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ミャンマーの子供の写真

書籍名

ミャンマーの体制転換と農村の社会経済史 1986-2019年

著者名

髙橋 昭雄

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年2月26日

ISBN コード

978-4-13-040296-5

出版社

東京大学出版会

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ミャンマーの体制転換と農村の社会経済史

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本書は、ミャンマーだけではなく、現代東南アジアの農業経済の変容と農村社会の基礎構造に新たな視点を提供するものである。
 
1986年、ビルマ式社会主義末期に農村の社会経済調査をはじめて間もなく、二つの自問が脳裏に湧いてきた。その一つは、ミャンマー (ビルマ) は農業国であり、農村には農民が住んでいるはずなのに、意外にも村の総世帯数に占める農家の割合は少ないのではないか、もう一つは、ミャンマーの村は村ではないのではないか、少なくとも私が専業農家の長男として生まれ育った日本の村とは全く異なるコミュニティではないか、という問いである。その後、二百ヵ村を超えるミャンマー全国の村々を歩き、日本語、英語そしてミャンマー語で書かれた先人の労著を参照しつつ、この二つの問いへの自答を試みたのが本書である。
 
一つめの問いに関しては、1986年から2019年に至る33年間の農村社会の変容を「De-agrarianisation (脱農化)」という視点から論述した。二つめの問いに関しては、「村落共同体の不在」を実証しつつ、日本の農村社会とは全く異なる原理から成り立つミャンマー村落社会の基本構造を解明した。
 
序章では、ミャンマー現代史を、独立後民政期、ビルマ式社会主義期、軍事政権期、民主化期、の4期に区分し、それぞれの期の政治体制と経済制度を比較した。第I章では、ミャンマーの農業政策史を農地国有制、供出制、計画栽培制の三本柱の変遷史として再編し、農村政策史を植民地期の村落法の執行体制を中心に整理した。これを前提に、第II章では、様々な社会経済統計を駆使して、マクロレベルでの「脱農化」を論じた。第III章では、筆者が1986年から現在に至るまで調査を続けている二つの村の人口、就業構造、土地所有、農業生産、消費生活等の変化を筆者の個別世帯調査をもとに詳述し、ミクロレベルでの脱農化を検証した。第IV章では、仏教の繁栄がもたらした経済波及効果による、第V章では、激しい人口移動による、この二ヵ村の脱農化の進展を論じた。以上の調査研究によって、低開発の農業国といわれるミャンマーでさえ、確実に脱農化が進展しており、農村社会の変化はこれによって特徴づけられることを明らかにした。
 
第VI章では、「客観的集団論」と「主観的認知論」を接合することにより、ミャンマー村落社会論を構築した。様々な集団が集積し、「村の精神」が村を統べる日本とは対照的に、ミャンマーの村人たちは、個対個の二者関係の中で個を認識する。この関係は親族関係に準えられ、そのネットワークが「頻会の論理」によって村内に蓄積されて、「場の親族」としての村が成立する。第VII章では、土地管理、現物納税、用排水保全、村落基金、講組、宗教等々、様々な視点からミャンマーと日本の村を比較対照し、ミャンマーには村落共同体が存在しないことを証明した。この「共同体不在論」は、北ベトナムとジャワを除く東南アジア世界にも適用できるものと筆者は考える。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授・所長 髙橋 昭雄 / 2021)

本の目次

序 章   ミャンマーの政治経済体制史と本書の構成
第I章   体制転換と農業・農村政策
第II章  国民経済の中の農業と農村
第III章  二つの村の社会経済史
第IV章  仏教による村おこし――ティンダウンジー村とシュエテインドー・パヤー
第V章   移動する村人たち――ズィーピンウェー村の多民族共住化
第VI章  比較ミャンマー村落社会論――日本,タイ,そしてミャンマー
第VII章  ミャンマー村落は生活のコミュニティ
終 章   ミャンマー農村社会経済の変容と定常

関連情報

自著解説:
著者からの紹介 (東洋文化研究科ホームページ)
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/pub2103_takahashi.html
 
著者コラム:
(私の視点) 騒乱続くミャンマー 反クーデター、農村からも 高橋昭雄 (朝日新聞 2021年3月23日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S14842965.html
 
著者インタビュー:
ブックトーク・オン・アジア第8回 髙橋昭雄先生 (京都大学東南アジア地域研究研究所編集室SOUNDCLOUD 2021年)
https://soundcloud.com/user-153026370-46049678/takahashi
 
書評:
五十嵐誠 評「ミャンマー情勢」本でひもとく なぜ軍の政治支配が続くのか 元朝日新聞社ヤンゴン支局長・五十嵐誠さん (朝日新聞 2021年3月20日)
https://book.asahi.com/article/14290940
 
イベント:
東南アジア学会研究集会「ミャンマー情勢を読み解く」 (東南アジア学会 2021年9月1日)
https://www.jsseas.org/2021/08/11/%E6%9D%B1%E5%8D%97%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%9B%86%E4%BC%9A%E3%80%8C%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E6%83%85%E5%8B%A2%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%81%BF/

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