
書籍名
ニュートン新書 微生物・文明の終焉・淘汰
判型など
464ページ
言語
日本語
発行年月日
2022年6月15日
ISBN コード
978-4-315-52561-8
出版社
ニュートンプレス
出版社URL
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本書の著者であるマーク・バートネスは、海洋生態学者である。私は翻訳家の神月謙一さんが和訳された原稿の監訳を行った。本書の原題は“A Brief Natural History of Civilization”で邦題の『微生物・文明の終焉・淘汰』とは随分違う。今回の監訳の過程で、神月さんと私は『自然史』という仮題で原稿をやり取りしてきた。しかし、出版社の意向 (おそらくマーケティング戦略) でこの邦題となった。微生物や文明の終焉、淘汰について、語られていないわけではないが、特に「微生物」と「淘汰」はkeyではない。本のタイトルを決める権利は、出版社にあるので、それについてどうこう言うつもりはなく、かまわないのであるが、この本の内容を考えると、やはり『自然史』の方がしっくりくる。
一般に“natural history”は「博物学」ないし「博物誌」と訳されることが多い。それでも神月さんと私が「自然史」と原稿を通称したのは、「人類史」との対比として“natural history”をわざと「自然史」と訳す方がピッタリくるからであり、それは本書が「人類史」を「自然史」の中に位置づけて論じていたからだった。それは、著者であるバートネスが「はじめに」で率直に語っている。
“歴史という概念を自然史と人類史に分けるのではなく、ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ハラリのような著作家が開拓した手法を継承して、文明史を「自然史として」捉えたいと、私は考えている。つまり、農業や医学から政治的ヒエラルキーや宗教システムに至るまで、文明とその産物が、人類の進化のなかで、どのような特定の生態系や環境から生まれたかを理解するということだ。”
邦題にある微生物自体はkeyではない。というのは、バートネスが本書で繰り返し述べている「人類の最も古い進化のパートナーは、私たちの皮膚や体内で生きている微生物であり、病気に対する防御壁や緩衝材の役割を果たしている」というアイディアが本書の核だからであり、つまり微生物が人類に「共生している」ことがkeyだからだ。海洋生態学者であるバートネスが、彼の長年の研究を通じてたどりついた信念は「地球上のすべての生物は、人類の文明も含め、進化の歴史を貫く同じ物理学的、生物学的プロセスによって発達し、支配されている」であり、そのプロセスが「シンビオジェネシス」と「階層的自己組織化」である。
シンビオジェネシスとは、有機体が別の有機体に共生し1つの有機体になる現象だ。たとえば、真核生物の細胞の中にあるミトコンドリアは、もともと独立した生物であったが、進化の過程で「細胞内共生」した。リン・マーギュリスのこのアイディアをバートネスは、人類文明にまで拡張して議論する。本書にはもともとサブタイトルがあったが、これも邦訳では削除された。“Why a Balance Between Cooperation & Competition Is Vital to Humanity (協力と競争のバランスが人類に不可欠なわけ)”本書の本質は、むしろこのサブタイトルに集約されている。
(紹介文執筆者: 理学系研究科・理学部 教授 太田 博樹 / 2023)
本の目次
第1部 生命――私たちはどこから来たのか
第1章 協同する生命
第2章 食物連鎖のなかの生命
第3章 自然を飼い馴らす
第2部 文明――私たちは何者なのか
第4章 文明の勝利と呪い
第5章 資源開発
第6章 飢饉と病気
第7章 支配vs協同
第3部 運命――私たちはどこへ向かうのか
第8章 自民族中心主義という幻の宇宙
第9章 食物の保存と健康
第10章 燃える文明
第11章 不自然な自然
終 章 文明の自然史
関連情報
Mark Bertness著 A Brief Natural History of Civilization - Why a Balance Between Cooperation & Competition Is Vital to Humanity (Yale University Press刊 2020年4月21日)
https://yalebooks.yale.edu/book/9780300245912/a-brief-natural-history-of-civilization/