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白い表紙の中央に青い模様

書籍名

継続的契約の規範

著者名

中田 裕康

判型など

394ページ、A5判、上製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2022年6月

ISBN コード

978-4-641-13894-0

出版社

有斐閣

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継続的契約の規範

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本書は、同じ著者の『継続的売買の解消』(有斐閣、1994年)、『継続的取引の研究』(同、2000年) に続く、主としてその後20年間に公表された継続的契約に関する論稿を収録する論文集である。
 
本書第1編「継続的契約総論」は、6つの論稿を収める。中心となるのは、21世紀初めに行われた民法改正における継続的契約の処遇の検討である。日本においては、継続的契約に関する一般的規定を民法に置くことが検討されたが見送られ、2017年改正民法では、各種の継続的契約における規定が改正されたにとどまる。他方、2016年に改正されたフランス民法には、継続的契約に関する一般的規定が新設された。このような相違は、日仏2国間だけのことではない。各国の立法や国際的な諸契約原則において、継続的契約に関する規定の有無、それがある場合の規律の態様とその位置づけは、大きく異なっている。第1編の諸論稿は、継続的契約の規範の内容を検討するとともに、それに関する立法の多様性とその原因を考察する。
 
第2編「継続的契約の諸相」では、使用貸借、賃貸借、保証、雇用、銀行預金という各種の継続的契約に関する具体的問題が検討される。
 
第3編「契約と債務」は、継続的契約に限らない、各種の契約や債権債務関係に関する5つの論稿を収める。売買の多様性と本質、債権者平等の原則、共同型の債権債務などが論じられる。
 
第1作品である『継続的売買の解消』では、著者は、全体としての契約があるか否かを問わず、同じ当事者間で継続してきた売買が一方的に打ち切られる場合について検討した。全体を包摂する契約の存否、それがある場合とない場合のそれぞれにおける解消者の責任が関心の対象である。それは当時の日本における取引実態を反映する問題でもあった。アメリカの学説の提唱する関係的契約論も参照しつつ、本書は、信義則により補完された伝統的契約法にとどまる。
 
そのころから、商取引において、取引基本契約書などの契約書を作成し、当事者の義務、契約期間、終了事由などを精緻に規定する実務が急速に広まった。そこで、発達しつつある契約の内容と構造、及び、そのような契約を生み出す継続的取引の実態に関心が向かった。第2作品『継続的取引の研究』では、取引実態と契約との関係を考察するとともに、契約構造の分析方法としてフランスとドイツの「枠契約」の概念を検討した。
 
その後の20年余に、国内外で契約法・債権法について大きな法改正があった。第3作品である本書は、継続的契約の規範の内容の検討を続けるとともに、これに関する立法例の相違の原因についても考察を広げるものである。
 
本書を含む3作品は、継続的契約という不明確な概念に対して、さまざまな角度から検討することにより問題の全体像を浮かび上がらせたうえ、継続的契約において問題となる諸価値の分析、それを適切に規律するための契約の構造と内容の考察、これに関する各国の制定法の相違の理由の考察を表すことを試みるものである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 名誉教授 中田 裕康 / 2023)

本の目次

第1編 継続的契約総論
 第1章 継続的契約関係の解消
 第2章 継続的契約 ―― 日仏民法改正の対照
 第3章 フランス民法改正案における継続的契約
 第4章 永久契約の禁止
 第5章 契約における更新
 第6章 継続的取引における時の流れ
 
第2編 継続的契約の諸相
 第7章 使用貸借の当事者の破産
 第8章 不動産賃借人の保証人の責任
 第9章 将来の不動産賃料債権の把握
 第10章 契約解消としての解雇
 第11章 銀行による普通預金の取引停止・口座解約
 
第3編 契約と債務
 第12章 売買 ―― 売買の多様性とその本質
 第13章 消費者契約法と信義則論
 第14章 債権者平等の原則の意義 ―― 債権者の平等と債権の平等性
 第15章 共同型の債権債務について
 第16章 共同相続された預金債権の法律関係 ―― 普通預金債権を中心に
 

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