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遺跡の写真

書籍名

Göytepe: Neolithic Excavations in the Middle Kura Valley, Azerbaijan (ギョイテペ: アゼルバイジャン、クラ川中流域の新石器時代集落の発掘)

著者名

Yoshihiro Nishiaki, Farhad Guliyev (Eds.)

判型など

384ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2020年

ISBN コード

9781789698787

出版社

Archaeopress Archaeology

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Göytepe

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農業、つまり食料生産がどのように始まったのかについて考えたことはありますか。日頃、食べている米やパン、あるいは野菜や肉、調味料や飲み物にいたるまで、私たちの食べ物はほとんど全て農産物で占められているといっても過言ではありません。水産物はそうでないかも知れませんが、養殖だとすればそれも食料生産の一部です。
 
ヒトがうまれた数百万年前以来、私たちは自然の動植物を得て生活してきましたが、いつの時からか、それらのいくらかを選んで栽培飼育し、つまり、食料生産によって生きるようになったのです。都会育ちのみなさんには畑や田んぼ、牧場は身近でないし、そのような生き方の転換がもつ意味について考える機会も限られているでしょう。しかし、それは人類史の大きな転換点でした。農村の誕生こそが都市や、複雑な分業、社会制度などを備えた文明社会を生み出す原点となったからです。私たちの今の社会も、その延長線上にあります。 
 
農業の始まりは遠い過去の出来事とは言え、我々が営む文明社会の由来や本質を理解することに寄与するに違いありません。この研究は農作物 (植物) や家畜 (動物) だけでなく、地形や古気候、さらには当時のヒトの社会の変化など、自然科学から人文社会学まで、幅広い分野の参画を要する総合科学としてすすめられています。
 
私は、世界で最初に農業が始まった地域である西アジアで、この研究にかかわってきましたが、ここ10年ほどは、最古の農業が周辺地域にどのように拡散していったのかについて調べています。ここで紹介する図書は、西アジアの北に位置するコーカサス地方、国で言えばアゼルバイジャン共和国でおこなった発掘調査の成果を報告したものです。遺跡の名前をギョイテペと言います。西アジアでは1万1000年前ごろ農業が始まりましたが、それがコーカサス地方に伝わったのは約8000年前であったことがわかりました。地理的にはたかだか数百キロ (東京・大阪間くらい) しか離れていないのに、なぜ、農業が伝わるのに3000年もかかったのか、長く受け入れなかった新しい生活様式を突然、採用したのはなぜなのか。
 
この問題は、当時の社会のあり方を考えるうえでたいへん興味深い。西アジアの農耕社会とコーカサスの狩猟採集社会が長く対峙していたのに、そのバランスを崩す何かが起こったのでしょう。私は当時の気候変動に理由があったと考えています。
 
本書では、ギョイテペの発掘成果をもとに、この問題を議論しています。また、いったん始まった農耕が現地の社会を急速に変えていったこともあきらかにしています。当時の自然環境、集落の構造、建築物、道具、動物、植物、精神世界、周辺集落との関係など、野外調査で得られた証拠をさまざま組み合わせて、最古の農村のありかたを解き明かしていく面白さを感じてもらえればありがたいと思います。

 

(紹介文執筆者: 総合研究博物館 教授 西秋 良宏 / 2021)

本の目次

序文    西秋良宏 F.キリエフ
著者一覧
図版一覧
表一覧
第1章 はじめに  西秋良宏 F.キリエフ
 
第1部 野外調査
第2章 ギョイテペ遺跡の立地環境  早川祐一
第3章 ギョイテペ遺跡主発掘区の層序と建築  西秋良宏 F.キリエフ F.フアド 下釜和也
第4章 ギョイテペ遺跡4B区の発掘と層序、建築  門脇誠二 有松 唯 西秋良宏 
第5章 ギョイテペ遺跡縁辺部の試掘  西秋良宏 有松 唯 新井才二 
第6章 ギョイテペ遺跡における新石器時代建築の日干し煉瓦  西秋良宏 F.キリエフ E.ボードワン
第7章 ギョイテペ遺跡における貯蔵施設の地考古学的研究  門脇誠二 L.マーヘル M.ポルティヨ R.M.アルベルト
第8章 トブズ・コブラル地区、ギョイテペ遺跡周辺の考古学的踏査  下釜和也 V.アラバロフ
 
第2部:技術と生業
第9章 ギョイテペ遺跡出土の新石器時代打製石器群  西秋良宏
第10章 ギョイテペ遺跡出土打製石器群の使用痕分析  高瀬克憲
第11章 フラクチャー・ウィング法によるギョイテペ遺跡出土黒曜石石刃の剥離技術分析  高倉 純 西秋良宏
第12章 ギョイテペ遺跡出土磨製石器群の型式と技術  門脇誠二
第13章 ギョイテペ遺跡出土の新石器時代土器  有松 唯 小高敬寛
第14章 ギョイテペ遺跡出土の新石器時代土偶  下釜和也
第15章 ギョイテペ遺跡出土の新石器時代骨角器  新井才二
第16章 ギョイテペ遺跡出土の植物遺存体  赤司千恵 丹野研一
第17章 ギョイテペ遺跡出土の動物遺存体  新井才二 
まとめ   F.キリエフ 西秋良宏
 

関連情報

関連ページ:
国際共同展示 『Qafqaz Neolitiネオリティ ― 東京大学アゼルバイジャン 新石器時代遺跡調査2008-2015』によせて (東京大学総合研究博物館ニュースVolume 21/Number 1
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/web_museum/ouroboros/v21n1/v21n1_nishiaki.html
 
アゼルバイジャン、ギョイテペ遺跡発掘調査 (パレオアジア文化史学 ホームページ)
http://paleoasia.jp/%E6%B5%B7%E5%A4%96%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E6%83%85%E5%A0%B1/%E3%82%A2%E3%82%BC%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%80%81%E3%82%AE%E3%83%A7%E3%82%A4%E3%83%86%E3%83%9A%E9%81%BA%E8%B7%A1%E7%99%BA%E6%8E%98%E8%AA%BF%E6%9F%BB/
 
新石器時代集落ギョイテペの研究と保存公開 (文化遺産国際協力コンソーシアム ホームページ)
https://www.jcic-heritage.jp/project/europe_azerbaijan_201301/
 
展示:
【クローズアップ展示】「南コーカサス地方で農耕の起源を探る」 (古代オリエント博物館 2017年2月11日)
https://aom-tokyo.com/exhibition/170211_azerbaijan.html
 
国際共同展示『Qafqaz Neoliti ―東京大学アゼルバイジャン 新石器時代遺跡調査2008-2015』 (東京大学総合研究博物館 UMUTオープンラボ第三室 2016年5月14日)
https://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2016azerbaijan.html

 

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