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書籍名

朝日選書 アフリカからアジアへ 現生人類はどう拡散したか

著者名

西秋 良宏

判型など

268ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2020年2月10日

ISBN コード

9784022630940

出版社

朝日新聞出版

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アフリカからアジアへ

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ヒトそのものの歴史は600万年前以上にもさかのぼりますが、我々、現生人類が誕生したのは30~20万年前頃だったと考えられています。舞台はアフリカです。祖先たちは、間もなくアフリカを出て世界各地に拡散し、先に拡がり定着していた人類集団にとって代わって今にいたったことがわかってきました。このような学説が出てきたのは1980年代末で、その口火を切ったのは遺伝学的研究でした。日本人をふくむ世界の多様な集団、民族も元をただせば皆アフリカ出身という主張ですから、当初は世界を驚かせたものです。しかし、その後、関連分野から出された証拠で検証、肉付けされ、現在では、多くの研究者が受けいれる通説となっています。
 
現在では、古人骨から直接、遺伝情報をとりだす方法やそれを解析する統計学的手法が飛躍的に進展したことが研究に画期をもたらしています。それによって、かつては私たちとは別種の人類と思われていたネアンデルタール人が、私たちの祖先と交配していたことがわかってきましたし、デニソワ人という新種の旧人がアジアにいて、我々アジア人の祖先と交配していたことも明らかになりました。
 
遺伝学的研究がめざましく進展する中、人類史についての伝統的な学問分野、化石人類学や考古学など重要性が低下したかと言えば、そうではありません。遺伝情報のみでは、過去のヒトの具体的な行動はみえないからです。たとえば、現生人類が拡散する際、どんな道具を使ってどんな食べ物をどうやって手に入れていたかとか、旧人と出会った時、文化に交流があったのか、などの具体的行動に関する問いには、野外調査で得られる物的証拠が不可欠です。また、いつ、どこにどんなヒトがいたのか、という空間情報については、遺跡データほど確実な資料はありません。化石を探したり関係する石器を探したりという研究は発掘調査を始めとした野外調査に基づくもので、結果の解釈も遺伝学的研究のように定量的かつ明瞭ではないかも知れません。しかし、泥臭い野外調査から得られる基礎データの重要性が変わることはないと信じています。
 
本書では、アフリカからアジアへ現生人類たちが拡散するにいたった道のりと経緯について、野外調査や実地研究が示す最新の知見を述べています。遺伝学的研究の現況についても述べますが (第5章)、中心としたのは私がもっとも研究の重きをおいている野外調査の証拠です (第1~4章)。ただし、野外調査が提示する物的証拠をもってヒトそのものを語るには一定の理論が必要となります。それは当時の人々の行動や文化についての記録ですから、遺伝学や化石人類学のように生物学的なヒトそのものについて明確に語るものではないからです。本書後半ではそういった話題にもふれることとしました (第6、7章)。

 

(紹介文執筆者: 総合研究博物館 教授 西秋 良宏 / 2020)

本の目次

アフリカからアジアへ 現生人類の拡散とその文化
 
はじめに 西秋良宏
第1章 「現生人類の出アフリカと西アジアでのできごと」門脇誠二
第2章 「東アジアに向かった現生人類、二つの適応」西秋良宏
第3章 「現生人類はいつ東アジアにやってきたのか 中国での新発見を中心に」R.デネル
第4章 「アフリカを出て日本列島へたどり着いた3万年前の祖先たちの物語」海部陽介
第5章 「私たちの祖先と旧人たちとの関わり 古代ゲノム研究最前線」高畑尚之
第6章 「現生人類の到着より遅れて出現する現代人的な石器 分布拡大の二重波モデル」
第7章 「アフリカからアジアへ 文化の視点」西秋良宏
おわりに 西秋良宏
 

関連情報

書評:
足立倫行 (ノンフィクション作家) 評 (『中央公論』5月号 2020年7月8日)
https://chuokoron.jp/culture/114393.html
 
関連記事:
足立倫行 (ノンフィクション作家)「ネアンデルタール人遺伝子が「ファクターX」!?」 (WEDGE Infinity 2020年10月31日)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21215

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