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渋沢栄一の肖像写真

書籍名

渋沢栄一と「フィランソロピー」7 渋沢栄一はなぜ「宗教」を支援したのか 「人」を見出し、共鳴を形にする

著者名

見城 悌治、飯森 明子、井上 潤 (責任編集)、 山口 輝臣 (編)

判型など

232ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年4月10日

ISBN コード

9784623093007

出版社

ミネルヴァ書房

出版社URL

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渋沢栄一はなぜ「宗教」を支援したのか

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このページにたどり着いた人に、渋沢栄一を知らぬ人はまずいないだろう。近代日本を代表する実業家として知られ、2024年発行の新1万円札に描かれる渋沢栄一は、公益慈善活動 (フィランソロピー) にも熱心で、関わった事業・団体は600に及ぶ。そしてそのなかには「宗教」と関わるものもあった。
 
600もあるのなら、そのなかに「宗教」と関わりものあっても当然と思うかもしれない。だが渋沢は自らを「無宗教」と称して憚らなかった。そうでありながら、救世軍や修養団といった団体のほか、日曜学校や朝鮮仏教団の大会、東京の明治神宮や白河 (福島県) の南湖神社の創建、上野の寛永寺や湯島の聖堂、出身地である深谷 (埼玉県) の社寺の維持など、多岐にわたる支援を行っていた。いかに渋沢が富豪であり、公益慈善事業に熱心だったとはいえ、「無宗教」と自ら称しながら「宗教」を支援するというのは、そう分かりやすい話ではない。いったいこれはなぜなのか?
 
本書は、この単純な疑問を、渋沢栄一に問いかけ、かれが残した史料などからひも解いていく試みである。よってまずは、渋沢による「宗教」への支援の全貌を明らかにするよう努めた。その結果、渋沢栄一と「宗教」との関係を正面から扱った世界最初の本となった。渋沢について、普通の伝記より深く知りたいという方には、十分満足いただけるものになっているはずだ。
 
ところで渋沢による「宗教」への支援は、かれ一人でなされることはなく、実業家を中心に、政財官学のエリートを巻き込んで実施されるのがほとんどだった。このことは、渋沢のように公言するかはともかく、全体として「宗教」への関心が薄いとされる日本のエリートも、なにかのきっかけがあれば、その支援に踏み出すということであり、これを「宗教」の側から言えば、「無宗教」のなかに、「宗教」を支える社会的基盤が存在したということである。
 
このように、本書では、渋沢栄一という史料に恵まれた人物の詳細な検討を通じて、近代日本におけるエリートと「宗教」との関りについて、新たな見方を提示することも目指した。もしかりに渋沢栄一には興味などなくとも、近代日本における「宗教」について気になるという方であれば、十分な刺激を得られる本に仕上がったと自負している。機会があれば手に取っていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 山口 輝臣 / 2023)

本の目次

はしがき
凡 例
 
序 章 「無宗教」の実業家が「宗教」を支援すること (山口輝臣)
 
第I部 「フィランソロピー」の担い手に対する積極的な援助
 第一章 渋沢栄一と日曜学校――見出された「国民外交」への期待 (佐藤大悟)
 第二章 渋沢栄一による救世軍・山室軍平への支援 (町田祐一)
 第三章 蓮沼門三と渋沢栄一 ――修養団の「生みの親」と「育ての親」(山口輝臣)
 第四章 渋沢栄一と湯島聖堂・孔子祭典――儒教精神の普及をめざして (陳 彦君)
 
第II部 「徳川の遺臣」としての「宗教」への支援
 第五章 松平定信顕彰と南湖神社建設への貢献 (見城悌治)
 第六章 旧幕臣・渋沢栄一と徳川家所縁の寺社をめぐって (原口大輔)
 
コラム1 渋沢栄一と仏教――徳川家と福祉から考える (金山泰志)
 
第III部 「名士」としての「宗教」へのかかわり
 第七章 渋沢栄一と郷里の社寺 (馬場裕子)
 第八章 渋沢栄一と明治神宮――内苑との隔たり、外苑への思い (平山 昇)
 
コラム2 渋沢栄一と朝鮮仏教の「復興」――熊本人・中村健太郎との交叉 (永島広紀)
 
人名・事項索引

関連情報

書評:
小川原正道 評 (『史学雑誌』第132編2号 pp. 52-58 2023年3月17日)
http://www.shigakukai.or.jp/journal/index/
 
シンポジウム:
「渋沢栄一は、なぜ「宗教」や「教育」を支援したのか?」 (国際文化会館岩崎小彌太記念ホール / オンライン [主催: 公益財団法人渋沢栄一記念財団研究センター] 2022年11月4日)
https://www.shibusawa.or.jp/research/project/symposium/post2022_09_09_75587.html

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