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ベージュと白の表紙

書籍名

ちくま新書 遺伝人類学入門 チンギス・ハンのDNAは何を語るか

著者名

太田 博樹

判型など

320ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2018年5月8日

ISBN コード

978-4-480-07138-5

出版社

筑摩書房

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遺伝人類学入門

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世界中の人々の遺伝子が、近年、さかんに調べられ、そのバリエーションの研究がなされている。こうしたデータをもとに、ホモ・サピエンスが地球上のあらゆる地域に拡散したプロセスについて、多くの研究が発表されてきた。そんな中、特に「チンギス・ハンのY染色体がユーラシア大陸の広大な地域に爆発的に拡散した」とする仮説が提唱された。何故そのような仮説を立てることができるのか?
 
本書では「ゲノム」「遺伝子」「DNA」など、ごく基本的な遺伝学用語の解説から始める。そして、ホモ・サピエンスの起源に関する2つの仮説「アフリカ単一起源説」と「多地域連続進化説」について紹介し、どのようにしてミトコンドリアDNAから「アフリカ単一起源説」を支持する結論を導き出せるのか? ゲノム情報からもそれが言えるのか、など分かりやすく解説する。

現代の進化学では、特に分子レベルでは中立理論 (neutral theory) が「あたりまえ」であり、むしろ研究者達はゲノムの中にチャールズ・ダーウインの提唱した自然選択 (natural selection) の痕跡を一生懸命見つけようとしている。現代生物学において、進化とは「遺伝子頻度が世代を越えて変動する過程」のことを指す。その遺伝子頻度が変動する要因として (1) 突然変異、(2) 自然選択、(3) 遺伝的浮動、(4) 移住が考えられ、このうち遺伝的浮動の効果が一番大きいことを分子データは示している。そしてホモ・サピエンスに関しては、移住が、遺伝的浮動についで大きな要因になっている。
 
世界中の人々のミトコンドリアDNAの変異を調べ、これにもとづく系統樹を作成すると、ホモ・サピエンスはアフリカ大陸で10~20万年前に誕生し、6~7万年前にアフリカ大陸から外へ拡散したことが分かった。ヒトの移住の痕跡をミトコンドリアDNAからたどることができた。ミトコンドリアDNAは母親から子どもに伝えられるので、女性の系統を反映している。一方、男性の系統は、Y染色体を見ることによって突き止められる。ヒトの女性と男性は、ともに手を携えて移住を繰り返し、拡散したのであろうか?そして「チンギス・ハンのY染色体がユーラシア大陸の広大な地域に爆発的に拡散した」ように見えるデータとは?
 
本書では、ミトコンドリアDNAとY染色体の遺伝子頻度が、ヒト集団が持つ婚姻制度 (文化) によって影響を受けることをコアに、それが集団遺伝学的に如何に論証され得るのか、系統樹作成法や分岐年代推定法などを解説しつつ、「ゲノム」「遺伝子」「DNA」からホモ・サピエンスの歴史を明らかにする研究手法について解説する。
 

(紹介文執筆者: 理学系研究科・理学部 教授 太田 博樹 / 2021)

本の目次

第1章 ゲノム・遺伝子・DNA
第2章 アウト・オブ・アフリカ
第3章 遺伝子の系統樹から祖先をさぐる
第4章 適応vs.中立
第5章 男女で異なる移動パターン―sex-biased migration
第6章 チンギス・ハンのDNA
 

関連情報

ためし読み:
遺伝人類学とはなにか (webちくま 2018年5月22日)
https://www.webchikuma.jp/articles/-/1337
 
書籍紹介:
じんぶん堂:現生人類はネアンデルタール人と混血していた 『遺伝人類学入門』より (好書好日 2020年4月14日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/13286641
 
講座:
千葉市科学フェスタこれからの私たち2020 | 大人が楽しむ科学教室2020「遺伝人類学の視点から日本人の起源論の最近の進展」 (千葉市科学館 2020年10月3日)
https://www.kagakukanq.com/wp-content/uploads/2020/09/otona2020.10_web.pdf
 
関連記事:
科学なぜなぜ110番「人間はどのように進化したの?」 (学研キッズネット 2021年10月)
https://kids.gakken.co.jp/kagaku/kagaku110/science210302/
 
小山センセイの縄文徒然草:第82回 に日本列島に来た人はどこから? DNA人類学の視点 (縄文ファンJOMOFAN 2018年9月18日)
https://aomori-jomon.jp/essay/?p=10361

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