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白い表紙にカラフルな丸の模様

書籍名

新グローバル時代に挑む日本の教育 多文化社会を考える比較教育学の視座

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年5月31日

ISBN コード

978-4-13-052082-9

出版社

東京大学出版会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

新グローバル時代に挑む日本の教育

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本書は比較教育学を中心に、教育社会学、異文化間教育学といった隣接領域を交えた理論的視点から、日本社会が直面するグローバルな教育課題を多様な切り口から考察した一冊である。「新グローバル時代」という表題には、「「グローバル化」が自明視されるものから、批判的に選択するものへと転換したことを強調」し(ii)、社会的公正の視点から日本の教育の国際化と多文化化の実態を検証しようとする意図が込められている。各章では、日本社会において見えにくい存在や語られにくい課題にアプローチし、「あたりまえ」とされている事象やものの見方に内在する問題性や変革可能性、あるいは国内では気づかれにくい日本の教育の強みが考察されている。特に、同質性を前提とした形式的平等が日本における国民教育の前提となっていることを批判的に考察し、グローバルな関心をもつ民主的市民を育成する教育について提言を行っている。
 
本書の特徴のひとつは、批判的エスノグラフィーを用いてマイノリティの生活世界に入り込み、「周辺」から日本の教育の課題を照射している点である。第I部、第II部の各章では、移民の親と子ども、留学生、障害のある生徒、不登校の子ども、ひきこもりの若者の経験に焦点を当て、同質性を前提とした日本社会の「あたりまえ」を批判的に検討している。参与観察やインタビューから、日本の社会と教育に内在するマジョリティの権力性を考察するとともに、マイノリティのエンパワメントにむけた現場の挑戦を分厚いデータにもとづいて描きだしている。
 
もうひとつの特徴は、国際比較を用いて「外側」の視点から日本の教育の課題と可能性を明らかにしている点である。第I・II部のいくつかの章では、欧米における「移民」の理解や教育支援と比較しながら、日本における移民の不可視性およびそれをもたらす同化と排除の圧力を論じている。第III部の各章では、協働的な日本の初等教育、遊びと学びが一体化された日本の保育、日本の子どもの自己肯定感の低さ、中国の素質教育改革といったトピックを取り上げ、国際的な見地から日本の教育の良さと課題についてバランスの取れた議論を展開している。国際比較によって、日本の「常識」が他の国や地域では「非常識」になることを映し出し、現状とは異なるものの見方や制度の在り方が可能であることが示唆されている。
 
本書は東京大学大学院教育学研究科で長年指導にあたられた恒吉僚子先生が退職されることを契機に、筆者を含めた教え子たちが一堂に会して編んだ書籍である。恒吉先生は、海外と日本、理論と実践、規範と実証、マクロとミクロを俯瞰し、その境界線を柔軟に往還しながら日本の比較教育学を牽引されてきた。そのまなざしの先には常に日本型多文化社会の実現があった。各章に通底するそのレガシーを感じ取っていただき、執筆者たちが培ってきた多様性を包摂する公正な社会ヴィジョンを読者と共有できれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 額賀 美紗子 / 2021)

本の目次

はじめに(恒吉僚子)

第1章 課題先進国,国際化後進国――日本の教育が歩むべき道(恒吉僚子)
コラム1 移民の子どもの定量的研究の現状と課題――日米比較から(木原 盾)


第I部 周辺から見た日本の教育――どのように多様性と向きあうか

第2章 不可視化される移民の子どもたちの複合的困難――グローバル化する日本社会に求められること(額賀美紗子)
コラム2 在日ブラジル学校に通う生徒たちの日本での進学における課題(ヨシイ オリバレス ラファエラ)

第3章 移民児童生徒に対する教員のまなざし――多文化社会における社会化を問う(高橋史子)
コラム3 多文化化する在日韓国系学校,多様化する生徒の歴史認識(李 璱妃)

第4章 「日本的グローバル人材」の形成――就職活動を通じた留学生人材の日本への同質化(譚 君怡)


第II部 多文化社会と教育――どのように多様性を包摂するか

第5章 高等専修学校におけるインクルーシブ教育(伊藤秀樹)
コラム4 帰国生大学入試における課題――救済策から能力主義的・競争的選抜への移行(井田頼子)

第6章 ひきこもり当事者を対象とした居場所支援(御旅屋 達)
コラム5 日本の多文化保育(長江侑紀)

第7章 アメリカのNPOによる中国系移民生徒の教育支援――ストレングス・アプローチから(徳永智子)
コラム6 カナダにおける反人種主義の取り組みと課題(住野満稲子)


第III部 グローバル化の中の日本の教育――どのように国際化・多文化化できるのか

第8章 国際的に見た日本の教育の強さと弱さ(恒吉僚子)
コラム7 「学びのシステム」としてのレッスン・スタディと授業研究(草彅佳奈子)

第9章 国際的に見た日本の保育――輸出入をめぐる現状(大滝世津子)
コラム8 国際交流活動から見える日本の英語教育の課題(越智 豊)
コラム9 教師の学びを支える――日米相互理解(キャサリン ヒグビー イシダ)

第10章 国際学力調査から見た日本人生徒の自己肯定感(森いづみ)
コラム10 コンピテンシーと国旗掲揚式――教育モデルの複層性について(岩渕和祥)

第11章 中国の21世紀型教育改革からの示唆(代 玉)

終 章 日本の教育の国際化と多文化化に向けて(額賀美紗子・恒吉僚子)

あとがき(額賀美紗子)

関連情報

書評:
渋谷真樹 (日本赤十字看護大学看護学部教授) 評 (『教育学研究』第89巻第1号 2022年3月)
http://www.jera.jp/category/publish/

小林聡子 (千葉大学国際教養学部准教授) 評 (『異文化間教育』第55号 2022年)
http://www.intercultural.jp/journal/new.html

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