では、人工孵化によって得られたウナギを継代飼育することが可能であり、育種学など新たな学問領域の開拓につながっている。
 
一方、ウナギ資源の保全管理やIUU漁業 (違法、無報告、無規制に行われている漁業) に対する社会の関心は、近年ますます高まっている。多くの国や地域において、国際取引や漁業規制、保全策が実施されているが、より効果的な対策が急務とされている。ウナギは、野生生物資源としても食料資源としても、地球環境と人類の共生を図っていくための象徴的な生き物として、今後さらに重要性を増していくであろう。
 
本書は、ウナギに関する科学を総合的に理解し、今後のウナギ学研究の道標として活用されるように企画されたもので、それぞれの専門分野の研究者によって執筆された23章で構成されている。しかし、本書を読み進めていくとわかるように、ウナギという生き物の全貌は未だ明らかとなっていない。今後の研究成果の蓄積により、数十年後には本書の情報が古くなるほどウナギ学がさらに進展し、そして、この地球上でウナギが安定的に繁栄していることを願っている。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 / 農学生命科学研究科・農学部 准教授 黒木 真理 / 2023)

本の目次

Part I Taxonomy
1 Morphology and Taxonomy
2 Population Structure and Speciation
 
Part II Ecology
3 Life History
4 Spawning Areas
5 Larval Transport
6 Glass Eel Recruitment
7 Spawning Migration
8 Behavior
 
Part III Physiology
9 Senses and Nervous System
10 Digestion and Absorption
11 Osmoregulation
12 Reproduction
13 Metamorphosis and Silvering
 
Part IV Applied Science
14 Artificial Maturation
15 Larval Rearing
16 Breeding
17 Diseases
 
Part V Resources and Conservation
18 Fisheries
19 Resources
20 Trading and Distribution
21 Circulation
22 River Improvement
23 Conservation
 
Correction to: Reproduction

関連情報

関連記事 :
黒木真理「回遊するニホンウナギから見えてくる地球のウェルビーイング」 (『ふるえ』Vol. 50 2024年1月)
https://furue.ilab.ntt.co.jp/book/202401/contents1.html
 
塚本勝巳「Story 3 研究者という生きものは」 (みつむら web magazine 2015年1月1日)
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/webmaga/kotoba-to-manabi/interview/tsukamoto/story3
 
塚本勝巳「Story 2 ウナギがかわいくなっちゃって」 (みつむら web magazine 2015年1月1日)
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/webmaga/kotoba-to-manabi/interview/tsukamoto/story2
 
塚本勝巳「Story 1 「ウナギのなぞを追って」のその後」 (みつむら web magazine 2015年1月1日)
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/webmaga/kotoba-to-manabi/interview/tsukamoto/story1

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