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白い表紙に山吹色の線の模様

書籍名

系統看護学講座 - 基礎分野 社会学 第7版

著者名

井口 高志、 石川 ひろの、佐々木 洋子、戸ヶ里 泰典

判型など

276ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2024年1月

ISBN コード

978-4-260-05302-0

出版社

医学書院

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社会学 第7版

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本書は、看護師養成課程の教科書シリーズの一冊であり、看護や医療を学ぶ人に社会学を伝えることを主眼に書かれている。そのため、第一には、看護・医療領域で学んだり仕事をしたりする際に役に立つことを目指す書である。だが、4人の筆者の内2人は文学部出身の社会学者であり、この解説を執筆している私は人文社会系研究科で社会学を教えている。私が執筆した本書の第1部の序章、1章、2章、3章や終章は、保健医療に関する例を多く取り上げているものの、現代社会学の古典的学説や新しい視点、現代的に重要な現象を全体的に示す内容になっている。そのため、役立つことからは一番遠く見えるが、それでも「役立つ」と主張したい。言語化するならば、医療や看護の実践を反省的に点検したり、自分たちの日々の営みの意味や (副) 作用を確認したりするためのツールを目指している。皮肉めいて言えば、(もし真面目に学んでくれたら) 普段行っている勉強や看護実践の前提に疑いをもたらし、素直にそれを行いにくくするような (副) 作用をもたらしてしまうかもしれない。だが、長期的には、それが看護医療を一段豊かにすることを願って書いている。
 
特に第1部を念頭に置くと、本書がそうした「役立ち」をもたらすためには、読み方や出会い方に工夫が必要なのかもしれない。私たちは、わかりやすさを心がけて本書を書いた。だが、その中身は、一般的な社会学の教科書としても、密度の濃い、コアな社会学の概念が詰まっているため、医学や看護学を基礎とした勉強をしている人にとっては、文章の意味の難しさに躓くかもしれない。だが、この難しさは言葉そのものというよりも、知識を学ぶ様式の違いにある。本書の効果を増すためには、特に看護学を学び始めたばかりの人にとっては、人文社会系の学問の「読み方」に通じた適切なインストラクターが必要とされるかもしれない。また、概念を教科書的に覚えようとするのではなく、挙げられている事例を中心に、自分の体験や身近な事例に当てはめる読み方をしていくと良いかもしれない。そうした読み方は、ある程度看護や医療に携わった後に立ち止まった人の方が、実行しやすいのかもしれず、その意味では仕事や学習・研究を続けてきて、根本的な悩みや疑問を抱いた時が本書を読む絶好のチャンスである。
 
他方、本書は、大学の人文社会系の学部や共通教育課程で社会学を学ぶ人にとっても、現代社会学の視点や、医療・看護から家族・福祉・労働などの領域を中心に現代的トピックを学べるものとなっている。特に、本書の特徴は、第2部以降で、医療系の学問の中での社会学を学んできた者が書いた章や医療者養成の大学で働く者が書いた章が多くを占めている点にある。文学部の社会学の中でこうした領域に出会うことは稀だが、一冊の「社会学」の教科書となることで相乗効果をもたらしている。実際、第1部の多くを書いた私は、第2部以降での、看護や健康に関する現象をより直接に分析しようとする概念や理論 (ストレス理論や健康の不平等など) と、基礎的・抽象的な社会学理論との関係を考えることで、社会学自身の特徴や、新たな豊かさを発見することができた。こうした人文社会系と医療系の行き来は、巻末にある充実した索引や、本文中の相互参照を示す矢印を生かすことで可能になる。
 
UTokyo BiblioPlazaの読者は、どちらかと言うと人文社会系の学問の中で社会学などに関心を持つ人たちであろう。だとすると、本書は、社会学や社会科学に関心を持つ人たちに、いつも大学内で出会う社会学の教科書とは一味違ったテイストの教科書として読んで欲しい一冊でもあることを強調しておきたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 井口 高志 / 2024)

本の目次

序章 健康・病気・医療をみるツールとしての社会学 (井口高志)
  A 社会と社会学
  B 社会学の歴史から学ぶこと
  C 保健医療社会学の誕生と考え方
  D 本書で学ぶこと
 
第1部 社会学の基礎
 第1章 社会学の基礎概念 (井口高志)
  A 社会学における行為
  B 社会学における二者関係からの広がり
  C 社会学における個人の集まり
  D 社会学における社会の構造のとらえ方
  E 社会変動と現代社会
 
 第2章 社会学的視点からのモノの見方 (井口高志)
  A 合意とコンフリクト──医療者と患者はわかり合えるのか
  B システムと主体性──病院の決まりに人は従うだけなのか
  C 本質と構築──「○○者」や「○○問題」は自然に存在するのか
  D 意図せざる結果と機能主義──よかれと思ってやったことはどのような結果を生み出すのか
  E 社会学的視点の応用
 
 第3章 社会学の諸領域と保健医療 (井口高志)
  A 現代の社会学
  B 保健医療を取り巻くさまざまな社会
  C 家族社会学
  D 地域社会学
  E 福祉社会学
  F 保健医療社会学の特徴
 
 第4章 社会調査の理論と技法 (石川ひろの)
  A 社会調査
  B 量的調査と質的調査
  C 量的調査の企画と実施
  D 質的調査の方法
  E 社会調査の倫理
 
第2部 健康・病気と社会
 第5章 健康・病気の見方・とらえ方 (戸ヶ里泰典)
  A 健康とはなにか
  B さまざまな健康観
  C 現代社会と病気・健康
 
 第6章 現代社会とストレス (戸ヶ里泰典)
  A ストレスの理論
  B ストレッサーのとらえ方
  C ストレス対処と資源
 
 第7章 健康・病気の社会格差 (石川ひろの)
  A 社会格差と平等
  B 健康・病気の社会格差の諸相
  C 社会格差による健康格差発生のメカニズム
  D 健康格差是正の取り組みと可能性
 
 第8章 働き方・働かせ方と健康・病気 (石川ひろの)
  A 働き方と働かせ方
  B 働き方・働かせ方による健康への影響
  C 健康に影響を与える職場の要因
  D 仕事と生活の調和
 
第3部 保健医療における行為・関係・組織・制度
 第9章 健康行動・病気行動と病経験 (石川ひろの)
  A 健康行動と病気行動
  B 病経験
  C 病の語り
  D ヘルスリテラシー
 
 第10章 患者-医療者関係とコミュニケーション (石川ひろの)
  A コミュニケーション
  B 患者-医療者関係のモデルとコミュニケーション
  C わが国の患者-医療者関係とコミュニケーションの特徴
  D 患者アドボカシー
  E 患者と医療者の協働
 
 第11章 保健医療福祉専門職とアクター (佐々木洋子)
  A 保健医療福祉関連職のなりたち
  B 保健医療福祉関連職をみる視点としての専門職論
  C 看護職論の現在
  D 対人的サービス提供者としての保健医療福祉関連職とアクター
 
 第12章 性・ジェンダー・家族と保健医療 (石川ひろの)
  A 性別と性差
  B ジェンダーとケア役割
  C ジェンダーと健康
  D 結婚と家族
  E 保健医療からみた結婚と家族
  F 男女共同参画社会の形成に向けた取り組み
 
 第13章 地域社会と保健医療 (石川ひろの)
  A 地域とコミュニティ
  B ソーシャルサポートと社会関係資本
  C 地域におけるヘルスプロモーション
  D 地域の保健力
  E ノーマライゼーションと地域
 
 第14章 保健医療福祉システムと現代的変化 (佐々木洋子)
  A 福祉国家と社会保障制度
  B 医療システムの制度と現代的変化
  C わが国の保健医療福祉システムの変容
  D わが国の保健医療福祉システムの課題
 
 第15章 ケアの社会学 (井口高志)
  A ケアの社会学と対象領域
  B ケアの社会学の主要テーマ
  C ケアをめぐる現代的課題
 
索引
 

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