東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

青い表紙に洞窟からの写真

書籍名

中央アジアのネアンデルタール人 テシク・タシュ洞窟発掘をめぐって

著者名

西秋 良宏

判型など

240ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月25日

ISBN コード

9784886218599

出版社

同成社

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中央アジアのネアンデルタール人

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ネアンデルタール人は、30~20万年前ごろのヨーロッパで生まれ、5~4万年前頃に絶滅した人類です。700万年前にもさかのぼる人類史からすれば最近の集団で、私たちホモ・サピエンスと最も近縁な種の一つとされています。1858年にドイツのネアンデルタール谷で最初の化石が見つかって以来、彼らは数々の謎を提起してきました。どんな顔つきをしていてどんな暮らしをしていたのか、そして、なぜ絶滅したのか。そもそも、私たちとどう違っていたのか。
 
研究史が長い割には謎だらけなのですが、考古学者にとっては、彼らがいつ、どこに住んでいたのかが気になります。それを最も確実に語るのは化石人骨です。ヨーロッパで多々見つかることは周知でしたが、1932年にイスラエルでも化石が見つかり、局面が変わりました。
 
そして、その分布が中央アジアにまで拡がっていたことを明らかにしたのが、本書で扱うテシク・タシュ洞窟、1938年に今のウズベキスタンで発掘された化石人骨なのです。しかも、埋葬された全身骨格であったことからセンセーショナルな発見となりました。長らく、この遺跡がネアンデルタール人分布の最東端でしたが、2007年になってさらに局面が変わります。遺伝研究によって、彼らがアルタイ山脈にもいたことが明らかになりました。加えて、彼らがホモ・サピエンスと混血 (交雑) していたこと、私たち日本人もネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいることなどもが判明し、アジアの研究動向が一気に関心を集めるにいたりました。
 
この状況をふまえて編んだのが本書で、アジア・ネアンデルタール研究の定点となったテシク・タシュ洞窟の過去と現在について整理しました。実のところ、中央アジア以東のネアンデルタール人情報原は化石の断片であったり遺伝データであったりでしかなく、彼らの姿形や生活の実相を直接語るものではありません。ほぼ完全な人骨化石、埋葬痕跡、石器、動物骨等々、古人類遺跡の研究に必要な証拠が全て出そろった遺跡は、今なお、テシク・タシュ洞窟以外にはないのです。
 
二部構成となっています。第一部では、旧ソビエト時代に刊行された古典的発掘報告の初めての邦訳を提示し、第二部には筆者による解釈、最新の研究動向の解説等を掲載しました。私自身、ここ10年ほどウズベキスタンでネアンデルタール人遺跡の調査を続けていますので、その成果についても述べています。
 
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の関係と言えば、長くヨーロッパや西アジアが研究の中心でした。中央アジア以東についての本格的な研究が始まったのは旧ソビエト崩壊後、ここ20数年間のことです。考古学的に研究が進んでいなかった地域が相手なのですから、今後も斬新な発見が続くに違いありません。その中には、私たち日本人のルーツにかかわる新知見もあるでしょう。それらを読み解く際に、研究の出発点、テシク・タシュ洞窟について知っておくことは有効に違いありません。
 

(紹介文執筆者: 総合研究博物館 教授 西秋 良宏 / 2022)

本の目次

第1部: テシク・タシュ洞窟の発掘  (A.P.オクラドニコフ、A.P.デレヴィアンコ / 下釜和也 訳)
序 章 テシク・タシュ洞窟の調査
第1章 1938~1939年調査の背景
第2章 立地と地域環境
第3章 層序と出土遺物の分布
第4章 ネアンデルタール人埋葬
第5章 出土遺物
第6章 旧石器時代の文化と生活
附 章 オクラドニコフ博士の功績
 
第2部: テシク・タシュ洞窟とその周辺  (西秋良宏)
第1章 アジアのネアンデルタール人
第2章 テシク・タシュ洞窟ネアンデルタール人の文化伝統
第3章 テシク・タシュ洞窟ネアンデルタール人の居住空間と墓
第4章 テシク・タシュ洞窟の現在
 
あとがき
 

関連情報

関連記事:
Yoshihiro Nishiaki, Otabek Aripdjanov “A new look at the Middle Paleolithic lithic industry of the Teshik-Tash Cave, Uzbekistan, West Central Asia” (『Quaternary International』Volume 596, p.22-37 2021年9月20日)
https://doi.org/10.1016/j.quaint.2020.11.035
 
[サイエンス Report] ネアンデルタール人 滅びた謎 (読売新聞オンライン 2021年7月18日)
https://www.yomiuri.co.jp/science/20210717-OYT8T50074/
 
北ユーラシアの旧人・新人交替劇 ─ウズベキスタン旧石器遺跡調査 (2012~2019年)─
西秋良宏 (東京大学総合研究博物館教授・館長)、オタベク・アリプジャノフ (ウズベキスタン国立歴史博物館副館長) (『第28回西アジア発掘調査報告会』 2020年)
http://jswaa.org/wp/wp-content/uploads/2021/03/AME28P062-065Nishiaki.pdf
 
北ユーラシアの旧人・新人交替劇 ─第6次ウズベキスタン旧石器遺跡調査 (2018年)─
西秋良宏 (東京大学教授)、オタベク・アリプジャノフ (ウズベキスタン国立歴史博物館副館長) ほか (『第26回西アジア発掘調査報告会』 2018年)
http://jswaa.org/wp/wp-content/uploads/2020/02/97bac8a4fb0c1f3f6f32155d69abb9e7.pdf
 
A01班 | 2010年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究 1 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2010年)
http://www.koutaigeki.org/pub/pdf/report/A01.01.pdf
 
A01班 | 2011年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究 1 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2011年)
http://www.koutaigeki.org/pub/pdf/report/A01.02.pdf
 
A01班 | 2012年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究 3 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2012年)
http://www.koutaigeki.org/pub/pdf/report/A01.03.pdf
 
A01班 | 2013年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究 4 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2013年)
http://www.koutaigeki.org/pub/pdf/report/A01.04.pdf
 
A01班 | 2014年度 | 研究報告: 交代劇 | 考古資料に基づく旧人・新人の学習行動の実証的研究 4 (『文部科学省科学研究費補助金 (新学術領域研究) 2010-2014』 2014年)
http://www.koutaigeki.org/pub/pdf/report/A01.05.pdf
 
国際シンポジウム:
International Symposium: Insights Into Human History in the Eurasian Stone Age: Recent Developments in Archaeology, Palaeoanthropology, and Genetics (東北大学 知のフォーラム 2022年9月27日)
https://www.tfc.tohoku.ac.jp/event/4284.html

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