東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

家の形の折り紙を持ったイラスト、ウグイス色の表紙

書籍名

住総研住まい読本 住まいから問うシェアの未来 所有しえないもののシェアが、社会を変える

著者名

住総研「シェアが描く住まいの未来」研究委員会 (編)、 岡部 明子、 鈴木 亮平、山道 拓人、猪熊 純、前田 昌弘、門脇 耕三、小川 さやか (著)

判型など

248ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年8月10日

ISBN コード

9784761527822

出版社

学芸出版社

出版社URL

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住まいから問うシェアの未来

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情報通信技術の普及でシェア経済が急速に拡まるなか、ポスト資本主義の未来の経済の観点からシェアについて盛んに論じられている。他方、シェアは人類学的には、貨幣を介した交換以前からある人間の行為として研究し続けられているテーマである。
 
シェアについて本書が挑んだのは、人類の長い歴史に引き寄せて、シェアをめぐる新たな動きをとらえなおそうとしたことである。シェア概念に斬り込むにあたり、私たちの強みとなったのが建築学的なバックグランドで、建築空間をデザインしてきた経験や、リアルな空間でのまちづくりに取り組んできたことだった。「空間のシェア」すなわちひとつの空間に居合わせることは、消費の対象としてのモノやサービスをシェアすることを超える。現代のシェア経済からシェアを解きほぐし、スリランカの津波被災コミュニティを訪ね、タンザニアの都市で日々ぎりぎり生き抜く人たちと出会い、空き家を活用しようと奮闘する現場を覗いてきた。そうして立ち現れてきたのが、本書の骨格をなす3本柱である。新潮流としてシェアが論じられるときには、とかくシェアは目的化されるが、シェアは目的ではなく、「手段」ではないか、「媒介」ではないか、「基盤」ではないか。
 
シェアが「手段」だとすると、つきつめればシェアは人がよりよい生活を実現するための一手段ということになる。実際シェア空間を利用すると、空間を介して所有できないものにまで否応なしにシェアの対象は拡がることになる。むしろそういう曖昧さが生活に潤いや豊かさをもたらすシェアの魅力である半面、トラブルの元にもなる。その意味で、シェアは所有しえないものに手が届く手段といえるのではないか。
 
シェアを考えるとき通常、行為主体と対象物に注目しがちだが、両者の「媒介」本位に考えてみたらどうだろうか。シェアという媒介が人と他者をつないでいるというわけだ。人同士はもちろんだが人でなくてもよく人と土地がシェアしているという見方もできる。
 
シェアするにはプラットフォームとなる基盤が必須だと私たちは思い込んでいる。昔ながらの分かち合いであれば、家族や地縁共同体といった集団のように。現代シェアの基盤はP2Pのサイバー空間というわけだ。でも人類学的に見ると、個が確立する以前にシェアは存在し、それが人びとの生活を支える基盤だった。シェアという基盤があって「自分のものにする」という所有の行為が可能になるといった具合に。
 
シェアを軸に思考をめぐらしてきて、加速する新しいシェア社会への漠とした不安が退き、意外におおらかな未来の景色を人類の歴史の延長に共に創造できるかもしれないという希望が見えてきた。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 岡部 明子  / 2025)

本の目次

はじめに
序章  シェアを問い直す―選択する「行為」から社会の「基盤」へ (岡部 明子)
1 シェアリングエコノミー
2 人口減少下のシェア
3 リアルに空間をシェアすると
4 シェアは「手段」
5 シェアは「媒介」
6 シェアは「基盤」
 
第1部 住まいを起点としたシェアの実践から
第1章 シェアを道具に暮らしの未来をつくる (鈴木 亮平)
1 想いを継承するために
2 縮小時代のシェア
3 住まいを地域に開く
4 「食」でつながる暮らし
5 変化する働き方の受け皿
6 ビジネスの隙間の受け皿
7 シェアとともに暮らす
8 シェアを武器に
第2章 シェアをコンヴィヴィアルな道具にする七つの方法 (山道 拓人)
1 住まいが産業化したプロセス“二つの分水嶺”
2 シェアを道具にする七つの方法
3 シェアの方法から想像する住まいの未来
 
第2部 シェアを媒介するものとしての空間・住まい
第3章 似たもの同士のシェア、違うものを認めるシェア (猪熊 純)
1 建築によって開かれるシェアの可能性
2 人口減少社会におけるシェア
3 似たもの同士のシェア
4 違うものを認めるシェア
5 「公」「共」「私」の関係を問い直す
6 「公」「共」「私」を両立する空間
7 近代的な社会構造をリノベーションする
第4章 災害を生き抜く、人と人以外(モノ)のシェア (前田 昌弘)
1 災害が可視化する人と人以外(モノ)の働き
2 環境に働きかける主体とシェア
3 環境が人に働きかけることで生まれるコミュニティ
4 個別的な関わりを連鎖していくシェアにむけて
 
第3部 所有を基盤とした社会から、シェアを基盤とした社会へ
第5章 戦後の住まいに見るシェアの思想とその現在 (門脇 耕三)
1 古くて新しい問題としてのシェア
2 戦後の住まいをかたちづくったふたつの形式
3 集合住宅とコミュニティ
4 集合住宅の変質
5 資本主義の中から復活したシェアの思想と住まいの類型
6 シェアを通じた住まいの未来
第6章 語られないシェアが基盤となる社会 (小川 さやか)
1 長屋暮らしと語られない「シェア」
2 シェアを否定することで生まれる路上の秩序
3 シェアが自然になるとき
第7章 シェアを基盤とした未来へ (岡部 明子)
1 シェアを基盤に生きるインフォーマル地区の人たち
2 人口減少下の空き家問題
3 「自分のもの」にするという「行為」
4 「自分のもの」にすることの正当性が多元的な未来
あとがき
コラム
・「シェア」から「コモンズ」へ―韓国ソウル市のシェアリングシティ政策
・南米で分譲と賃貸の間を実践する
・スラムの空間的シェアとマゴソスクール
・高密度カンポン・チキニにおける空間シェアの実践
 

関連情報

書評:
藤平眞紀子 評 (『日本家政学会誌』679, Vol.72, No.11 
https://www.jshe.jp/gakkaishi/paper_log/2021.html

イベント:
シェアをめぐる新たな問い|「分人主義」から「所有」を思考する (シティラボ 2022年3月9日)
https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-event-share-220309/
 
『住まいから問うシェアの未来』刊行記念セミナー「所有し得ないもののシェアがつくる社会」 (学芸出版社 2021年9月18日)
https://book.gakugei-pub.co.jp/event-share210918/
 
『住まいから問うシェアの未来』発売記念トークイベント “住まい&空間”דシェア”の可能性 (二子玉川蔦屋家電 2021年9月15日)
https://book.gakugei-pub.co.jp/event-share210915/
 

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