東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、パステルピンク、黄色、白、グレーのちぎり絵のような抽象画

書籍名

自治体現場の法適用 あいまいな法はいかに実施されるか

著者名

平田 彩子

判型など

240ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年4月11日

ISBN コード

978-4-13-036151-4

出版社

東京大学出版会

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自治体現場の法適用

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法律の文言は概して一般的・抽象的に書かれていることが多い。果たして、行政の現場で法律を実際に運用している地方自治体職員は、現実のさまざまなケースを前にして、どのように法を実施・執行しているのだろうか?  もちろん、マニュアル等も存在するが、生じうる全てのケースに対応した指示が書かれている訳では無論ない。
 
本書は、法の実施・執行を担当している地方自治体職員が、抽象的に記述されている法をいかに理解・解釈し、具体化し、適用判断の正当化を試みているのか、自治体間ネットワークという組織間のつながりを軸に、そのメカニズムを分析したものである。
 
いったん法が成立すると、あとは自動的に適用され、法効果が生じると想像されるかもしれない。しかし、現実の法適用判断は、そのような単純なものでは決してない。法は一般的・抽象的に記述されている一方、目の前の事例は、具体的・個別的であり、それぞれの背景事情もあるからである。何が法に該当し、該当しないのか、何が遵守であり何が違反なのか、何が行政命令といった権力行使の発動に値するのか。このような判断は、法が制定された直後、まだ先例も確立していない状況で、とくに緊張感を帯びたイシューとして現場職員の前に立ち現れる。
 
あいまいな法は自治体現場部署によっていかに具体化されるのか。本書では、延べ88名の方々を対象としたインタビュー調査、全自治体部署を対象にした質問票調査、そして補完的にある自治体部署での観察滞在という質・量双方の実証分析を通じて、上記問いにアプローチしている。
 
ありがたいことに、本書は国内外のいくつかの賞を受賞した (公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所第43回「藤田賞」、国際法社会学会であるInternational Sociological Association, Research Committee on Sociology of Law, Adam Podogrezki Prize)。本書が評価されたポイントとして以下の点があげられるのではないかと (勝手に) 想像している。
 
1点目は、理論と実証の結合である。本書の理論的分析、特に自治体間ネットワークに関しては、組織社会学の理論モデルに依拠し実証データの分析につなげた。事実をもって事実を語るというスタイルではなく、実証分析の結果を踏まえながら、より一般化された理解を目指す理論の構築を試みた点は、本書の一つの特徴なのではないかと思っている。
 
2点目は、インタビューと質問票調査という2種類の実証データの提示である。特にインタビュー引用は自治体職員の生の声が記述されており、乾いた印象を与える量的データとは異なり、リアリティに溢れ読者に訴えかけるものがあるため、おもしろいと言ってくださる方々が多い。インタビュー調査の実施は、もちろん骨が折れる作業もあるが、自分が興味を持っている現象や人々について直接アプローチできる絶好の機会であり、実際極めて充実した楽しい時間であった。ご協力くださった方々に再度お礼を申し上げたい。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 准教授 平田 彩子 / 2023)

本の目次

序  章 自治体現場はいかに法を具体化するのか
第1章 分析の視角と理論的背景――現場部署による規制法の執行
第2章 環境規制法とその実施の現場
第3章 法適用の難しさ――困難な場面と対応戦略パターン
第4章 自治体間ネットワークと法の実施――戦略としてのネットワークの機能と作用
第5章 法適用の正当性を求めて――自治体間ネットワークの背景
第6章 おわりに

関連情報

受賞:
Adam Podogrezki Prize  (ISA Research Committee on Sociology of Law  2018年)
* ISA Research Committee on Sociology of Lawは法社会学の主要な国際学会のひとつであり、アダム・ポドゴレツキ賞は若手研究者の卓越した著作に対し、これからの国際的活躍への奨励として与えられるもの
 
第43回藤田賞受賞 (公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 2017年)
https://www.timr.or.jp/research/fujita_award_41to50.html
 
書評:
片山良太 評「自治体法務を学ぼう!」 (『国際文化研修』Vol. 101 p. 53 2018年秋号)
https://www.jiam.jp/journal/vol101-1599.html
 
阿部昌樹 評 (『法社会学』84号 pp. 275-280 2018年)
http://jasl.info/ippan/mgz
 
高村学人 評 (『法律時報』90巻7号 pp.97-101 2018年6月号)
https://www.nippyo.co.jp/blogjihou/jihou-backnumber/jihou2018/2018-06/
 
関連記事:
平田彩子「自治体間ネットワークと法の解釈」 (『臨床法務研究』22 pp. 111-118 2019年3月)
https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/ja/56578

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