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ライトグレーのカラフルな表紙

書籍名

資源循環論から考えるSDGs

著者名

所 千晴

判型など

143ページ

言語

日本語

発行年月日

2022年11月

ISBN コード

9784885555299

出版社

エネルギーフォーラム

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資源循環論から考えるSDGs

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2015年に国連サミットにて採択されたSDGsの概念は広く国内外に認知され、経済と社会と環境が調和した人類のウェルビーイング向上が地球上の全ての活動の前提となりつつある。日本においては2020年のカーボンニュートラル宣言からさらに環境に対する関心が高まり、この温室効果ガスの削減という環境対策と、経済や社会活動との調和をどのように達成するのか、実践的に取り組まなければならない状況になった。しかし環境負荷は温室効果ガスのみでないことは、SDGsの考え方の基礎ともなったプラネタリーバウンダリーの概念からも明らかであり、我々は温室効果ガス削減と、その他環境対応とのバランスをどのように図るのかについても考えていかなければならない。
 
カーボンニュートラルと深く関係しながら両立が難しいとされているのが資源循環である。カーボンニュートラル促進のためには現在以上に資源が必要となることを懸念する報告書が数多く出版されている。2015年に欧州委員会より提案された政策パッケージであるサーキュラー・エコノミーは、カーボンニュートラルなど環境負荷低減と資源循環を経済的に両立させる1つの具体策として注目されている。サーキュラー・エコノミーは単なるリサイクルのみならず、シェアやメンテナンス、リユース、リペア、リファービッシュなど、経済モデルや消費者行動の変容も含むシステムと技術の両面からの革新を必要とする。それを可能とするのは、多様な価値観やサプライチェーン全体での最適化を共に目指すパートナーシップである。もちろん、それらを支える省エネルギー型の製造・分離技術やデジタル技術も必要となる。
 
本書では以上の概念や現状を、金属資源循環やリチウムイオン電池、太陽光パネルの資源循環を例に紹介した。また、筆者がこれまでに経験したダイバーシティ推進への取り組みも紹介している。本書を通じて、SDGsという概念の幅広さと多様性、特に経済や社会や環境が全て多様に関連していることと、あらゆる方面からそれに貢献することができることを読者に少しでも自分事として感じていただければと考えている。また、本書をお読みいただいた次世代の皆さんの中から、研究者、技術者、経営者、あるいは他のさまざまな立場から、このように複雑な課題を有しながらもこれからの世界に重要な資源循環を実現する人材を目指していただけることを願っている。
 

(紹介文執筆者: 生産技術研究所 特任教授、工学系研究科 教授 所 千晴 / 2023)

本の目次

第1章 経済・社会・環境の調和を目指すSDGs
 
カーボンニュートラル宣言を機に 経済戦略となった環境対応
気候変動だけが環境問題ではない 「地球の限界」を超えないために
環境問題は速度論である 変化速度が大きいと限界に
MDGsからSDGsへ前進 経済性ない環境対応は持続可能ではない
経済成長を目標としない経済って何? 「ドーナツ経済」の考え方
経済成長・資源消費・環境負荷 デカップリングの必要性
 
第2章 サーキュラー・エコノミーと資源とSDGs
 
SDGsに深く関係する資源消費 希少資源の制約的誤解
カーボンニュートラルと資源消費 電気自動車による資源不足懸念
バタフライ・ダイヤグラムが示す サーキュラー・エコノミーの概念
サービス増強がひとつの解 製品ライフサイクル管理の重要性
金属資源循環を支える分離技術 必要なのはリサイクル技術だけではない
省エネルギー型「分離」開発へ 分離のしやすさが製品の高付加価値に
製錬ネットワークを活用 多種多様なレアメタルの回収
プラスチックの資源循環 「海洋汚染問題」の解決を目指す
 
第3章 カーボンニュートラルを支えるリサイクル
 
リチウムイオン電池の資源循環 適切な寿命診断技術の開発を
リチウムイオン電池のリサイクル 素材の「完全分離」は必要か?
太陽光パネル大普及後の課題 好相性の事業モデルで循環を支える
シリコン系パネルのリサイクル ガラス循環型のサプライチェーン
物理的分離濃縮技術の高度化 太陽光パネルの最適循環
 
第4章 SDGsを達成するための多様性
 
金属消費の変遷から考える 多様な価値観の重要性
ジェンダード・イノベーション マイノリティ研究者の活躍の場が拡大
カーボンニュートラルを宣言 早稲田大学の取り組み
SDGsを自分ごととして捉える 価値観の多様化こそが人類の成長
 
あとがき
 

関連情報

関連記事:
連載「サーキュラーエコノミーを創る」(5) 分解しやすい設計と革新的技術の融合で資源循環ループをまわす (公益財団法人 日本生産性本部 2023年8月25日号)
https://www.jpc-net.jp/consulting/report/detail/_2023825.html
 
循環経済へリサイクルを見直そう 所千晴・早稲田大教授 科学記者の目 編集委員 滝順一 (日本経済新聞 2022年12月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD170NW0X11C22A2000000/
 

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