東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

表紙に2つのグラフ

書籍名

中公新書 アジアの国民感情 データが明かす人々の対外認識

著者名

園田 茂人

判型など

272ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2020年

ISBN コード

978-4-12-102607-1

出版社

中央公論新社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

アジアの国民感情

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21世紀になり、インターネットが普及したこともあり、世界各地で諸外国に対する見方や評価に関する世論調査が行われるようになってきています。日本では、内閣府や外務省が1970年代から、日本の対外認識や海外の日本評価をめぐる世論調査を実施してきましたが、最近では、ギャラップ社やピュー・リサーチ・センター、BBCワールドサービスなどが、グローバルな問題への評価を幅広く調査するようになってきています。ところが、これらの調査で意見が聴取されているのはアメリカやロシア、中国など強国に対する評価がほとんどで、アジア域内の詳細な対外認識については、研究の対象とされてきませんでした。アジア各地で断片的に行われてきた世論調査も、アジアを広く概観するには不十分な状況にありました。
 
本書では、筆者の研究グループが2008年、2013年、2018年と3時点に渡ってアジア域内の代表的な大学で学ぶ学部学生を対象に行ったアジア学生調査のデータを用い、従来の研究の欠落を生める作業を行いました。2008年は調査の実施を調査会社に委託しましたが、2013年は東京大学と早稲田大学の学部生が中心になって質問票の設計から回収まで行い、2018年は筆者が指導する東京大学の博士課程学生を中心に質問票の配布・回収を行うなど、学生自身もこのプロジェクトに参加し、データを利用して論文を発表するなど多くの成果を得ています。また大学院学際情報学府の授業でデータを用いた授業が展開されたり、データ収集に関わった博士課程学生が新たなプロジェクトを立ち上げたりと、その後もデータを利用した活発な研究活動が行われています。
 
本書で紹介された知見は多くあります。中でも、(1) ASEAN域内の相互認識は日本や韓国、アメリカ、オーストラリアといった国への評価ほど高くない、(2) 中国に対する評価は、評価が低い日本・ベトナム・フィリピン・台湾と、評価が高いタイ・マレーシア・シンガポール・インドネシアとで分かれる傾向にある、(3) 日本と韓国、中国とベトナム、マレーシアとインドネシアなど、外からは似た政治的・文化的特徴をもつと思われる国の間で相互に相手を悪くみる傾向が強い、(4) 東南アジアでは、国家としての中国イメージは中国人のイメージよりもよいが東アジアではこれが逆転する、といった知見は、従来の研究に新たな視点をもたらしてくれています。(1) はASEAN研究や地域統合論、(2) は中国外交研究、(3) は国際関係論、(4) は華人研究といった具合に、それぞれ社会科学の中で別個の領域として研究されていたのですが、これがアジア横断的な社会調査のデータを獲得することで、深みのある議論ができるようになったといって過言ではありません。
 
図表が多く、これを眺めるだけでも多くの示唆が得られるよう工夫をしています。ですます体の文章で読みやすくなっていますので、多くの方にお読みいただければと思っています。

 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 園田 茂人 / 2021)

本の目次

序章 なぜ国民感情なのか―対外認識を可視化する
第1章 台頭する中国への錯綜する視線―何が評価を変えるのか
第2章 ASEANの理想と現実―域内諸国への冷めた目
第3章 東アジア間の心理的距離―厄介な近隣関係
第4章 アジア各国・地域の特徴とは
第5章 影の主人公アメリカ―米中摩擦とアジアの反応
第6章 日本への視線―アジアからの評価、アジアへの目
終章  国民感情のゆくえ

関連情報

著者インタビュー:
著者に聞く:『アジアの国民感情』/園田茂人インタビュー (web中公新書 2021年1月27日)
https://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/116637.html
 
関連記事:
園田茂人「アジア諸国は反日? 親日? データが暴く日本の国際評価「ホントのところ」」 (文春オンライン 2020年10月26日)
https://bunshun.jp/articles/-/41040
 
自著解説:
著者からの紹介 (東洋文化研究所ホームページ)
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/pub2010-sonoda.html
 
書評:
鈴木早苗 評 (『外交』2021年第65巻p.140-143 2021年2月)
http://www.gaiko-web.jp/archives/3257
 
宮坂幸伸 評 (『改革者』2021年1月号p.65 2021年1月)
http://www.seiken-forum.jp/publish/top.html
 
短評 (『日本経済新聞』 2020年10月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65377840T21C20A0MY6000/

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