東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黄色い表紙、メイドのイラスト

書籍名

白水Uブックス 執事とメイドの裏表[増補版] イギリス文化における使用人のイメージ

著者名

新井 潤美

判型など

284ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2023年8月24日

ISBN コード

9784560721377

出版社

白水社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

執事とメイドの裏表[増補版]

英語版ページ指定

英語ページを見る

「使用人」の存在とそのイメージはイギリスにおいて、また、イギリスの伝統的文化に惹かれ続けるアメリカにおいても、常に強い関心の的となってきた。彼らはアッパー・クラスやアッパー・ミドル・クラスの屋敷に住み込み、寝泊まりは屋根裏の部屋だが、主な生活の場所は階下 (ダウンステアーズ) の使用人用のスペースであり、主人の家族の住む階上 (アップステアーズ) とはまるで別の世界である。そこには、使用人を統率する役目を持つ執事と、女性の使用人の監督係であるハウスキーパーのもとに、外の社会と同様の厳しい階級社会がある。執事、ハウスキーパー、料理人、従僕と乳母はアッパー・サーヴァントと呼ばれ、他の使用人よりも格が上であり、お仕着せを着る必要がなく、個室を与えられる。また、大きな屋敷では、他の使用人たちとは別の部屋で食事をする場合もある。もともとはワーキング・クラスやロウワー・ミドル・クラスの出身だが、若い頃に大きな屋敷で下男あるいはメイドとして雇われ、厳しい訓練を受けてだんだんと昇格していき、しまいにはテーブル・マナーやワイン、礼儀作法や服装などについて、主人も顔負けの知識を得て、貫禄もつけていく。このようないわば「模擬」紳士・淑女は、イギリスの社会において興味深い存在であり、小説や戯曲で主人公、あるいは脇役としてつねにとりあげられてきた存在であった。
 
本書では、イギリスのこれらの使用人がどのようなかたちで様々な文学作品に表われているかを考察しつつ、使用人についての記録、エッセー、ハンドブックなどを参照することによって、イギリス文学における使用人のイメージとその実態を比較し、分析している。イギリスにおける使用人の歴史をざっと追った後に、執事、ハウスキーパー、料理人、メイド、従僕と下男、そして乳母をそれぞれ個別に取り上げた。それぞれがじっさいに屋敷の中でどのような地位を占め、役割を果たしていたかといった社会的な背景を考察し、彼らが登場するいくつかの演劇作品、小説、テレビドラマ、映画などの具体的な例をとりあげ、そこに表われるかれらのイメージを分析している。また、イギリスだけでなく、アメリカや日本でこれらの使用人がどのようなイメージをもたれているか、それらのイメージがどのように生まれ、どのようにイギリス本国におけるイメージと異なっているかといった点にも目を向けることによって、イギリスの文化の特徴や独自性を明らかにすることを試みた。本書は最初は2011年に白水社から刊行されたが、この増補版では、使用人としてみられがちだが、厳密に言うとそうではない、「ランド・スチュワード」と「ガヴァネス」について、新たに書き加えた章で取り上げている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 新井 潤美 / 2024)

本の目次

はじめに
第1章 執事――旧約聖書からハリウッド映画まで
第2章 ハウスキーパー――愛しすぎた女性たち
第3章 料理人――「きまぐれ」が歓迎されるポスト
第4章 メイド――玉の輿はありかなしか
第5章 従僕と下男――孔雀の出世
第6章 乳母――影の実力者
第7章 ランド・スチュワードとガヴァネス――「使用人」ではない被雇用者たち
あとがき
引用文献

関連情報

書評 (旧版):
富山太佳夫 評 (『毎日新聞』 2012年5月27日)
 
小倉孝誠 評 (『東京新聞』 2012年3月18日)
 
楊逸 評「文芸作品に探る階級社会の文化」 (『朝日新聞』 2012年1月22日)
https://book.asahi.com/article/11639953
 
橋本雅子 評 (『比較文学』第55巻 2012年)
https://doi.org/10.20613/hikaku.55.0_199
 
インタビュー (旧版):
トピックス「著者に訊く――『執事とメイドの裏表』をめぐって」 (『ヴィクトリア朝文化研究』第10号 2012年11月)
http://www.vssj.jp/journal/10/sakaguchi.pdf

このページを読んだ人は、こんなページも見ています