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書籍名

21世紀の学びを創る 学習開発学の展開

著者名

森 敏昭 (監修)、 藤江 康彦、 白川 佳子、清水 益治 (編)

判型など

272ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年4月27日

ISBN コード

9784762828959

出版社

北大路書房

出版社URL

書籍紹介ページ

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21世紀の学びを創る

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本書は、「学習開発」(Learning and Curriculum Development) という考え方を軸とし、人間が学び続けることを支援するための教育実践の研究やデザインのあり方を提唱することを目的としている。背景にある状況として、本書刊行時、私は以下の5点を挙げた (本書「はじめに」参照)。

(1) 知識基盤社会の到来に対応するために「21世紀型能力」の育成について盛んに議論されているが、これは学習科学が目指す「21世紀型学力」と軌を一にしている。21世紀も15年がたち、この間の大災害の頻発や社会変動に伴う生き方や価値観の問い直しとさらなる多様化をうけ、初等教育段階から高等教育段階まで、21世紀型が能力を育むより具体的な施策を見通して、制度改革も含めたさらなる検討が求められている。
 
(2) 超高齢化社会の到来や学習形態の多様化に対応した、学校教育にとどまらない新たな学習の場や契機の創出、学習支援システムの構築が喫緊の課題となっている。
 
(3) 「学習科学」の興隆により教育実践の研究の創出、学校経営や教育施策に際して、「教授」や「指導」だけではなく「学習」や「学習環境」への着目がますます強まり、実践的提言が求められるようになっている。
 
(4) 生涯発達や生涯学習、人材育成の観点が持ち込まれることで、学習研究のフィールドが拡がり、学校教育のみならず医療機関や企業など人間が働く「現場」における専門家としての学習や熟達も研究対象となっている。

(5) 教育実践研究として、実践現場や実践者を対象化し分析する研究に加えて、研究者と実践者の協働の下で実践を創造するアクションリサーチやデザインベース研究などが認められるようになっている。
 
ここで挙げた5点は、それから5年経った現在でも大きく変わっていない。
 
本書は以下の内容からなる。
 
第I部では、「学習科学」によって立つ学習観や研究法の特徴を紹介したうえで、学習科学における学力論、学習者論、授業論、評価論が展開される。
 
第II部は幼児期から学齢期の学習が扱われる。第5章は幼児期の学習に焦点が当たる。デザインベース研究や研修など、子どもを取り巻くおとなの学びについて深く踏み込んで論じられている点が特徴的であり、この点にも学習科学の貢献が見込まれる。第6章は児童期から青年期にあたる初等中等教育段階の学習に焦点が当たる。学校教育に学習科学のアイデアがどのように導入されうるのか、研究と実践それぞれに対してのモデルとなるであろう。
 
第III部は成人期以降の学習が扱われる。第7章は高等教育における学習に焦点が当たる。子どもから市民へ、児童生徒から専門的職業人への移行期となる高等教育段階において学習者に求められる資質や能力の質が問われている。学習科学からの一つの回答となろう。第8章はキャリア発達や生涯発達の観点からの学習に焦点が当たる。学習科学が学校教育を超えていかに拡張可能であるかその広がりと深まりを示している。

人間の学習のありかた、学習を中心に据えた教育実践の研究に関心のあるかたに手にとっていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 藤江 康彦 / 2021)

本の目次

はじめに (藤江康彦)
 
第I部 学習開発学が目指すもの:学びの新たな地平 (森 敏昭)
第1章 学習科学の理論と方法
1節 学習科学と学習心理学
2節 学習科学の方法
 
第2章 学習科学が描く21世紀型学力
1節 21世紀型学力とは
2節 21世紀型学力の育成
 
第3章 学習科学が描く21世紀型学習者
1節 自律的に学ぶ学習者
2節 情報を発信する学習者
3節 適応的熟達を目指す学習者
4節 共に学び合う学習者
 
第4章 学習科学に基づく21世紀型の授業と評価
1節 21世紀型授業が目指すもの
2節 21世紀型評価が目指すもの
 
column 1 知識空間理論(KST)とeラーニング (Dietrich Albert/吉岡敦子 (訳))
 
第II部 子どもの学び
第5章 幼児期の教育における学び
1節 学びの環境(清水益治・田口雅徳)
2節 アート,協同描画(若山育代)
3節 科学する心(清水益治)
4節 保育所・幼稚園と小学校との連携から接続へ(白川佳子)
 
第6章 初等中等教育における学び
1節 小学校国語科「話すこと・聞くこと」実践における教育心理学の応用(梶井芳明)
2節 小学校社会科における学習環境としての教室談話(藤江康彦)
3節 これからの食育を考える(柴 英里)
4節 メタ認知を基盤とした高等学校理科の授業実践の重要性─子どもたちの自律的・協調的な学びを目指して(草場 実)
5節 これからの評価とICTを活用した指導のあり方(寺本貴啓)
 
column 2 わが国の保幼小の接続の動向(白川佳子)
 
第III部 大人の学び
第7章 高等教育における学び
1節 21世紀市民リテラシーとしての批判的読解力(沖林洋平)
2節 外国語教育における文章理解の認知心理学的背景(鈴木明夫・濱田 陽・中山誠一)
3節 社会の期待に応える高等教育─保育者を育てる(森野美央)
4節 教員養成段階における学生の学び(三島知剛)
 
第8章 仕事と社会における学び
1節 熟達者のさらなる成長促進─プロジェクトリーダーの擬似経験学習(伊東昌子)
2節 専門職の学習のあり方(金田太吾)
3節 教師の学習の契機としての小中一貫教育(藤江康彦)
4節 ヘルスプロモーション(加藤佳子)
 
column 3 すべての人が,自ら学び,また学び続ける社会を目指して(清水益治)
 

引用文献
人名索引
事項索引
 

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