東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

地球のイラストとシルバーの表紙

書籍名

移民から教育を考える 子どもたちをとりまくグローバル時代の課題

著者名

額賀 美紗子、 芝野 淳一、三浦 綾希子

判型など

264ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年9月30日

ISBN コード

9784779513695

出版社

ナカニシヤ出版

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移民から教育を考える

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21世紀は「国際移民の時代」と言われます。移民を「通常居住しているのとは異なる国に1年以上居住している人」とする国際連合の定義に従えば、欧米諸国に比べて民族的同質性が比較的高いと言われてきた日本社会でも近年移民が急増し、多民族化が進行しています。2020年現在、日本の外国籍人口は290万人を超えて過去最高を更新し、その数はこの30年間で3倍近くになりました。生まれてくる子どもの28人に1人は少なくとも片方の親が外国籍です。教室に移民背景を持つ子どもがいることは珍しくなくなりました。親が外国出身で本人は日本生まれ、日本育ちの「移民第二世代」といわれる子どもや若者も増えています。少子高齢化による労働力不足により日本社会は移民受け入れに舵を切り、また国際結婚も進む中で、今後移民背景をもつ子どもたちは日本社会にますます増えていくことでしょう。
 
こうした日本社会の変化を踏まえた本書は、大学生を中心とする幅広い層の読者に移民の子ども・若者の生活世界を知ってもらい、移民の視点から日本の教育と社会の「あたりまえ」を批判的に考えてもらうことを目的とした入門テキストです。日本の社会や学校の「あたりまえ」が、移民の子どもたちの「あたりまえ」ではないことはたくさんあります。しかし、日本の教育と社会の中で、移民の子どもたちの「あたりまえ」は無視されたり、否定されたりしがちです。移民の子ども・若者たちの声に耳を傾け、かれらの経験や文化を知ることによって、画一的平等を重視する一方で多様性への配慮が弱いという日本の教育の課題が見えてきます。
 
本書では、「なんで移民が日本に増えているんだろう?」「移民の子たちはどんなことで困っているんだろう?」「学校や地域はどんなふうに移民の子たちを支えていったらいいの?」などの素朴な疑問に対して、理論や概念を紹介しながらできるだけ分かりやすく説明することを心がけました。執筆者は教育学や社会学の視点から移民の子どもに関わる研究をしている16名の若手研究者です。各章ではそれぞれが手がける最新の研究も紹介されているので、この分野にすでに詳しい読者にとっても新鮮な発見があるかもしれません。19個あるコラムでは、関連する小説や映画の紹介、大久保や神戸などのエスニックタウンの街歩き案内、国内外の学校現場や支援現場の実態、アイヌや沖縄人の歴史と人権保障、ヘイトスピーチなど多岐に渡るトピックをとりあげました。多文化化、多民族化の日常的なリアリティを身近に感じてもらいながら、グローバリゼーションや社会的不平等といったマクロな構造的問題へと社会学的想像力を膨らませてもらうことを意図しています。
 
「移民から教育を考える」というタイトルには、周縁化されたマイノリティの人々の視点から日本の教育と社会を問い直すという問題意識が込められています。移民にかぎらず、障害、貧困、性的志向などによって社会的に弱い立場にある人々の権利が保障され、多様であることが尊重される寛容な教育と社会を構想するきっかけとして本書が役立つことを願っています。

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 額賀 美紗子 / 2021)

本の目次

はじめに

序章 グローバル時代の国際移動と変容する日本社会:移民と出会う日常 額賀美紗子

 1 はじめに:国際移民の時代に生きる
 2 グローバル化とトランスナショナリズム
 3 加速する国際移動
 4 移民がもたらす国民国家の変容
 5 多民族化・多文化化が進む日本社会
 6 おわりに:移民の子ども・若者たちを理解するために

コラム1 「カテゴリー」を批判的に問いつづける (金南咲季)

Part I 日本社会の多文化化

Chapter1 オールドカマー:その歴史が問いかけるもの 呉永 鎬

 1 はじめに:在日朝鮮人とは
 2 戦前の在日朝鮮人
 3 朝鮮学校
 4 公立学校における在日朝鮮人教育
 5 おわりに:歴史から学ぶ

コラム2 「世界のウチナーンチュ」政策から私を問う:日本と沖縄の不公正な関係をめぐって (藤浪 海)
コラム3 日本の先住民族・アイヌの権利とその保障 (三浦綾希子)

Chapter2 ニューカマー:加速する日本社会の多文化化 三浦綾希子

 1 はじめに:「ニューカマー」とは
 2 ニューカマーの子どもたちの実態
 3 ニューカマーの来日経緯
 4 ニューカマー第二世代を取り巻く諸課題
 5 おわりに:「多文化社会・日本」の行方

コラム4 「ハーフ」という言葉から考える (坪田光平)

Chapter3 海外帰国生:教育問題の変遷と新たな動向 芝野淳一

 1 はじめに:古くて新しい海外帰国生問題
 2 海外帰国生の実態と教育支援
 3 海外帰国生問題の変遷
 4 海外帰国生問題の新たな動向
 5 おわりに:海外帰国生教育のこれから

コラム5 国際移動する教師たち:在外教育施設派遣教員について(芝野淳一)

Chapter4 留学生:日本における外国人留学生と日本からの海外留学 新見有紀子

 1 はじめに:「人生を変える」留学
 2 留学交流の背景
 3 日本における外国人留学生の受け入れ
 4 日本からの海外留学
 5 おわりに

コラム6 私の人生を変えた海外留学経験(新見有紀子)

Part II 移動する子ども・若者の生活世界

Chapter5 家族:多様な文化と教育戦略 敷田佳子

 1 はじめに:教育戦略とは何か
 2 日本に住む多様な家族
 3 家族の教育戦略
 4 家庭における母語・母文化の伝達とその困難
 5 移民の子どものエスニック・アイデンティティ形成
 6 おわりに:家族の多様性を認める

コラム7 異なる人びとがつながろうとするときに生ずる葛藤とその背景を知る:映画『ビッグ・シック (The Big Sick)』から(敷田佳子)

Chapter6 学校:子どもの生きにくさから考える 坪田光平

 1 はじめに:学校とはどんな場所か
 2 移民の子どもの進学状況と日本の教育制度
 3 「特別扱いしない」日本の学校文化
 4 教室における差異の管理と子どもたちの抵抗
 5 生きにくさの広がり
 6 おわりに:これからの学校はどんな場所か

コラム8 「進路保障」のジレンマ(山野上麻衣)

Chapter7 地域:見慣れた風景と出会いなおす 金南咲季

 1 はじめに:身近な地域を歩いてみよう
 2 子どもの教育は「学校」と「家庭」で完結する?
 3 地域によって教育課題や実践はどう異なる?
 4 地域が教育をつくり,教育が地域をつくる
 5 おわりに:見慣れた風景と出会いなおす

コラム9 移民の町を歩こう(新大久保編)(三浦綾希子)
コラム10 移民の町を歩こう(神戸編)(山本晃輔)

Chapter8 労働市場:それはいかに移民の教育と関係するのか 藤浪 海

 1 はじめに:コンビニで働く留学生の姿から
 2 「フレキシブルな派遣労働力」としての日系ブラジル人と子どもの教育
 3 職業的スティグマのなかを生きるフィリピン人女性と子どもの教育
 4 学業と就労のはざまで揺れるネパール人留学生
 5 おわりに:移民の教育と労働市場の多面的関係性

コラム11 技能実習制度が生み出す過酷な労働・生活環境:ドキュメンタリー映像『技能実習生はもうコリゴリ――ベトナム人の声』から(藤浪 海)

Chapter9 トランスナショナルな生活世界:往還する日系ブラジル人の教育経験から 山本晃輔

 1 はじめに:継続する日本とブラジル間の移動
 2 日系ブラジル人の日本における生活と教育
 3 移動とともにある日系ブラジル人の生活と教育
 4 おわりに:移動を支える教育を模索する

コラム12 複数の国・文化のはざまを生きる若者のアイデンティティ:小説『真ん中の子どもたち』から(住野満稲子・徳永智子)

Chapter10 グローバル社会と教育格差:東アジアにおける教育移住を手がかりに 五十嵐洋己

 1 はじめに:子どもの教育のために海外へ移住する時代
 2 教育移住の実態
 3 教育移住が起こる背景
 4 東南アジアに教育移住する日本人家族
 5 教育移住をめぐるリスクと移動と教育格差
 6 おわりに:グローバル社会と教育格差を考える

コラム13 「グローバル人材」は「グローバル市民」のこと?(五十嵐洋己)

Part III 多様性の包摂に向けた教育

Chapter11 移民国家アメリカの多文化教育:多様性の尊重と社会的公正をめざして 額賀美紗子

 1 はじめに:「多様性の統合」をめざすアメリカ社会
 2 統合理念の変遷
 3 「平等(equality)」から「公正(justice/equity)」へ
 4 移民の子どもの適応過程
 5 多文化教育の発展と定着
 6 おわりに:多文化教育の課題と展望

コラム14 移民の教育に関する国際比較(髙橋史子)

Chapter12 多文化共生と日本の学校教育(施策編):公正な社会をめざす学校教育のあり方とは 山野上麻衣

 1 はじめに:自分のこととして考えてみよう
 2 多文化共生とは何か
 3 異文化の理解をめぐる施策
 4 外国人児童生徒を取り巻く教育施策
 5 教育における公正を考える:高校入試の特別枠をめぐって
 6 おわりに:多文化共生の教育に向けて

コラム15 公立学校で働く外国籍教員(呉永鎬)

Chapter13 多文化共生と日本の学校教育(学校実践編):多文化社会における学校の役割と課題 髙橋史子

 1 はじめに:多文化共生に向けた学校内の先進的な教育実践
 2 日本語学習
 3 多文化共生と社会的公正に向けた先進的取り組み
 4 おわりに:多文化社会における学校役割の課題と展望

コラム16 アメリカのバイリンガル教育(額賀美紗子)

Chapter14 外国人学校:多様な教育を創造する 薮田直子

 1 はじめに:「外国人学校」という用語の複雑性
 2 外国人学校とはどのような学校か
 3 なぜ外国人学校に通うのか
 4 外国人学校はどこへ向かうのか
 5 おわりに:外国人学校の可能性

コラム17 ヘイトスピーチ(呉永鎬)
コラム18 高校無償化制度と朝鮮学校(三浦綾希子)

Chapter15 ノンフォーマルな教育と居場所:夜間中学校・NPO・エスニック組織・メディア 徳永智子・住野満稲子

 1 はじめに:多様な学びの場に目を向けて
 2 ノンフォーマルな教育と居場所
 3 夜間中学校
 4 NPO
 5 エスニック組織
 6 メディア
 7 おわりに:ノンフォーマルな場からみえてくる世界

コラム19 ベトナム語の継承語教室(薮田直子)

終章 移民から教育を考える 三浦綾希子・芝野淳一

 1 本書で学んだこと
 2 日本の教育がこれまで想定してこなかったこと,これから想定すべきこと
 3 移民から教育を考えるために
 

関連情報

著者インタビュー:
UTOKYO VOICES 088 移民の子どもは「学習意欲がない」のか? 現場から、その背景をあぶりだす。 (東京大学ホームページ 2020年6月11日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/voices088.html
 
書評・図書紹介:
難民問題を知ろう学ぼう! 「本から学ぶ移民・難民」 (Living in Peace難民プロジェクト 2021年7月4日)
https://note.com/lip_refugee/n/n0b1308a14260

松岡洋子 評 (移民政策学会『移民政策研究』第13号 2021年5月20日)
https://www.akashi.co.jp/book/b583310.html

佐久間孝正 評 (日本教育社会学会『教育社会学研究』第107 集 2020年12月10日)
https://www.toyokan.co.jp/products/4297
 
福本みちよ 評 (『教育学研究』第87巻 第3号 2020年9月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku/87/3/87_414/_pdf
 
山ノ内裕子 評 (日本移民学会『移民研究年報』第26 号 2020年6月)
https://www.akashi.co.jp/book/b515987.html
 
渋谷真樹 評 (子ども社会学会『子ども社会研究』第26号 2020年)
https://www.js-cs.jp/jscs_news/journal/vol_26/
 
芝野淳一 (異文化間教育学会『異文化間教育』第52号 2020年)
http://www.intercultural.jp/journal/052.html
 
八木雅之 評 (『日本教育新聞』 2020 年 3 月 2 日記事)
https://www.kyoiku-press.com/post-213628/

 

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