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黒い表紙に白、グレー、青の波模様

書籍名

民法読解 旧民法財産編I 人権 旧民法から見た新債権法

著者名

大村 敦志

判型など

308ページ、A5判、上製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2020年11月

ISBN コード

978-4-641-13830-8

出版社

有斐閣

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旧民法財産編I 人権

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本書『民法読解 旧民法財産編I 人権』(2020) は、『民法読解総則編』(2009)、『民法読解親族編』(2014) に続き、「民法読解」シリーズの第3冊として刊行されたものです。前の2冊と同じく民法の条文を (基本的には) その順序に従って解説するもので、見かけ上は「注釈書」のスタイルをとるものです。
 
注釈書は一般に、各条文につき詳しい解説をすることによって、具体的な問題への解答を求める実務家のニーズに答えることを主目的とするものです。これに対して、「民法読解」シリーズは個々の条文から出発しつつテクスト相互間の関係を考えることを通じて民法の世界観 (その一部) を示し、民法とは何か、法によって社会を創り出すとはいかなることかといった問題への人々の関心に答えようというものです。その意味で、「民法読解」シリーズは「注釈書」の形をとってはいますが、「試論 (エッセイ)」としての性格の強いものです。
 
本書もまた「民法読解」シリーズの1冊として、このような特色を持つものとなっていますが、前の2冊とは違う点もあります。前の2冊が現行の「民法」(1898年に施行され、現在も効力を持っています) の「総則編」「親族編」を対象としていたのに対して、本書は「旧民法財産編」を対象としているのです。
 
このように過去の民法典を研究することは歴史的な研究として意味があるだけでなく、現行民法典を理解する上で重要な意味を持っています。「旧民法」というのは、1890年に公布されものの施行されることなく現行民法の施行に伴って廃止された近代日本初の民法典ですが、ボワソナードというフランス人法学者を中心に起草されており、フランス法の影響を強く帯びたものになっていました。現行民法典は旧民法をベースにしていると指摘されていますが、二つの民法典の間にはずいぶんと異なる点もあり、現在の私たちから見ると、旧民法は外国法のように見えることもあります。外国法を学ぶことは自国法の特徴を知る上で有益なことですが、旧民法は私たちにとって最も身近な「外国法」であると言えます。
 
本書が刊行された2020年には、2017年の民法改正 (債権法改正と呼ばれています) によって、民法の債権法部分が大きく改められました。この新しい債権法をより深く理解する上で、とりわけ旧民法の債権法 (財産編の「人権」の部がこれに相当します) は大きな意味を持ちます。新債権法の解説書はたくさん書かれていますが、本書を一読していただければ、それらとは異なる視角から問題点を捉えることができると思います。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 名誉教授 大村 敦志 / 2023)

本の目次

序 言
序 章 総則
 
第1章 義務の原因
 第1節 合意
 第2節 不当の利得
 第3節 不正の損害即ち犯罪及び准犯罪
 第4節 法律の規定
 
第2章 義務の効力
 序 節 総則
 第1節 直接履行の訴権
 第2節 損害賠償の訴権
 第3節 担保
 第4節 義務の諸種の体様
 
第3章 義務の消滅
 総序
 第1節 弁済
 第2節 更改
 第3節 合意上の免除
 第4節 相殺
 第5節 混同
 第6節 履行の不能
 第7節 銷除
 第8節 廃罷
 第9節 解除
 
第4章 自然義務
 
結 語
あとがき
資 料
 

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