東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

茶色い建物の絵、町口覚による装幀

書籍名

オーウェル

著者名

レイモンド・ウィリアムズ [著]、 秦 邦生 [訳]

判型など

284ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2022年2月

ISBN コード

978-4-86503-128-7

出版社

月曜社

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オーウェル

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本書『オーウェル』は、レイモンド・ウィリアムズ (1921-88) のOrwell (Fontana, 1971, third edition, 1991) の全訳である。現代からこの著作を振り返る意義は、それをオーウェルとウィリアムズという二人の書き手の批評的対決の書として理解することにある。
 
ジョージ・オーウェル (1903-50) についてのあらたまった説明はおそらく不要だろう。古典的ディストピア小説の筆頭に数えられる『一九八四年』や『動物農場』の作者としてのオーウェルは、現代の日本において、もっとも知名度のあるイギリス文学作家の一人だろう。ただし『一九八四年』一作の圧倒的な知名度に比べると、この小説以前のオーウェルの経歴やそのほかの著作活動は、それほどひろく知られていないかもしれない。
 
本書におけるウィリアムズの最大の貢献は、そのオーウェルの生涯と業績を、なによりも社会主義の実現に向けた苦闘という観点から理解する視座を提供している点にある。ウィリアムズはウェールズの労働者階級一家に生まれ、20世紀後半のイギリスを代表する文化批評家の一人となった。ウィリアムズを含むイギリス〈ニュー・レフト〉の知識人たちにとって、「イングランドの真の民衆文化」を基盤とする民主的社会主義の理想を奉じたオーウェルは、重要な先達として見逃せない存在だった。
 
ところがオーウェルの早逝後、ソヴィエト型共産主義を「神話」として攻撃した彼の晩年の仕事は保守主義に流用され、「静寂主義」の弁明として見なされることもあった。特に1960年代以降の社会主義後退局面にあって、なお「社会的活動」としての文化批評を追求したウィリアムズは、そのような「オーウェル像」との格闘を迫られていた。オーウェルにたいする敬意と嫌悪、賛美と批判とが複雑にからみあった本書の筆致は、このような葛藤から帰結している。新たな文化研究を切り開いたウィリアムズらの世代が、オーウェルの遺産をいかに批判的に継承したのか――このような20世紀イギリスの批評史的問いに答える最重要の資料の一つが本書である。
 
ウィリアムズのオーウェル論には、このような文学と社会主義との関係についてのみならず、境界横断的な個人と共同体、芸術と社会、文化と階級、さらには言語と経験などとの関係性について、とりわけモダニズム以降の問題意識を背負ったきわめて複雑な思索が込められている。モダニズムの可能性と限界はどこにあるのか、その限界を乗り越える新たな「リアリズム」の追求はいかにして可能なのか、さらに、現在流行する「ディストピア」という文学形式をどう評価すべきなのか。本書におけるウィリアムズのオーウェルとの格闘には、こうした一連の課題を解くためのヒントが埋め込まれている。
 
なお日本語版オリジナルとして、本書には1955年から1968年にかけてウィリアムズが新聞・雑誌に発表したオーウェル関係の論考六篇を選んで訳出し、また附論においては1947-48年頃の両者の出会いから、ウィリアムズ自身の晩年まで続いたオーウェルへのこだわりを批評史的に整理し、考察を加えた。本書の理解への一助としていただければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 秦 邦生 / 2023)

本の目次

第一章 ブレアからオーウェルへ
第二章 イングランド、だれのイングランド?
第三章 作家であること
第四章 観察と想像
第五章 政治
第六章 想像された世界
第七章 さまざまな連続性
第二版へのあとがき 一九八四年の『一九八四年』
 
*附録
 ジョージ・オーウェル(一九五五年)
 ウィガン波止場を通り過ぎて(一九五九年)
 ジョージ・オーウェルの怒り(一九六一年)
 コードウェル(一九六五年)
 父はオーウェルの知りあいだった(一九六七年)
 ブレアからオーウェルへ(一九六八年)
 附論 レイモンド・ウィリアムズとジョージ・オーウェル――ある中断された対話への注釈
 
 訳者あとがき
 

関連情報

対談:
川端康雄×秦邦生「『一九八四年』は「古典」か――神話化されたオーウェル像から離れ、そのエクリチュールを読み解く」 (『図書新聞』第3553号 第1面 2022年07月30日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3553
 
書評:
近藤直樹 (日本大学准教授) 評「オーウェル作品の再読を促される、刺激に満ちた書――多くのオーウェル研究者に参照されてきた重要文献」 (『図書新聞』第3545号 第4面「文学」欄 2022年6月4日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3545
 
書籍紹介:
選書: 秦邦生「オーウェル、ディストピア、そして楽観主義なき希望へ」 (hontoブックツリー)
https://honto.jp/booktree/detail_00015588.html
 
NEW! イベント:
日本女子大学文学部・大学院文学研究科学術交流企画「暗闇のなかの希望」
ジョージ・オーウェル生誕120周年記念イベント (日本女子大学目白キャンパス 2023年3月11日)
https://www.jwu.ac.jp/unv/lecture_news/2022/h8ccod0000001txz-att/h8ccod0000001u2b.pdf
 
関連イベント:
“Critical Orwell: an online conference” (University of Birmingham 2022年4月12-14日)
https://www.birmingham.ac.uk/schools/edacs/departments/english/events/2022/critical-orwell.aspx
 

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