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黒い岩のような表面写真

書籍名

多元的中華世界の形成 東アジアの「古代末期」

判型など

360ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2023年2月

ISBN コード

978-4-653-04537-3

出版社

臨川書店

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多元的中華世界の形成

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こんにち中国はもっとも多くの人口を抱え、もっとも多くの国々と国境を接する国である。その広大な周縁部には大草原や砂漠、高地、熱帯など多様な地理環境と風土をもつ世界が広がり、さらにその外側には中国で生まれた漢字や儒教、漢訳仏典の文化などを継受する東アジアの国々が存在する。この膨大な人口と多様な民族にまたがる中華世界はいかにして生まれたのか。この問いを西洋における「古代末期 Late Antiquity」との対比のなかで論じようとするのが本書である。
 
「古代末期」とは、ピーター・ブラウンを旗手として英米の学界を席巻した新しい時代区分の考え方で、ヨーロッパの3~8世紀の時代を従来のようにローマ帝国の衰退期ととらえるのではなく、長いローマ文化の継承と変容の時代ととらえ、地中海世界に生まれた西ヨーロッパ、ビザンツ帝国、イスラム帝国の文明をともに古典文化の継承者として包括する見方である。すなわち「古代末期」という時代を設定する意味は、ギリシア・ローマを標準とする古典文化が、「蛮族」や「周辺」世界に受容され、キリスト教などと交わることで変容し、多元的で多文化な世界へと変貌していったことに積極的な意義をみいだすことにある。
 
東アジアの3~8世紀もまさにそのような時代であった。漢帝国の崩壊後、洛陽や長安をふくむ中原は、中国文明の唯一の中心地ではなくなり、江南や成都などかつての中国の周縁地域に新たな文明の中心地が生まれた。中国文明の担い手は漢人だけではなくなり、「五胡」などと呼ばれる諸民族が新たな文明の担い手となり、中国化した異民族が正統な中国の支配者となる新たな類型の王朝「征服王朝」を生みだした。朝鮮や日本にも中華の中心地が生まれて文明の浸透をうながし、東アジアに漢字文化圏が生み出された。さらにインドから伝わった仏教がこれらの地域に浸透し、中華を超える新たな世界観が共有されるようになった。このように中国文明は一方的に外部に波及したのではなく、周辺世界や諸民族がそれを受容するなかで、しだいに普遍性や多様性をそなえていき、中華世界を生み出していったのである。
 
本書はそのような中華の受容と変容のダイナミズムを主として異民族、江南、朝鮮、日本、女性といった受容する側に焦点を当てつつ解明する。またそれを通じてこの時代の東アジアの歴史をよりグローバルな視野のなかに位置づけなおそうとするものである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 佐川 英治 / 2023)

本の目次

 序 論 東アジアの「古代末期」(佐川英治)

第I部 古典の継承と変容

 第1章 魏晋南北朝の「漢代の記憶」とその変化 (王 安泰 [三宅舞佐志 訳])
 第2章 嘎仙洞石刻祝文にみる北魏王権の多元性―天子・皇帝・可汗・太平真君の称号をめぐって― (佐川英治)
 第3章 南斉・梁における『周礼』の受容について (戸川貴行)
 第4章 斉梁類書における魏晋知識の典故化 (付 晨晨)
 第5章 梁代における外国用将軍号の新設について (岡部毅史)
 第6章 梁における戦争と世代交代の影響 (アンドリュー・アイゼンバーグ [三宅舞佐志 訳])

第II部 中華の多元化

 第7章 梁代における建康の繁栄と仏教および寺院空間 (小尾孝夫)
 第8章 北朝晚期の寺院と政治文化―“国”寺、行政区と戦場― (魏 斌 [三浦雄城 訳])
 第9章 6世紀新羅における大王号の使用とその意義 (小宮秀陵)
 第10章 7世紀倭国における中心と周辺―毛人・蝦夷・粛慎― (河内春人)
 第11章 則天武后の権威の多元性 (河上麻由子)
 第12章 グローバル・ヒストリーとしての古代末期―アイルランドから日本まで― (足立広明)

あとがき / 編者・執筆者・翻訳者紹介 / Contents (英文目次)
 

関連情報

書籍紹介:
【教員著作紹介】奈良大学文学部史学科の足立広明先生(西洋史)も執筆された、佐川英治編『多元的中華世界の形成-東アジアの「古代末期」-』が刊行されました。 (奈良大学ホームページ 2023年3月11日)
https://www.nara-u.ac.jp/faculty/let/history/news/2023/1689

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