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書籍名

歴史文化ライブラリー 565 古代ゲノムから見たサピエンス史

著者名

太田 博樹

判型など

272ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2023年1月19日

ISBN コード

9784642059657

出版社

吉川弘文館

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古代ゲノムから見たサピエンス史

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本書は「古代ゲノム学」という学問分野が創始され発展していく過程を描いている。2022年のノーベル生理学・医学賞は、古代ゲノム学を創始したスヴァンテ・ペーボが受賞した。カロリンスカ研究所から発せられたプレスリリースでは、受賞理由にはネアンデルタール人やデニソワ人といった絶滅した人類のゲノム解読を成し遂げたことが挙げられていた。本書の脱稿はこのプレスリリースのちょうど10日前であった。
 
偶然にも本書では「なぜネアンデルタール人やデニソワ人のゲノム解析が重要なのか?」について多くの紙面を割いて説明している。端的にいえば、ネアンデルタール人やデニソワ人のゲノム情報が「わたしたちホモ・サピエンス (現生人類) とは何者なのか?」という問いに答えるための多くのヒントを提示するからだ。提示されたヒントは、他の多くの分野でさらに新たな展開を見せるポテンシャルをもっている。大げさに言えば、それが行き詰まった現代社会に変化をもたらすかもしれない。
 
約4万年前、地球上には少なくとも3種類の人類が存在していた。ユーラシア大陸の西半分、ヨーロッパから西アジアにかけて分布していたネアンデルタール人。ユーラシア大陸の東半分、パプアニューギニアに至る地域に分布していたデニソワ人。そして、6万年前ごろアフリカ大陸からユーラシア大陸に新たに拡散したサピエンス。これら3集団は互いに交雑し、子孫を残すことができたが、ネアンデルタール人とデニソワ人は、約3万年前ごろまでに地球上から姿を消した。わたしたちサピエンスのゲノムにみられるバリエーション (個々人で少しずつ違う箇所)の1~4%が、ネアンデルタール人やデニソワ人由来であることを古代ゲノムは明らかにした。わたしたちとネアンデルタール人やデニソワ人たちとの過去の交雑の痕跡だ。
 
ネアンデルタール人は現代のサピエンスの脳の容量よりも少し大きな脳をもっていた、しかしサピエンスとは少し異なる石器を使用していた人類だ。デニソワ人の姿形はわからない指先の骨から得られたDNAのみからその存在が示された人類である。ネアンデルタール人とデニソワ人は絶滅した。一方、サピエンスは繁栄した。いまや約70億人にも膨れ上がって地球の支配者かのように振る舞っている。その意味で、約700万年前にチンパンジーとの共通祖先から分岐した系統の中でサピエンスは最も成功した人類かもしれない。
 
古代ゲノム研究は、これらの物語を紡ぎ出し、現代人であるわたしたちに提示した。彼らが滅びて、わたしたちが繁栄したのは何故か? いったい何が違っていたのだろうか? その新たな問いに答えることは、次ぎはわたしたちが絶滅しないよう、わたしたち自身が策を練る重要なヒントとなるかもしれない。
 

(紹介文執筆者: 理学系研究科・理学部 教授 太田 博樹 / 2024)

本の目次

古代ゲノム学の夜明け―プロローグ
 
絶滅生物のDNAを追う
  DNAは残っているのか?
  先駆者達の絶妙なアイディア
  DNA分析を考古遺跡へ持ち込む
  失態・問題・困難の表出
 
古代ゲノムが書き替えたサピエンス史
  「サピエンスに起こった認知革命」という仮説
  サピエンス前史/アフリカ単一起源説をめぐる論争
  決定打が放たれた/ゲノムの時代
  書き替えられたサピエンス史)
 
日本列島にたどり着いたサピエンス
  サピエンス古代ゲノムの進展
  日本列島のサピエンス史
  縄文人のゲノム配列を読む
  南or北ルートの鍵を握る
 
古代ゲノム学はどこへ向かうのか?
  デニソワ人の姿を復元する
  ネアンデルタール人の脳を復元する
  縄文人iPS細胞の試み
 
文化の厚みが支える科学―エピローグ
 

関連情報

著者インタビュー:
古代ゲノム解読、バイオものづくりも DNA二重らせんが与えた衝撃 (朝日新聞DIGITAL 2023年4月23日)
https://www.asahi.com/articles/ASR4P4PT9R4CPLBJ003.html
 
「ネアンデルタール人」とは何者なのか? 昨年の「ノーベル生理学・医学賞」を受賞した最新研究の中身とは? (週プレNEWS 2023年6月17日)
https://wpb.shueisha.co.jp/news/technology/2023/06/17/119682/
 
書評:
更科功 評「暮らしや歩みに思い馳せる」 (日経経済新聞 2023年2月25日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD152OF0V10C23A2000000/
 
書籍紹介:
古い骨から「ヒト」を問う
東京大学大学院教授の太田博樹さん、「古代ゲノムから見たサピエンス史」を出版 (中日新聞 2023年4月13日)
https://www.chunichi.co.jp/article/671951
 
関連動画:
縄文人ゲノムから見た東ユーラシア人類集団の形成史 l 太田博樹 敎授(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻) (History Genome & Culture | YouTube 2022年6月10日)
https://www.youtube.com/watch?v=ZiQovcBGp8k
 
【縄文人のゲノム解析ができるの?】祇園原貝塚 講演(6)太田博樹(東京大学大学院理学系研究科教授)「市原市から出土した縄文人のゲノム分析」 (I'Museum チャンネル (市原歴史博物館【公式】) | YouTube 2021年11月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=D-dwMtfsVmc
 
講座:
古代ゲノムから見た人類史 (朝日カルチャーセンター 2024年2月15日、3月7日、3月21日)
https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=4598693
 
特別講演: 古代ゲノムからみた日本列島への人類拡散 (明治大学駿河台キャンパス 2023年11月12日)
https://www.meiji.ac.jp/cols/info/mkmht000000p4n8t-att/genomu_flyer.pdf
 
ジャンル 現代社会と科学
DNAから迫るヒトの謎 ― ゲノム人類学入門 (早稲田大学エクステンションセンター 2023年11月1日~11月29日)
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/60540/
 
日本科学史学会生物学史分科会2022年度シンポジウム (生物学史分科会 2023年2月11日)
https://www.ns.kogakuin.ac.jp/~ft12153/hisbio/sympo_j_old.htm
 

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