東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙

書籍名

人はいかに学ぶのか 授業を変える学習科学の新たな挑戦

著者名

全米科学・工学・医学アカデミー (編)、秋田 喜代美、 一柳 智紀、 坂本 篤史 (監訳)

判型など

396ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2024年4月12日

ISBN コード

9784762832499

出版社

北大路書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

人はいかに学ぶのか

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みなさんはこれまでたくさんの学習をしてきたことと思います。その中で、自分にあった学び方や先生によって異なる教え方があるなど、たくさんの学習にかかわる経験をしているでしょう。しかし、そもそも学ぶということがどういうことなのか、考えたことはあるでしょうか?
 
本書は書名の通り、人がいかに学んでいるのかについて、学習科学という学術領域における最新の知見をまとめ、紹介しています。学習科学とはその名の通り、人の学習についての科学です。その対象範囲は広く、人の記憶や動機づけ (モチベーション) といった身近なところから、学習環境や文化、テクノロジーといった社会的・工学的な側面、脳や神経といった医学的な側面からも、人の学習にアプローチをしています。とりわけ、本書において強調されているのは、次に挙げる学習の6つの特徴です。第1に、人種や民族、文化的多様性、ジェンダーといった社会文化的文脈が学習に与える影響についてです。こうした文脈が、実は人の学習に大きな影響を与え、異なる結果をもたらしていることが示されています。第2に、脳科学や神経科学の進展から得られた学習に関する知見です。ここでは、近年の脳科学の知見を踏まえると見えてくる学習の特徴について示されています。第3に、認知的側面だけではなく情動に関する研究の発展を踏まえた内容です。これまで、人の情動 (気持ち、感情) は学習を研究する際に取り上げられてきませんでした。しかし、最新の研究では情動が人の記憶や動機づけなどに影響し、学習に深くかかわっていることがわかってきました。第4に生涯にわたる視点から捉えた学校の内と外を接続していく学習に関する知見です。人の学習は学校が終わると同時に終わるわけではありません。生涯にわたって、さまざまな社会文化的文脈の中で学び続けています。しかし、そうした学習の特徴は必ずしも学校における学習とは同じではないことが示されています。第5に学習者の多様性としての様々な学習障害とその支援に関する内容です。一口に学習者といってもみなさん一人一人違った学び方をしています。その違いは社会文化的文脈によるものもあれば、医学的なものによることもあります。そうした学習者の多様性がどのように現れているのかが本書では示されています。第6に進化するデジタルテクノロジーが学習に与える影響に関する知見です。私たちの日々の生活の中でデジタルテクノロジーはもはやなくてはならないものになりました。そうしたテクノロジーがどのように、またどんな影響を学習に与えているのか、最新の知見が示されています。
 
以上のように、本書は人の学習がさまざまなファクターの相互作用の中でダイナミックに起きていることを、最新の研究のエビデンスに基づきながらまとめています。そのため、学術的に意義があるだけでなく、広く人について理解する上で重要な知見を提供する社会的意義のある内容にもなっています。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 一柳 智紀 / 2024)

本の目次

第1章 導入
委員会への任務/エビデンスの取り扱い/本報告書のガイド
 
第2章 文化と文脈
学習の文化的性質/文化、生物学的特徴、そして文脈のダイナミックな相互作用/結論
 
第3章 学習のタイプと発達していく脳
学習のタイプ/学習と脳/結論
 
第4章 学習を支えるプロセス
学習の組織化/記憶/結論
 
第5章 知識と推論
知識ベースの構築/知識と熟達化/知識の統合と推論/学習を支援するための方略/結論
 
第6章 学習への動機づけ
理論的視座/学習者の信念と価値観/目標の重要性/動機づけに対する社会文化的影響/動機づけを向上させるための介入/結論
 
第7章 学校での学びへの示唆
学校での文化と学習/学問領域固有の学習/学習者を参加させ、力を与える/学習評価/結論
 
第8章 デジタルテクノロジー
学習目標に合わせたテクノロジーの利用/能動的な学習を促進するテクノロジー/授業設計のためのテクノロジー/学習の機会と課題/結論
 
第9章 生涯にわたる学び
加齢に伴う変化/学習障害/高校卒業後の教育経験/人材育成/生涯学習の促進/結論
 
第10章 研究課題
学習のダイナミックな性質/研究課題
 
引用文献

関連情報

原著
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, How People Learn II: Learners, Contexts and Cultures, The National Academies Press, 2018.
https://nap.nationalacademies.org/catalog/24783/how-people-learn-ii-learners-contexts-and-cultures
 
この本『人はいかに学ぶのか:授業を変える学習科学の新たな挑戦 (原題:How people learn II)』は『授業を変える:認知心理学のさらなる挑戦 (原題:How people learn)』(北大路書房 2002年) の続編となります。
https://www.kitaohji.com/book/b579491.html
 
書評:
新藤久典 評「エビデンス基に教育を再考」 (日本教育新聞 2024年9月2日)
https://www.kyoiku-press.com/post-283711/

大島純 評 (『図書新聞』3645号 2024年6月22日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1718868152787x523965414270566400

書籍紹介:
『全私学新聞』 2024年4月23日

新刊紹介 (学びの場.com 2024年4月19日)
https://www.manabinoba.com/books/022789.html
 
関連イベント:
【終了】7/25『人はいかに学ぶのか』刊行記念オンラインイベント開催 (北大路書房主催 2024年7月25日)
https://www.kitaohji.com/news/n57824.html

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