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ジョン・シンガー・サージェントによる絵画《マールボロ第9公爵とその家族》(1905年)

書籍名

ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級

著者名

新井 潤美

判型など

240ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年12月28日

ISBN コード

9784560098790

出版社

白水社

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ノブレス・オブリージュ

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イギリスのアッパー・クラスはイギリスの国の歴史を築き上げてきた存在でありながら、今や大部分のイギリス人にとっては、じっさいに会ったり交流したりする機会がほとんどない、遠い存在でもある。それでも長いこと政治や文化の中心にあった彼らの姿はイギリスの演劇、小説、絵画、そして20世紀以降には映画やテレビドラマなどの映像作品に頻繁に登場し、イギリスの歴史と文化の重要な部分としてみなされてきた。そういう意味では、執事、メイドなどの、小説や映画、そしてドラマでお馴染みでありながら、本物を見ることがなかなか難しい「イギリスの使用人」と似たような存在とも言えるだろう。
 
本書はこのようなアッパー・クラスのイメージがイギリスの文学や文化の中でどのような表象をされているかを取り上げたものである。貴族や地主階級の歴史をたどるものではないし、イギリスにおける彼らの歴史的、政治的役割を描くことを目的とした書物ではない。本書の目的は、イギリスの社会、文化の中でアッパー・クラスのどのような要素、どのようなイメージや実態が知られているのかに目を向けて、その背景や内容を見ていくことである。
 
イギリスの「アッパー・クラス」の爵位や称号、相続制度、教育、言葉とアクセント、生活習慣、そして「ミドル・クラス」との微妙な関係などの要素は、国外はもちろんのこと、イギリス国内でもしばしば混乱を招き、特に20世紀以降の小説や演劇、映像作品等では間違って描かれることもある。イギリスの相続制度が、貴族や地主階級の次男以下の息子たちを「ミドル・クラス」に送りこむことによって生じる、「アッパー・クラス」と「アッパー・ミドル・クラス」の関係も、複雑でわかりにくい部分が多い。本書では小説や演劇などの文学作品、映画やドラマなどの映像作品、そして実在の人物の例なども挙げながら、イギリスの「アッパー・クラス」の様々な要素、表象を理解し、彼らがどのようなかたちでイギリスの文化の一部をなしているのかを見ることを目的としている。ともすればイギリスの外では違ったイメージをもたれがちなイギリスのアッパー・クラスについて、イギリスでのイメージ、表象、受けとめられ方の一部を紹介することによって、「アッパー・クラス」のイメージのみならず、イギリスの文化の特徴や独自性をも明らかにしようと試みたものである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 新井 潤美 / 2023)

本の目次

はじめに
 
第1章 貴族の称号
第2章 「ヤンガー・サン」とアッパー・ミドル・クラス
第3章 カントリー・ハウスと相続
第4章 アメリカン・マネー
第5章 ステイトリー・ホーム観光
第6章 アッパー・クラスの教育
第7章 アッパー・クラスとオックスフォード大学
第8章 新しいアッパー・クラスと「ブライト・ヤング・ピープル」
第9章 現代のアッパー・クラスのイメージ
 
あとがき

関連情報

書評:
北海道新聞 2022年2月21日
 
森山恵 評「華やかさの裏の苦労と努力」 (日本経済新聞 2022年2月19日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD025M60S2A200C2000000/
 
書籍紹介:
『日刊ゲンダイ』 2022年4月23日
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/304299
 
「アッパー・クラスな「貴族」も楽じゃない? 『ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級』(「はじめに」紹介)」 (じんぶん堂 2021年12月23日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14507898

連載「ノブレス・オブリージュ――イギリスの上流階級」:
「第1回 貴族の称号 (上)」 (webふらんす|白水社 2020年5月11日)
https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/3552
 
「第2回 貴族の称号 (中)」 (webふらんす|白水社 2020年5月25日)
https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/3619
 
「第3回 貴族の称号 (下)」 (webふらんす|白水社 2020年6月10日)
https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/3692

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