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イスラエルの街の鳥瞰写真

書籍名

アジア遊学 都市からひもとく西アジア 歴史・社会・文化

判型など

272ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2019年12月

ISBN コード

978-4-585-32510-9

出版社

勉誠出版

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都市からひもとく西アジア

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本書は、“都市”を舞台に西アジアの歴史や社会をひもとくアンソロジーである。
 
西アジアでは古くから都市文明や都市国家が栄えた。中緯度乾燥地帯に属するこの地域の都市は、市壁を備え、その内側に寺院や教会などの宗教施設や商業空間である市場、居住区、城塞や宮殿を築くという特徴をもつ。各都市は、周辺の農村や街道など複数のネットワークのなかに位置し、地域社会のかなめとして、また、遠距離交易の拠点として機能するとともに、イスラーム時代以降も、ムスリム、キリスト教徒、ユダヤ教徒のほか、旅人や商人など多様な人びとが暮らしていた。とかく「イスラーム教」と関連づけられて一面的に語られがちな西アジアの都市であるが、本書からは、さまざまなバックグラウンドをもつ人びとが「都市」という限られた空間の中で相互に関わり合いながら都市や都市社会を形成していく様子を知ることができる。
 
時代が移ろえば、都市のすがたも異なる。本書の15本の論考(うち3つはコラム)は、いずれも文献史料・絵図・地図の読み解きから都市社会を多角的に検証し、今に受け継がれるその歴史と文化を探り、多彩で、魅力あふれる西アジアの都市の多様なすがたを描き出す。
 
東はアフガニスタンから西はエジプトまで、本書で取り上げられる都市は、学術都市、商業都市、食通の都市、観光都市、軍営都市、要塞都市、港湾都市(港市)、国際都市、辺境都市、支配者のイデオロギーを体現する都市、とさまざまである。分析の対象も、その機能面の場合もあれば政治面もあり、そこに暮らす住民や、あるいはマドラサや教会やモスクや墓廟といった宗教施設、市場や隊商宿、街区や区画割りなど多岐にわたる。
 
また、本書を通読すると、7世紀のアラブ・ムスリム軍の征服活動から、十字軍時代、アッバース朝カリフ政権が弱体化し各地に地方政権が林立する10~13世紀、モンゴル到来後の西のマムルーク朝と東のティムール朝、近世帝国のサファヴィー朝とオスマン朝、ナポレオンやロシアが進出してくる18~19世紀、そして近代へ、と西アジアの政治史を一望することができる。この点、これまでの概説書とは異なる新たな「西アジア通史」として本書を位置づけることも可能である。そして、その歴史の中では、有名無名の人が多数登場する。名高い君主や総督だけでなく、名もなき商人、職人、学者、聖者、兵士、名望家、学生、官僚らに光があたる。通史や概説書からはこぼれ落ちてしまう市井の人びとの生の軌跡が描かれるという点は、都市を題材とした歴史研究の醍醐味であり、本書の画期的な部分である。
 
都市の中での“隣人”との共生・共存の模索があり、為政者らによる都市への軍事的・政治的・経済的・文化的関与がある。都市で育まれた伝統を受け継ぎ、それを別の都市や後世に伝えていく人びとがいる。本書はそのような都市のダイナミズムを紹介すべく、都市を舞台に、人や社会に焦点をあて、その本質に迫る歴史研究の新たな試みである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 守川 知子 / 2022)

本の目次

まえがき――『都市からひもとく西アジア』に寄せて (守川知子)
 
第I部 都市をつくる――建設・形成と発展
ムスリムがはじめて建設した都市バスラ――軍営都市から経済と学術の都市へ (亀谷学)
「二つの春の母」モスルの一二・一三世紀――ザンギー朝下の建設と破壊 (柳谷あゆみ)
スルタンとシャーの新たなギャンジャ (塩野崎信也)
〇コラム:港市 [1] 港市マスカトとポルトガル人――絵図に見る一六―一七世紀の植民都市 (大矢純)
 
第II部 都市に生きる――人びとと都市社会     
アレッポが「シーア派の街」であった頃 (谷口淳一)
ティムール朝期のヘラートにおける聖者たち (杉山雅樹)
境界上の都市アインターブ――「良き泉」の町 (中町信孝)
〇コラム:港市 [2] 船乗りたちが集う町アデン (栗山保之)
 
第III部 都市を活かす――政治的・経済的機能
フランク人支配下の都市エルサレム――観光産業都市への発展 (櫻井康人)
山城から平城へ――近世クルディスタンにおける都市機能の変容 (山口昭彦)
スンナ派学の牙城ブハラ (木村暁)
〇コラム:港市 [3]「民族の交差点」ハイファ――近代東地中海の国際港湾都市 (田中雅人)
 
IV 大都市を彩る――三都物語
イスファハーンは世界の半分? (守川知子)
ナポレオン地図から読み解くカイロ――マイノリティに注目して (深見奈緒子)
ノスタルジックな近代――一九世紀イスタンブルの都市空間と都市行政 (川本智史)

関連情報

関連研究:
研究項目C01「中世~現代の西アジア都市」計画研究5「中世から近代の西アジア・イスラーム都市の構造に関する歴史学的研究」[研究代表者:守川知子] (2018-2023年度 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 (研究領域提案型)「都市文明の本質――古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究」)
https://rcwasia.hass.tsukuba.ac.jp/city/projects/c01.html
 
書評会:
『都市からひもとく西アジア―歴史・社会・文化』書評会 (オンライン[C01-計画研究05「中世から近代の西アジア・イスラーム都市の構造に関する歴史学的研究」第22回研究会] 2022年2月11日)
https://rcwasia.hass.tsukuba.ac.jp/city/seminar/index.html
 
研究報告:
守川知子「『都市からひもとく西アジア:歴史・社会・文化』(勉誠出版、2021年12月)を上梓して」 (「西アジア都市」領域全体研究会 2022年3月5日)
https://rcwasia.hass.tsukuba.ac.jp/city/seminar/index.html
 
公開講座:
「西アジア歴史都市を歩く」[講師:守川知子ほか] (ハイブリッド開催[朝日カルチャーセンター] 2022年7月10日、8月21日、9月18日、10月16日、11月20日、12月18日)
https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/e48122ee-7785-0f10-a4f6-624fb84fa740

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