光・熱・気流 環境シミュレーションを活かした建築デザイン手法
建築分野にもカーボンニュートラル達成への取組みが求められる昨今、太陽の熱や光、風を活かしたパッシブ技術の活用、さらには快適性・省エネルギー性に配慮した建築設備の計画に取り組んだ環境配慮型建築は今後も裾野が拡がっていくことが予想される。環境配慮型建築を設計する際の有効なツールの1つとして、熱・光・気流といった人間の目には見えない要素をコンピュータ上で可視化する「環境シミュレーション」が挙げられる。設計段階から様々な環境要素を可視化して評価するとともに建築デザインへフィードバックしていくことで、建築物は快適かつ省エネルギーなものとして実現することが可能となる。しかし、環境シミュレーションは非常に有効なツールであるが、熱・光・気流といった絶えず変化し続ける環境要素をどのように扱えば良いのか、設計時における体系的な活用手法の整理はまだ道半ばである。
そこで本書では、実際に環境配慮型建築の設計に携わっている設計者・エンジニア・研究者などがデジタル技術を積極的に利用した環境配慮型建築の設計上のポイントをそれぞれの視点から解説している。一言で「環境シミュレーションを活かした建築デザイン手法」といっても、その取り組み方は著者によって千差万別である。多様な環境建築の新たなる潮流を本書から読み取っていただきたい。
本書は「静岡建築茶会2018|建築環境デザインを科学する!」と題して2018年に全3回のプログラムで開催されたシンポジウムの登壇者である設計者・エンジニア・研究者らの講演内容とコーディネーターとのディスカッションをとりまとめた1章と、住宅から庁舎や大学施設など大小11の設計事例の中で取り組まれた環境シミュレーションを活かした建築デザインのプロセスをとりまとめた2章から構成されている。2章の冒頭では、「環境シミュレーションを活かした設計プロセス」と題して設計フェーズごとに活用すべき環境シミュレーションが、具体的なツールの紹介とともに解説されている。これから環境シミュレーションに取り組んでみたいという学生の皆さんにとっても導入本として大いに参考になるだろう。
紹介されている各設計事例で行われている設計手法の裏に、それぞれの著者のどのような環境配慮型建築に対する思想が隠れているのかについても、着目しながら読み進めていただきたい。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任准教授 谷口 景一朗 / 2024)
本の目次
●第1回 シンポジウム
レクチャーA 中川 純 / 建築環境デザインを科学する
レクチャーB 谷口景一朗 / 環境シミュレーションと建築設計の横断
レクチャーC 盧 炫佑 / 太陽エネルギーの有効活用
ディスカッション 中川純×谷口景一朗×盧 炫佑×脇坂圭一×天内大樹×亀井暁子
●第2回 シンポジウム
レクチャーA 小泉雅生 / フィジックス・デザイン
レクチャーB 富樫英介 / 設備/人間/環境
レクチャーC 重村珠穂 / コンピュータ技術を利用した環境デザイン
ディスカッション 小泉雅生×富樫英介×重村珠穂×脇坂圭一×亀井暁子
●第3回 シンポジウム
レクチャーA 秋元孝之 / ZEB/ZEH SHIFT と環境デザイン
レクチャーB 川島範久 / 環境シミュレーションを活用して「自然と繋がるDelightfulな建築」をデザインする
レクチャーC 清野 新 / What is“ Building Physics”?
ディスカッション 秋元孝之×川島範久×清野新×脇坂圭一×天内大樹
2章 ケーススタディから見た環境シミュレーションを活かした建築デザイン手法
環境シミュレーションを活かした設計プロセス
光・熱・気流 環境シミュレーションを活かした建築デザイン手法
●事例 1 下馬の住宅 / スタジオノラ+望月蓉平+加瀬美和子
●事例 2 微気候の家 / レビ設計室
●事例 3 SHOCHIKUCHO HOUSE / 西沢立衛建築設計事務所 + Arup
●事例 4 ソトマで育てる、ソトマでつながる(B棟)/ 名古屋大学脇坂圭一研究室 / ヒュッゲ・デザイン・ラボ
●事例 5 一宮のノコギリ屋根 / 川島範久建築設計事務所
●事例 6 不均質な家~201号室リノベーション / 脇坂圭一アーキテクツ
●事例 7 横浜市港南区総合庁舎 / 小泉雅生 + Arup
●事例 8 東急コミュニティー技術研修センターNOTIA / 清水建設 + 秋元孝之
●事例 9 清水建設北陸支店新社屋 / 清水建設 + アルゴリズムデザインラボ
●事例 10 いしはらの里 / 公共設計OMソーラー株式会社
●事例 11 静岡理工科大学建築学科棟えんつりー / 古谷誠章 + NASCA + 田辺新一 + 静岡理工科大学コミッショニングチーム
関連情報
谷口景一朗「データ活用は目的ではなく手段である」 (ArchiFuture Web 2024年5月14日)
https://www.archifuture-web.jp/magazine/937.html
谷口景一朗「実測調査四方山話」 (ArchiFuture Web 2024年1月16日)
https://www.archifuture-web.jp/magazine/899.html
谷口景一朗「自らの手で「快適」を獲得せよ」 (ArchiFuture Web 2023年8月8日)
https://www.archifuture-web.jp/magazine/855.html
谷口景一朗「DIY的環境設計」 (ArchiFuture Web 2022年12月22日)
https://www.archifuture-web.jp/magazine/789.html
谷口景一朗「エンジニアリングによる建築進化サイクル」 (ArchiFuture Web 2022年8月9日)
https://www.archifuture-web.jp/magazine/751.html
谷口景一朗「脱炭素化の先を見据えて」 (ArchiFuture Web 2022年5月31日)
https://www.archifuture-web.jp/magazine/730.html
谷口景一朗「環境シミュレーション活用の「御作法」」 (ArchiFuture Web 2021年10月21日)
https://archifuture-web.jp/magazine/663.html
谷口景一朗「建築設計×環境シミュレーション――新しい職能への挑戦」 (Mae・Lab|前真之サステイナブル建築デザイン研究室)
http://maelab.arch.t.u-tokyo.ac.jp/arch_design_sim
関連イベント:
【開催報告】『環境シミュレーションと建築デザインの横断』設計セミナー〔話し手:登壇:谷口景一朗氏|進行:相羽健太郎〕 (一般社団法人木造施設協議会 2022年8月25日開催)
http://mokuzoushisetsu.or.jp/journal/environmentdesign/
シミュレーションを活用したデザイン OPEN VUILD #4 (VUILD株式会社 2018年7月11日開催)
https://note.com/vuild/n/n22d3dedbde01