
書籍名
TIAS Central Eurasian Research Series; no. 8 Documents from private archives in right-bank Badakhshan Facsimiles
判型など
397ページ
言語
英語
発行年月日
2012年
ISBN コード
9784904039649
出版社
TIAS: Department of Islamic Area Studies Center for Evolving Humanities, Graduate School of Humanities and Sociology, The University of Tokyo
出版社URL
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タジキスタンとアフガニスタンの国境を成すパンジ川 (アムダリヤの源流) 両岸の渓谷地帯には、パミール諸民族が両国にまたがって居住している。本書は、パンジ川の右岸にあたるタジキスタン共和国山岳バダフシャン自治州南西部の4つの郡において収集した民間所蔵史料の影印本である。
パミール諸民族は、シュグナン語、ワハン語、ローシャーン語などの東イラン系の言語を母語とするイスマーイール派ムスリムであり、テュルク系または西イラン系 (タジク=ペルシア語) の諸言語を話すスンナ派ムスリムが住民の大多数を占める中央アジアにおいては極めて特異な存在である。
彼らがイスマーイール派の信仰を受容した時期や経緯は十分には解明されていないが、11世紀のファーティマ朝期の宣教者ナースィリ・フスラウによる教宣活動の結果であると一般には理解されてきた。その後イスマーイール派が勢力を失う過程でいくつもの分派が生まれたが、イランで生き延びていたニザール派の一派カースィム・シャー派のイマーム (最高指導者) が19世紀半ばにカージャール朝君主より「アーガー・ハーン」の称号を授けられ、英領インドのボンベイに移住して指導権を確立したことは、イスマーイール派の歴史において大きな転換点となった。以来四代のアーガー・ハーンが共同体を近代化しつつ世界の信徒たちに影響力を及ぼすようになり、パミール諸民族もそれに従うようになって現在に至っている。
しかし、彼らの信仰の実態や地域の支配体制については、史料と研究の不足のため未解明な部分が多い。この地域に関する歴史研究は長らくソ連とタジキスタンの研究者に担われてきたが、依拠する史料がいくつかの歴史書や石碑に限られていたためである。ソ連時代には国家主導の史料調査も数度にわたって行われたが、それを用いた歴史研究はほとんど行われず、収集史料も公開されなかった。
筆者は2009年と2011年にNIHUプロジェクト・イスラーム地域研究東京大学拠点でおこなわれたプロジェクトにより、共編者であるMamadsherzodshoev氏らとともに、山岳バダフシャン自治州のローシャーン郡、シュグナーン郡、ラーシュトカラ郡、イシュカシム郡で民間に所蔵される12の文書コレクションの調査をおこなった。その際にスキャナーで複写した全152点の史料の画像を、所蔵者の許諾を得て掲載したのが本書である。発見史料は18世紀半ばから20世紀初めのものであり、大部分がペルシア語、少数がロシア語とテュルク語である。本書ではこれらを、I. アーガー・ハーン関連文書 (54点)、II. ムキー (導師) たちに関する文書 (8点)、III. 系譜書 (3点)、IV. 宗教問題に関するその他の文書 (5点)、V. 命令書 (3点)、VI. 証書 (52点)、VII. 書簡 (17点) の7種類に分類した。
同種の史料はこれまで現地でも研究されておらず、本書の公刊により、史料の原文が直接的に研究に利用できるようになった。画像からはテキストだけでなく、筆跡、アーガー・ハーンの印章、ボンベイでの発送時に記されたグジャラート語のメモ書き等、様々な情報を得ることができる。これら新史料を利用することで、中央アジア史だけでなくイスマーイール派ムスリムの知られざる側面を明らかにしていくことができるはずである。
* 本書は、NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点 (2011~2015年度) において、TIAS Central Eurasian Research Seriesの第8巻として出版された。2023年3月時点で、ウェブサイト http://www.l.u-tokyo.ac.jp/tokyo-ias/nihu/publications/index.htm の刊行物一覧ページから序文と目次ページがダウンロード可能である。
* また、本サイトで別に紹介した、Documents from private archives in right-bank Badakhshan (Introduction) は、本書所収史料の解題集である。
(紹介文執筆者: 附属図書館 准教授 河原 弥生 / 2023)
本の目次
Facsimile
I. Documents related to Āghā Khāns
A. Decrees
B. Receipts
C. Others
II. Documents related to mukhīs
A. Orders
B. Tables on collected zakāt
C. Others
III. Genealogies
IV. Other documents related to religious matters
V. Orders
VI. Deeds
VII. Letters