東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に象と花の絵

書籍名

民法のかたちを描く 民法学の法理論

著者名

大村 敦志

判型など

340ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年2月3日

ISBN コード

978-4-13-031194-6

出版社

東京大学出版会

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民法のかたちを描く

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本書『民法のかたちを描く』(2020) は、2010年代に私が書いたものを収録した論文集です。1990年代のものは『契約法から消費者法へ』(1999)、『消費者・家族と法』(1999) に、2000年代のもの『20世紀フランス民法学から』(1999)、『新しい日本の民法学へ』(2009) に収録されています。5冊の論文集はいずれも東京大学出版会から刊行されていますが、収録された論文は、程度の差はあるもののどれもが狭義の法学の領域をはみ出す部分を含んでいるため、様々な学問領域の読者を持つ出版社にお願いして出版していただきました。
 
本書には合計15編の論文・小論が収録されていますが、出版に際して付した各章の章題が、本書が取り上げている主題を大まかに示しています。すなわち本書では順に、「私権」「人格権」「後見・事務管理」「親権」「遺言」「婚姻」「内縁」(以上、第1編)、そして「所有」「家族」「契約」「人間」「市民社会」「制度」「比較法文化」「社会科学」(以上、第2編) が論じられています。
 
第1編の諸テーマや第2編の「所有」「家族」「契約」といったテーマは、いずれも民法の基本概念といってよいものですが、本書で私が目指しているのは、それらの「なかみ」(実質 / 外延) ではなく、「かたち」(形式 / 内包) を見直すことでした。このような課題意識は、第2編の「人間」以下のテーマにおいて、より明確になっています。第1編は、第1部「わたしのかたち」と第2部「つながりのかたち」に、第2編は、第3部「しくみのかたち」と第4部「まなざしのかたち」に分けられていますが、全体を通じて見ると、(対象レベルの・生活者としての)「わたし」から出発して (わたしたちの)「つながり」に進み、それを「しくみ」として捉える (メタレベルの・学者としてのわたしの)「まなざし」に進むという形で、民法と民法学について私が考えてきたことをまとめています。
 
第1編には「人と家族の民法」、第2編には「人間と制度の民法学」という表題を付してみましたが、前者には (資本主義経済社会の基礎としての)「財産と取引の民法」、後者には (解釈とそのための基礎研究としての)「実定法中心の民法学」に対する疑念 (より強く言えば批判) が含まれています。「民法」も「民法学」も大きな転換点にあると私は考えています。では、いまどのような転換が生じつつあるのか、次の世代の民法・民法学はどのような方向に向かう (べきな) のか。従来の考え方と私の疑念とを比べて、若い読者にはこうした点を考えていただき、民法や民法学の生成発展に加わっていただければと思っています。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 名誉教授 大村 敦志 / 2023)

本の目次

第1篇 各論――人と家族の民法
 
第I部 わたしのかたち
 
第1章 私権:私権とdroits civils に関する覚書
 はじめに
 1 「市民的権利」としての「私権」
 2 19世紀におけるdroits civils
  2.1 droits civilsに関する説明
  2.2 droits civilsの位置づけ
  2.3 droits civilsの可能性
 3 現代におけるdroits civils
  3.1 民法におけるliberté/égalitéと人格権
  3.2 民法から見たDroit civilとDroit public 
 おわりに
 
第2章 人格権:「人の法」から見た不法行為法の展開
 はじめに
 1 1980年代後半以降の不法行為判例の具体的展開
  1.1 裁判例の概観
  1.2 裁判例の整理
 2 1980年代後半以降の不法行為法の再解釈
  2.1 権利を創る不法行為法学?
  2.2 不法行為法の再・再構成?
 おわりに
 
第II部 つながりのかたち
 
第3章 後見・事務管理:民法における「ともだち」――問題点の整理
 はじめに――「ともだち」への視線
 1 「ともだち」の領分
  1.1 家族法と「ともだち」
  1.2 契約法と「ともだち」
  1.3 不法行為法と「ともだち」
  1.4 団体法・物権法・人格権法と「ともだち」
 2 「ともだち」の意義
  2.1 「ともだち」の特徴
  2.2 「ともだち」の法理
 おわりに――「ともだち」の将来
 
第4章 親権:親権・懲戒権・監護権――概念整理の試み
 はじめに
 1 親権と居所指定権・懲戒権・職業許可権
  1.1 親権と所有権
  1.2 親権と強制履行
 2 親権と監護権・管理権
  2.1 監護とは何か
  2.2 管理権とは何か
  2.3 財産以外に関する法律行為の代理権
 おわりに
 
第5章 遺言:身体障害者の財産管理
 1 問題の所在
 2 身体障害者の退場――聾者・唖者・盲者の行為能力
  2.1 準禁治産制度の純化
  2.2 補助・任意後見の創設
 3 身体障害者の再登場――遺言における通訳の問題
  3.1 手話通訳による遺言
  3.2 類似の困難との対比
 4 若干の考察
  4.1 現行法の評価
  4.2 支援のための制度と原理
 
補論A 婚姻:婚姻法・離婚法――家族法改正提案
 1 総論――改正の方向と提案の概要
  1.1 報告の前提
  1.2 検討対象外とした問題
  1.3 現行法の問題点
  1.4 改正の方向と提案の概要
 2 各論――逐条的な検討
  2.1 夫婦の義務の増補(752条,760条,761条関係)
  2.2 法定財産制の変更(762条)
  2.3 夫婦財産契約の整備(754条,755条~759条関係)
  2.4 離婚・死別による夫婦の財産関係の清算(新設)
  2.5 財産分与・配偶者相続権の変容(786条関係)
 
補論B 内縁:パクスその後――私事と公事の間で
 はじめに
 1 パクス・同性婚とhomoparentalité
  1.1 パクスの現状
  1.2 同性婚への要求
 2 homoparentalitéをめぐる問題状況
  2.1 概観
  2.2 親権
  2.3 親子関係の成立
 3 homoparentalitéに関する考察
  3.1 私事としてのパクス?
  3.2 公事としての親子?
  3.3 同性婚の場合には?
 おわりに――性同一性障害者特例法と嫡出推定
 
第2篇 総論――人間と制度の民法学
 
第III部 しくみのかたち
 
第6章 所有:『「所有権」の誕生』を読む――認識の学としての民法学のために
 はじめに
 1 『「所有権」の誕生』の内的読解――著者の意図を読解する
  1.1 本書の紹介
  1.2 本書の特徴
 2 『「所有権」の誕生』の外的読解――著者の意義を開示する
  2.1 発送源としての人類学
  2.2 認識の学としての民法学
 おわりに
 
第7章 家族:家族の起源と変遷――問題状況
 はじめに
 1 家族研究の現状――フランス民法学から
  1.1 総論的記述
  1.2 個別テーマに関する記述
 2 家族の起源――非法学の領域から・その1
  2.1 人類学・歴史学
  2.2 霊長類学・発達心理学
  2.3 精神分析――父・母・家族
 3 家族の変遷――非法学の領域から・その2
  3.1 家族論とジェンダー論・フェミニズム
  3.2 社会学――理論と実証
  3.3 権力・ケアと家族政策
  3.4 その他――アジアと住居
 おわりに
 
補論C 契約:債権法改正の「契約・契約法」観
 はじめに
 1 形態論的な検討
 2 実定法的な検討
  2.1 契約の実体と過程
  2.2 契約法における当事者と裁判官
 3 原理的な検討
  3.1 契約における人間と自然
  3.2 契約による社会
 結語――契約法学の諸相
 
第IV部 まなざしのかたち
 
第8章 人間:民法における人間像の更新
 はじめに
 1 中核――日本の実定法(民法)から見た人間像の変化
  1.1 民事責任
  1.2 契約
  1.3 人身・人格
 2 外郭――日本・民法の外から見た人間像の変化
  2.1 フランスの研究から見た人間像の変化
  2.2 隣接領域の研究から見た人間像の変化
 おわりに――民法学の対応
 
第9章 市民社会:フランスの市民社会と民法・覚書――現代日本の民法学の観点から
 はじめに
 1 日本における研究
  1.1 非実定法領域におけるモデル
  1.2 実定法領域におけるモデル
 2 フランスにおける研究
  2.1 法学領域における研究
  2.2 非法学領域における研究
 おわりに
 
第10章 制度:損害賠償から制度設計へ――「制度=規範=社会」の基礎理論のために
 はじめに
 1 説明理論としての「制度」論――J.R.サールの所説を中心に
  1.1 サール理論からの示唆
  1.2 実定(民)法学の基礎理論への投影
 2 実践技法としての「制度」論――コントラクト・デザインの哲学
 おわりに――自然法の再編
 
第11章 比較法文化:日本法とブラジル法が出会うとき――民法とグローバリゼーション
 はじめに
 1 東周りと西周り
  1.1 西欧法の東進
  1.2 西欧法の西進
 2 邂逅点――一つの例としての同性婚
 おわりに――終着点からの発信?
 
補論D 社会科学:法社会学への期待と要望――平成一民法学者の観点
 1 資料にそって
  1.1 はじめに
  1.2 回顧――30年間の変化
  1.3 民法学の対応
  1.4 法社会学への期待・要望
 2 資料の外へ
  2.1 法・法学の領分
  2.2 社会・社会学とは何か
 
あとがきに代えて――「七つのつぶて」とその周辺
 

関連情報

東京大学出版会 - 大村敦志著作一覧:
https://www.utp.or.jp/author/a138568.html

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