東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

中央にカラフルな四角模様

書籍名

メタ認知トレーニングをはじめよう! MCTガイドブック

判型など

312ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2022年4月29日

ISBN コード

978-4-7911-1095-7

出版社

星和書店

出版社URL

書籍紹介ページ

英語版ページ指定

英語ページを見る

メタ認知トレーニング (MCT) は、ドイツ・ハンブルク大学のSteffen Moritz教授らによって開発された精神療法・心理教育の方法です。日本には2012年に私が紹介し、現在では会員数1,700人を超える一般社団法人MCT-Jネットワーク (http://mct-j.jpn.org/) に発展しています。
 
MCTの対象は当初、統合失調症に限られていましたが、現在ではうつ病 (D-MCT)、境界性パーソナリティ障害 (B-MCT)、強迫症 (myMCT) などにも広がっています。どの精神疾患に対しても、精神症状の背景に存在し、症状を増悪させる要因の1つになる認知の偏り、つまり認知バイアスに気づいて、自らそれを修正できるようにするという原理で統一されています。ただし、疾患や症状によって関係する認知バイアスは多少異なりますから、それを内容のヴァリエーションでカバーしています。
 
記憶や判断のような心の働きを認知機能とよびますが、多くの精神疾患では、それらのコントロールが悪かったり、使い方が極端になったりしていることが研究でわかってきました。こうした認知機能の偏りが認知バイアスです。認知バイアスの一部は健康な人にも存在していることがわかっています。
 
メタ認知は「認知の上位に位置する認知」と幅広く定義されています。MCTが対象とするメタ認知には、認知機能や認知バイアスについての知識 (メタ認知的知識)、認知バイアスが自分や他者に存在することの実感 (メタ認知的体験)、自らの認知機能や認知バイアスのセルフモニタリングと修正(メタ認知的活動)が含まれます。これら3つのメタ認知要素をグループ・ディスカッションとホームワークによって実践すること。これがMCTなのです。精神疾患を抱えた人の中には、自分の症状をダイレクトに話し合うことが嫌な人や、心が不調であることを認めない人もいて、彼らは精神療法や心理教育を拒絶しがちです。MCTは誰にでも存在する認知バイアスを扱うことでこの問題をクリアしているだけでなく、参加へのモチベーションを上げるための「しかけ」がちりばめられています。
 
原理を学べばどのような職種でも実施できることもMCTの長所として挙げることができます。その証拠として、本書の執筆者は精神科医、看護師、公認心理師 (臨床心理士)、作業療法士、精神保健福祉士で構成され、日本の精神科医療に携わる専門職のほぼすべてが含まれています。編者の私は、このように幅広い職種の、しかも精神科医療の発展に情熱を持つ方々と共同作業ができたことを大変うれしく思います。また、本書の特長は、理論書としての役割だけでなく、日本の一般的な精神科臨床にMCTを導入し、効果を上げるための具体的な方法が、執筆者の実体験に基づいて説明されていることにもあります。本書を通じてMCTと精神疾患の認知行動理論への理解がさらに深まることを期待しています。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石垣 琢麿 / 2022)

本の目次

【基礎編】
第1章 メタ認知とは (石垣琢麿)
第2章 メタ認知トレーニングとは:メタ認知トレーニングと認知行動療法 (石垣琢麿)
第3章 統合失調症のためのメタ認知トレーニング (織部直弥)
    コラム:個人用メタ認知トレーニングについて (則包和也)
第4章 うつ病のためのメタ認知トレーニング (森重さとり)
    コラム:D─MCTでの学びを日常生活へとつなげる工夫 (池田直矢)
第5章 強迫症のためのセルフヘルプ・メタ認知トレーニング (myMCT) (石川亮太郎)
第6章 その他のメタ認知トレーニング: B─MCT・MCT─Acute・MCT─Silver (池田直矢・石垣琢麿)
第7章 その他の認知トレーニングとの併用 (武田知也)
 
【実践編】
第8章 入院環境で実施する際の工夫 (島田 岳)
    コラム:入院中に実施した事例の紹介 (島田 岳)
第9章 外来や訪問で実施する際の工夫 (則包和也)
    コラム:参加者にもトレーナーにも「効く」メタ認知トレーニング (則包和也)
第10章 デイケアでの工夫 (森元隆文)
    コラム:メタ認知トレーニングへの動機づけを高める目標設定の工夫 (池田直矢)
第11章 リワークプログラムでの工夫 (森重さとり)
    コラム:リワークプログラムでメタ認知トレーニングが有効だった事例 (森重さとり)
第12章 臨床でのさまざまな工夫1:メタ認知トレーニングの診断横断的活用 (田上博喜)
    コラム:ピアサポートグループでの実践例:精神疾患のある性的マイノリティへの応用 (松本武士)
第13章 臨床でのさまざまな工夫2:やわらかあたま教室 (古村 健)
第14章 専門家教育への応用 (井上貴雄)
第15章 MCT─Jネットワーク:現状とその利用方法 (細野正人)
第16章 むすび (石垣琢麿)
 

関連情報

書評:
西川公平 評 (『こころの科学』 2022年11月号)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazines/latest/6.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています